(2)



カカシの唇が、優しくイルカの顔に降る。
額、目蓋、鼻筋、頬、と下りてきたカカシの唇がイルカの唇に辿り着くと、より一層甘く啄ばんだ。
なんて気持ちいいんだろう。
イルカはうっとりとしながらカカシに身を委ねる。
躊躇うことなく入って来たカカシの舌が、ゆっくりと、味わうようにイルカの口腔を弄る。ぞくぞくとする震えがイルカの背中を走る。
フルリと小さく震えたイルカに、カカシが唇を離した。つう、と透明な糸が二人の口を繋ぐ。

「嫌ですか、イルカ先生。」切なげに揺れるカカシの瞳が、否定の返事をイルカに強請る。

イルカはブンブンと思いきり頭を横に振った。

「い、嫌じゃないです...」

それどころか、気持ちいい。もっとカカシの唇を感じていたかった。キスしたいと思っていたのは自分のほうなのだから。
そんな自分の気持ちにイルカはカーッと顔を赤らめた。

「こ、こういう、恋人同士...みたいなこと、したい、って思ってましたから。だから、」嬉しいです。

明後日の方向を向いて、もごもごとと呟くイルカに、カカシの熱が急速に跳ね上がる。ぐい、とイルカの顔を正面に向かせると、貪るようにイルカの唇に吸い付いた。その間も惜しむように、カカシの右手がイルカの上着の中に滑りこみ、乳首を摘んだり捏ねたり、自由に玩ぶ。
性急過ぎる行為にイルカの頭は恐慌をきたしていたが、身体はそれを嘲笑うかのように、甘く、貪欲に反応した。
イルカの下半身が熱く疼き、興奮の形をとり始めていた。そんなイルカの反応を見逃すまいと、カカシは濡れた瞳で覗きこみながら、片手をイルカのズボンの中に忍びこませた。

「!...ン、はぁっ...!」下半身に施される直接的な刺激に、イルカの背中が大きくしなった。

「可愛い、イルカ先生。」チュ、と耳朶に吸い付きながら、カカシがうっとりと囁く。

そうしながらも片手はイルカ自身を絶え間なくゆるゆると扱き、時々イルカの反応を確かめるように汁で滲む先端をグリグリと抉る。

「ま、待って、アッ..フ...や、待って、くだ....んん!」まさかそこまでされると思っていなかったイルカが、焦ってカカシの手を押し止めようとするが、その度毎に強く扱かれ、イルカは言葉を続けることが出来ずにただビクビクと体を震わせた。

「イルカ先生、気持ちいいんですね。ほら、もうこんなにヌルヌルさせて。」嬉しい。露骨にそんなことを囁かれて、イルカは恥ずかしさのあまり卒倒寸前だった。目尻にじわりと涙が浮かぶ。

「泣かないで。ああ、もう、そんな顔されると、本当に歯止めが利かなくなっちゃいますから。」カカシがだらしなく頬を緩ませる。

カカシはイルカの目尻にたまった涙をペロリと舐め取ると、そのまま頭をツーッと下へ移動させた。何をするんだろう。その振る舞いの意味が分らなかったイルカがボンヤリ眺めていると、カカシが無造作にイルカのズボンを下げた。下着ごと。

え。
「ええーーーーーっ!?」イルカが叫んだ時には、もうカカシに咥えられていた。ねろ、といやらしくカカシの舌がイルカを舐る。
「や、やぁっ、ちょっとカカシ先生、そんなっ、き、汚いッ...!」今までそんなところを舐められた経験は、イルカにはなかった。勿論、イルカもそんなことはしたことがない。そういった愛撫の方法があることは知っていたが、自分とは無縁だと思っていた。そこまで快楽を求めるほど、性に執着はなかった。イルカは淡白なほうだったのである。それに羞恥の気持ちが快楽より強く、性に溺れて取り乱すような事はなかったのだ。それなのに。

離れようとするイルカの腰を押さえつけて、カカシはより深くイルカ自身を咥えこんだ。ぬちゅ、ちゅっ....淫らな水音を立ててカカシの頭が前後に動く。喉の奥まで咥えては、またそれを口先まで戻して、きつく吸った。凄い刺激だった。経験の浅いイルカはああっと呻いて、すぐに前を弾けさせた。カカシが躊躇うことなくそれを受け止め嚥下する。
はあはあと荒い息を吐きながらイルカが力なく四肢を投げ出すと、遠慮会釈なくカカシがのしかかってきた。

「俺も、恋人同士みたいなこと、ずっとしたかったんです。」そう言いながら、カカシの指は怪しい動きをみせる。

「イルカ先生も同じだったなんて、俺も嬉しいです。」イルカは後にあてがわれたカカシの指の感触に、身を竦めた。

ちがう、違うだろ....イルカは心の中で叫んだ。カカシと自分との、恋人同士みたいなことに関する認識に大きな齟齬があることを諫言してやりたい。でも今は。この切なげな目をする人に伝えたい。

「好きです、カカシ先生。」イルカはカカシの首に自分の震える腕を回した。





傍らに眠るイルカの髪を撫でてその存在を確かめながら、それでもカカシはその幸福を信じられないでいた。
触れていないと、消えてしまいそうな錯覚に苦笑する。
あの後、何度もイルカを貫いた。何度も揺さぶり、何度もイルカの中に出した。
何回も何回もこの腕の中に抱いて、確かめたかった。
イルカは誰にでも優しい。求めれば誰にでも容易くその傍らを差し出すのだ。俺にでも。
知っていたから、求めずにいようと思った。傍らにいることは許してくれても、決してその懐には入れてくれない、残酷な人。
それなのにあの日。
よく晴れた初夏の日差しの中で。あの人が俺に手を振ったのだ。遠くから俺に手を。
だから俺は錯覚してしまったのだ。
日の光りが眩しかった。あの目も眩む程明るい場所であなたが俺を待っていてくれる。俺を呼んでくれていると。
だから告げるつもりのなかった気持ちを口に出してしまった。
わかっていたのに。錯覚してしまった。
それでも。
あなたの傍らは居心地がよくて。離れられなくて。期待して失望して期待して失望して。疲れてしまって。
諦めようとしてたのに。

「イルカ...」

その言葉事体に大事な意味があるかのように、そうっと呟くと、カカシはイルカの髪に口付けを落とした。


輝く場所を、カカシは手に入れた。




                          終

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