【SNOW WHITE】






「寒いで〜すねぇ…」
 カカシはそう呟きながら、窓辺に佇んでいるイルカにそっと近付く。
 未だ暖炉に火を入れたばかりの部屋は空気が温まってはおらず、吐き出す息が白くなる程だ。
 そんな中、カカシはイルカの背後で立ち止まると。
「ねぇ、イルカ先生は寒くないの?」
 そう、優しく囁きかける。
 そんなカカシの言葉に、イルカは振り向く事もなく窓の外を見詰めたままで。
「…そう…ですね……。流石にちょっと寒い…ですね…」
 そう、小さく呟いた。
 そんなイルカの、少し恥ずかしがっているかのような態度に、カカシは口許に笑みを浮かべる。
 付き合うようになって、初めて迎えたクリスマスイブの夜。
 せっかくだから…とカカシは前々から画策して、里の外れの温泉郷の一角にある小さなロッジを、イルカに内緒で借りていたのだ。
 仕事が終わったイルカを、カカシはそのまま攫うように此処まで連れてきた。
 此処まで連れて来られて、初めてイルカはこんな場所を借りていたという事を知ったのである。
 こういった場所で、あからさまに二人っきりで一晩過ごすというのを意識させられたイルカは、恥ずかしがっているのかさっきからずっとカカシと目を合わせようとはしない。
 そんなイルカを懐柔するのも、カカシにとっては楽しい事。
 最後にはちゃんと自分の腕の中に落ちて来てくれる事を理解っているから、その過程も楽しめるのだ。
「じゃあさ…」
 カカシはイルカの背後からそっと腕を回して、きゅう…と決して細くはない身体を抱き締める。
「こうしてれば…寒くないでしょ?」
 耳元でそう囁かれたイルカは、カカシの吐息が耳を擽った事でビクリと身体を震わせた。
 だが、そんな彼の身体の震えを、カカシは態と違う意味に受けとって。
「なに? まだ寒いの? イルカせんせ?」
 そんな風に言葉を続ける。
 しかし、理解っていながらも態とそんなふざけた事を言うカカシを無視するように、イルカは頑なにただ静かに窓の外を見詰め続けた。
 あまりにもつれない態度。
 けれど、いつもならしつこく絡んでいればすぐに邪険にされるのに、今日はそうされないところを見ると、寒いだけでなくどうやら自分の腕の中は居心地がいいらしい…と、カカシは勝手な判断を付けてしまう。
 こうして抱き締めても腕の中から逃げてはいかない事が、イルカの正直な気持ちを表しているから。
 そんな些細な事にすら嬉しさを感じて。


 ホント、可愛いヒト……。


 カカシはそんな言葉を胸の内だけで呟いて、うっそりと笑みを浮かべた。
 それから、少し紅くなった耳元に口唇を近づけて、甘い声で囁く。
「オレは…凄く暖かいで〜すよ? こうしてイルカ先生が側にいてくれれば…ね…」
「…カカシ…さん……」
「でもね、もっともっと暖かくなる方法…あるんだけど?」
 カカシはそう言うと、腕の中のイルカの身体をゆっくりと反転させた。
 そうすれば、漸くイルカの顔を正面から見る事が出来て。
 そのまま辛抱強く待っていれば、ゆるりとイルカの視線がカカシの双眸へと向けられる。
 此処に来て初めて見た、漆黒の双眸。
 闇のように真っ黒な瞳なのに、温かさが感じられる綺麗な双眸。
 その瞳が濡れると、更に美しさを増す事を       カカシは知っている。
 「イルカせんせ…」
 カカシはイルカの漆黒の瞳を見詰めたまま、ゆっくりと顔を近づけた。


 そして      二人の口唇が静かに重なった。







 窓の外では、静かに教会の鐘の音が鳴り響く中、チラチラと雪が舞い降りて来ていた。
 しかし、その光景を今二人が目にすることは       なかった。










     **********










「アッ、んん…、は、ああ…んっ…」
 甘い喘ぎが部屋の中に響き渡る。
 イルカはカカシにしがみつきながらも、彼の腰が刻むリズムに合わせて腰を揺らし、より強い悦楽を得ようとしていた。
「イルカせんせ…っ…」
 カカシの方も、そんなイルカに応えるように動きに変化をつけながら、次第に強く突き上げていく。
 さっきまでの冷気は部屋の中から消え、今は二人の生み出した熱が部屋の中に篭っていた。
 そして。
 淫靡な空気も部屋の中に満ちていく        
「はっ、んぁっ、…ぁ…、も、…や、カカ…、さ…っ…、あぁ…ッ…」
 イルカの息遣いが忙しなくなり、カカシの背に回された手が爪を立てる。
 チリ…と感じた痛みにカカシは僅かに眉を顰めるが、そんな痛みなど気にもならない。
 そんな事よりも、イルカの身体から齎される悦楽の方が、何十倍も強いからだ。
 ただ、そんなイルカの様子から、もう絶頂も近いことを察したカカシは、喘ぎを上げ続けるイルカの紅い口唇を己のそれで塞いだ。
 腰の律動を止めないままで、濃厚な口接けを交わす。
 舌を絡め合い、互いの口腔を存分に貪る。
 そして、イルカが満足して舌を引っ込めれば、カカシの方も深追いはせず、口唇を開放した。
 途端に洩れる、甘い嬌声        
「あっ、んぁっ、あっ、カ、カシっ、さ…ッ…、ん、あぁぁ…っ…」
 イルカのしなやかな脚がカカシの腰に絡みついて、カカシからの強い刺激を強請る。
 そんな仕草に、カカシは口許に笑みを浮かべると。
「イルカ…っ…」
 カカシは彼の望むままに、一際強い突き上げを繰り返した。
 その刹那。
「ア、あぁぁぁぁぁぁぁ           っ・・・・・・」
 イルカは甲高い嬌声を上げて、欲望を解き放ち。
 白濁としたイルカの雫が、自分自身の身体とカカシの身体に白い文様を描いた。
 イルカが絶頂へと駆け上ったと同時に、彼の奥深くへと突き入れていたカカシの熱い楔が周りの柔かな粘膜にきつく締め付けられる。
 そして。
「くぅ……っ…」
 くぐもった呻き声がカカシの口から洩れ、カカシの身体の中で燻っていた欲望の全てをイルカの身体の奥深い所へと叩き付けていた。
 ドクドクッ…と注ぎ込まれる、熱い精。
 体内で直接感じるその感触にも、イルカの官能が擽られ。
「ぁ…ぁ……」
 はふはふと忙しない呼吸の中で小さな声を上げながら、イルカは更に小さな絶頂を迎えた。
 カカシはそんなイルカの身体を小刻みに揺さぶって全てを吐き出すと、ゆっくりと彼の身体の上に己の身体を重ねて行く。
 そして。
 荒い呼吸を繰り返す紅い口唇へと、優しく労わるようなキスを落とした。










 呼吸が整ってくるまでただ身体を重ねていただけだった二人は、どちらからともなく口接けをし始める。
 まだ、足りない…と、身体が訴えているのだ。
 カカシだけでなく、イルカの方も。
 啄むような口接けを繰り返している中、不意にカカシがその口接けを止めた。
「イルカせんせ…」
 カカシの声に促されて、イルカがゆっくりと瞼を開いて行けば、色違いの二つの瞳が静かに見つめていて。
 その奥に、まだ消えることのない熱い焔が燃え盛っているのを見て、イルカは悦楽に痺れている腕をカカシの首へと回して引き寄せると、先ほどまでとは違って深く口唇を重ねる。
 口唇を大きく開けば、遠慮のない舌が直ぐに潜りこんできて、イルカの舌に絡みついた。
「ん、…んぁ、んん…っ…」
 甘い吐息が合わさった口唇の狭間から零れ落ちていく。
 そんな声すらも、カカシとイルカのそれぞれの官能を煽る要因だ。
 次第に激しくなって行く口接けに、互いの身体の熱も瞬く間に再燃した。
「イルカせんせ…」
 カカシの情欲に濡れた声は、その先の行為を促していて。
 イルカはそんな声にすら感じて、ビクリ…と身体を震わせる。
 そして。
 カカシを迎え入れるように両の脚を大きく開くと       カカシの腰にその脚を絡ませた。
 そんなイルカの仕草に、カカシが煽られない筈もなく…。
 カカシはそんなイルカの腰を抱え上げると、再び熱く勃ち上がった自身の先端を、先の行為で濡れている彼の小さな蕾へと押し当てた。
 熱いカカシの昂ぶりに、イルカの身体がブルリと震える。
「カ…カシ、さ……ッ…」
 イルカがギュッとカカシの首にしがみついたと同時に、その熱い楔が侵入を始めて。
 カカシの残滓で濡れたそこは、殆ど苦もなく太い楔を飲み込んでいく。
「あ、…ん、カカ…、さ…っ…、んふ…ぁ……ッ…」
 灼熱の楔が、徐々に姿を消して行き        
 熱い楔の感触に、イルカの身体は歓喜の声を上げる。
 と同時に、イルカの敏感な内壁は、新たな刺激を求めて熱く脈打つ楔に絡みついていく。
「イルカ、せんせ…ッ…」
 カカシは熱い息を吐き出しながら、カカシはイルカのナカが絡みついてくる感触を楽しむ。
 自分が動くまでも無く得られる悦楽。
 それだけでも、カカシの身体の熱は煽られるのだ。
 だが。
 カカシが動かない事によって焦れるのはイルカの方で…。
 一度絶頂を迎えている身体は、強い刺激を欲して蠢き始めてしまう。
「や、カカシさ…っ…」
 甘い声で名前を呼んで、強請るように腰を揺らすイルカの嬌態に、カカシはクスリと笑みを零す。
 そんなカカシの様子に、まるで焦らされているように感じたイルカは震える声で訴えた。
「い…加減、に…っ…、して、下さ……ッ…」
 しかし、こんな状態で抗議の声を上げられたとて、それは何の効力も持たないただの睦言と化してしまうのだと、イルカは理解ってはいなかったけれど。
 カカシはもう一度今度は種類の違う笑みを浮かべると、そっと上体を屈めて口接けた。
「そんなに…オレが欲しい?」
 そんな言葉を囁けば、キッと睨みつけるような眼差しが向けられるが、それでもすぐにトロリと蕩けて。
「……バカ…ッ…」
 可愛らしい文句と共に、荒々しく貪るような口接けがイルカの方から齎された。




 互いに満足するまで口接けを続けた後。
 イルカの官能に彩られた声を聞きながら、カカシは次第に腰の律動を激しくして行った。










 その後。
 二人の饗宴は       互いの欲望の赴くままに続けられた。










     **********










「イルカせんせ…」
 尽きない欲望に何度も繰り返された情事の後、ウトウトと眠りに落ちようとしていたイルカの耳に、優しくて甘い声が届いた。
 その声に重たい瞼をゆっくりと開いたイルカは、カカシの指差す方へとゆるりと視線を向ける。
 そうすれば、視線の先にあるうっすらと曇った窓の外に、チラチラと天から落ちてくる白いものが見えて…。
「…雪……ですか…?」
「そ。なんかロマンティックですよねぇ…。クリスマスに雪…なんて」
「…クリスマス……?」
「あれ? イルカせんせ、今日がクリスマスイブだって事、もしかして…忘れてた?」
 カカシがそんな風に尋ねれば、イルカは眼差しを揺らした後で小さくため息を零した。
「…そう…ですか……。今日はクリスマスイブだったんですね…。それで…こんな所に……」
 小さい声でそう呟いたイルカが、本当にクリスマスという事を意識していなかったらしい事が伺えて、そういう所もイルカらしいな…とカカシは密かに苦笑を零す。
 それでも、カカシにとってもクリスマスなんていうのは口実の一つだったから、別に彼が覚えてなかろうが気にはならない。
 こうして自分の側にいてくれる。
 カカシは、その事実に満足していたから。
「何にもプレゼントはないんですけ〜どね…」
 カカシはそう言うと、腕の中のイルカに覆い被さるように体勢を変えて、彼の額に口接けを落とした。
 そして。
「メリークリスマス、イルカせんせ…」
 耳元に口唇を寄せて、そんな囁きを贈る。
 その声に、イルカは言葉もなく無言でフイ…と顔を背けるが、それはカカシから見れば照れているのが見え見えの仕草だ。
 そんなイルカの様子にクスリ…と小さく笑みを零してしまえば、その小さな笑いに抗議するような眼差しがカカシの方へと戻された。
 その目許はほんのりと紅く染まっていて、情事の後という事も相俟って妙に色っぽい。
 カカシがそんなイルカの表情に見惚れていると、不意にイルカの手がカカシへと伸ばされて、銀糸の髪に指を絡めたのだ。
 そして、その指は自らの方へと引き寄せるようにカカシの髪を引っ張った。
 そうされた事によって、カカシの身体がイルカの身体に密着するような形になる。
「イルカ…せんせ?」
 どうしたのかと伺うように声を紡げば、更にイルカの手に頭を引き寄せられた。
 そうすれば、自然とイルカの口唇がカカシの耳元に寄せられて……。
         
 カカシはその言葉に一瞬目を見開くが、それはすぐに幸せそうな笑みへと変わった。
「ありがと、イルカせんせ…」
 イルカにそう言葉を返すと、カカシは彼の身体をしっかりと腕の中へと抱き込んでしまう。
 そして。
「来年の今日も…こうして一緒にいましょうね……」
 そう、イルカに告げた。
 互いに忍である限り、はっきりとした未来の約束などしても、それが叶えられるかどうかは判らない。
 けれど、叶うかどうか判らないから約束をしないのではなく、叶えられるように生きていく為に約束をするのだ。
 だから、事ある毎にカカシはイルカと約束を交わしている。
 カカシのその言葉に対するイルカの返事はなかったが、しかし密着した肌にイルカが微かに頷いたのが感じられて。
 そんなイルカの仕草にカカシは笑みを浮かべると、暖かな身体を抱き締めたままゆっくりと瞼を閉じた。










 窓の外では、止む事無く降り続いている雪が、辺り一面の景色を銀世界へと変えていった。














≪ SNOW WHITE ≫ 了

Celestial Moonの本庄美琴さんから素敵浪漫ちっくなクリスマスSSを頂きました!
美琴さんが書かれるカカイルはいつもラブラブで頬が緩みます。クリスマスHにも頬が緩…(殴)。
いつも素敵な作品をありがとうございます。私にとって何よりのクリスマスプレゼントになりました。
美琴さんの幸せいっぱいの作品が読めるサイトはこちらからどうぞ→