夕暮れに君が、笑う


「カカシ先生、夕陽がとても綺麗ですね!」

沈む夕陽が西の空に赤々と燃えている。その光りを受けて、イルカの頬が林檎のように輝いて見える。

「明日はきっと晴れですね!」

そんな他愛の無いことにはしゃいで、イルカが笑う。

「そうですね。」

頷きながらカカシも笑う。

イルカが笑う。
それだけで。
たった、それだけのことで。
嫌いだった夕暮れが途端に優しいものに変わる。
イルカがくれる、泣きたくなるようなぬくもりに似た、とても暖かい色に。


カカシは夕暮れが嫌いだった。
いつも。
夕暮れに染まる空を見上げながら、また今日も生き延びてしまったことを嘆き、また全てが始まる朝が来るのを怖れる。
血の色にも似た黄昏時の空が、夜の闇の訪れと共に一日の終焉を迎えるように、暮れる夕陽と共に世界が終わってくれることを願った。
全ての息吹を奪ってくれるように。
カカシにとって、明日は何の意味も持たなかった。

でも今は。

夕陽を浴びて、イルカが笑う。夕陽が綺麗だとイルカが笑うから。
カカシも夕陽が綺麗だと思う。
明日もこの夕暮れを見れたらいいと思う。イルカと一緒に。

カカシはたまらない気持ちになって、イルカを抱き寄せ甘い口付けを落とした。
「カ、カカシ先生っ、」何するんですか、こんな往来で、と夕陽で赤い顔をますます赤くさせながら、イルカが怒ったように言う。
それすらも全て愛しく、全て切なく、カカシは胸が痛い。


夕暮れに君が笑う。

君が、笑うから。


                           終

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