「歌を歌おう」連載第13回

え、え?....えええぇぇぇ〜〜〜〜〜っっっ!?
なっ、何...俺だきっ...抱き締められ...て...っ!※●△≧〓....っっっ!?

イルカはカカシに突然抱き締められた驚きに、心の中で言葉にならない叫びを上げた。反射的に逃れようとしたイルカを、カカシの腕が逃がすまいとするかのように、より一層きつく強く抱き締める。イルカの首筋にカカシの熱い吐息を感じて、イルカは大パニックに陥った。瞬時に頭に上った血が、イルカの顔をこれ以上がない位赤くしていた。心臓はどくどくと脈打ち煩いくらいだ。

「カッ....カカシ先生...っ!?あ、あのっ...」と妙に上ずった声でようやくその動揺をカカシに伝えると、カカシは少しだけ腕の拘束を緩めてイルカの首筋から顔を上げた。
至近距離でイルカの瞳を覗き込むカカシに、恥ずかしくて目をそらしたいと思うのにイルカは目をそらすことが出来なかった。カカシは徐に自分の口布に指をかけると、くいっと下に引き下げた。露になった形のよい鼻梁と薄い唇に、イルカの目は瞬間羞恥も遠慮も忘れて釘付けになった。

カ、カカシ先生ってすごく端正な顔をしてたんだな...

そんなことに感心していたため、イルカは反応が遅れてしまった。お互い視線を合わせたまま、気がつくと近付いて来たカカシの唇がイルカの唇に重ねられていた。その柔らかく暖かな感触に、イルカはハッと突然覚醒した。だが、その時にはもうカカシの舌がイルカの口に侵入していた。カカシの舌が逃げるイルカの舌を捕らえていやらしい水音を立てる。

うわ...ちょっ....

カカシの深い口付けに、流石にこれは不味いだろうとイルカは遅れ馳せながらモガモガと抵抗を試みるのだが、カカシは一向にイルカを解放してくれる兆しがなかった。カカシがようやく唇を放してくれた時にはイルカの息はすっかり上がってしまっていた。
カカシに何か言わなければと思うのに、何から言葉にしたらいいのか。イルカが茫然としているとカカシは歌うように言った。激しい口付けの後とは思われない、呑気な声だった。

「俺ね〜、クリスマスって祝ったことがないんです。」

....は?

脈絡のない話の飛躍にイルカは着いて行けなかった。クリスマスって...一体今何故そんな事を...そんな場合じゃないだろ、とイルカは混乱する頭の片隅で突っ込みをいれた。第一唇は解放されたものの、まだ腕の拘束は解かれていないのだ。これをどう説明するつもりなのか?

「カ、カカシ先生、あの...」口を挟もうとするイルカに構わずカカシは先を続けた。

「クリスマスっていうものがあること事体知らなかったんです。6歳の頃から戦場にいましたからね。だからプレゼントも貰ったことがないんですよ。思えば可哀想な子供でしたよねぇ。強請るって事も知らなかったんですから。」

カカシは遠い過去を思い出していた。

一度だけ、一緒にクリスマスを祝おうと言われたことがあった。
プレゼントは何がいい?と訊かれた事があった。
楽しみにしていた、とても。それを口に出して言うことは無かったけれど。

二人がいなくなって。
もうクリスマスという日を、祝うことはないと思っていた。
そんな気持ちになることも。

カカシは笑みさえ浮かべながら淡々と切ない事実を語るので、イルカは胸が詰まって自分の言葉を続けることができなくなってしまった。イルカが黙ってカカシをじっと見つめると、カカシは三日月の形に目を眇めて笑顔を浮かべた。少年のように無防備な笑顔だった。イルカがその笑顔に見惚れてぼんやりしていると、カカシが有無を言わさぬ口調で高らかに言った。

「だからね、クリスマスを祝ってください。」

一瞬意味が分からずイルカは目を瞬かせた。

....はぁ?

「あんたと一緒にクリスマスを過ごしたくなりました。初めてのクリスマスをあんたと祝いたい。」

俺と一緒に祝って?

カカシが甘い笑顔で強請る。

イルカは混乱する頭を高速回転させて、カカシのその言葉の意味を考えていた。

キ、キスした上、ク、クリスマスを一緒に...って..まるで恋人同士みたいな...って、
まさかカカシ先生、俺のことが好き...なのか?
だとしたら、安易に頷いちゃいけないんじゃないのか?
というか、カカシ先生の順番は滅茶苦茶だ....!

カカシは固まるイルカの鼻先にチュッと軽い口付けを落とすと、もう病院に戻りますね、と窓際にひらりとその身を翻した。
イルカがようやくハッと正気に戻って、カカシ先生、と叫びながら慌てて窓際に駆寄った時には、カカシの姿はもう見えなくなっていた。イルカは脱力して、思わずその場にヘナヘナと腰を落とした。

俺、まだ返事していないのに...!
カカシ先生、俺の返事はどうでもいいのか....!?

病院まで追いかけていって怒鳴り込みたい気分だったが、返事を詰寄られても困る。まだどうしたらいいのか分からないのだ。
カカシのことは嫌いではない。寧ろ好きなのだが。その好きというのはカカシと同じ好きなのか。今一つ自信がない。
イルカは突然カカシの唇の感触を思い出して、ボッと顔を赤くした。

俺は嫌だったのか。
嫌じゃなかったのか。

「あ〜、どうしたらいいんだ...?」イルカは赤くなった顔を手のひらで擦りながら独り言ちた。

クリスマスはもう明後日だった。


つづく

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