螺子を巻く儀式の前に


殺し過ぎたかな。

今回の任務を省みてカカシは思った。

そうだな。俺は殺し過ぎた。


戦いにおいて、カカシは自分を発条仕掛けの機械人形のようだと思う。
その心に何の感情も持たないまま、武器を振り翳しては、切り裂く。振り翳しては、切り裂く。同じ事を繰り返す。螺子が切れるまで。
そして、螺子の切れた後の自分はポンコツだとカカシは思う。
あちこちから部品が抜け落ち、故障した箇所からは黒煙があがる。

その度に、自分はもう壊れているのだと思い知る。
修繕の施しようが無いほどに。

だがそこに赦しは無く、またカカシは螺子を巻かれる。切れたら巻かれ、切れたら巻かれ。
本当に自分の体が分解して、動かなくなるまで。
螺子は巻かれ続けるのだ。

今回俺は必要以上に殺し過ぎたから、故障した箇所が増えてしまったようだ。ああ、また鉄屑に一歩近付いてしまった。

思いながら、踏み締める足元が崩れ落ちていく。ぱっくりと口を開けた、深淵なる闇へと。
カカシは思わず目を瞑った。
目蓋の裏に柔らかい笑顔が浮かんだ。




「お帰りなさい、カカシ先生。」

イルカはいつものようにカカシを迎え入れた。柔らかな笑顔で。
カカシは血みどろで酷い有様だったが、それを理由に家に上がるのを拒まれたことは無かった。カカシがどんな酷い格好で現れても、イルカは柔らかな笑顔でそれを迎え、汚れるのも厭わず、優しく抱擁してくれる。任務ご苦労様でした、と。
そしてお互い汚れてしまった時は、そのまま一緒に風呂に入るのが決まりのようになっていた。
だから今日もそのまま風呂場へと直行する。
カカシは全然待たなかった。風呂場へと移動する間も惜しむように、イルカの唇に自分の唇を重ねた。途端に自分の冷たい唇に熱が篭る。機械の体が人間のものへと変化していく。その熱の心地良さにカカシは夢中になった。風呂場に着く頃には、啄ばむようだった口付けが、唾液が口の端から零れ落ちるほど激しく深いものになっていた。
お互いの服を脱がせ合いながらも、カカシはイルカを愛撫する手を止めなかった。脇腹から腋、鎖骨、肩、二の腕、とイルカのあらゆる場所を手のひらで撫でまわす。イルカに触れれば触れるほど、カカシの体に熱が甦った。全てを脱ぎ去ると縺れ合うように風呂場に雪崩れ込み、カカシは本格的に愛撫を始めた。止まらなかった。

「お風呂が、冷めちゃいます。」イルカは性急過ぎるカカシを窘めたが、やはり拒まなかった。

イルカを促して壁に手をつかせ足を大きく開かせると、カカシは跪いて双丘を押し広げ、その奥を舐った。その間も片方の手を前に回し、イルカの中心を擦り上げる。緩急をつけて扱いてやると、イルカが堪らず甘い声を漏らした。前の手を休めずに、カカシはもう片方の手の指を、イルカの中に潜りこませた。唾液で十分に濡らされたそこは、くちゅくちゅという淫らな音を立てて、カカシの指を嬉しげに呑み込んだ。指を増やして何度か抜き差ししているうちに、カカシは我慢できなくなった。

「イルカ先生...俺、もう我慢できない....まだ少し固いけど...ね、入れていい...?」

イルカの耳元で囁いて、ふくよかな耳朶を舐っては歯を立てた。イルカはカカシの方を見ないまま、了承の意味を込めてコクリと頷いた。カカシは急いで指を引きぬくと己のもので一気にイルカを貫いた。衝動のままに激しく揺さぶる。何処も彼処も熱かった。カカシの冷たい鉄屑同然だった体が今はもう完全に人間のものになっていた。

この人と一緒の時だけ、俺は人間でいられるのだ。
熱を感じていられるのだ。
空恐ろしいほどの激情までも。

気持ちいい。愛してる。イルカ先生。好き。あったかい。イルカ先生、イルカ先生....っ

揺さぶりながらうわ言のように繰り返す。どの言葉も自分の思いの全てを伝えてはくれない。

どうしてこんな人がいるのだろう。俺を人間に変えてしまう人が。
どうしてこんな人に会ってしまったんだろう。俺は壊れていくだけで、いつかこの人を手放さなくてはいけない時がやってくるのに。

愛しい。切ない。愛しい。苦しい。

でももう、愛することを止めることはできない。
いつかは終る夢だとしても。

だから今だけは。
柔らかな全てを抱きしめていたい。
分かち合える全てのものを分け合っていたい。
愛していると何度でも伝えたい。


俺が機械に戻ってしまうまで。

螺子を巻く、儀式の前に。



                      終
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