(3)

翌日カカシの率いる部隊とアスマの率いる部隊とに、二手に別れた。

「また後でな、カカシ。」別れ際アスマは、然もすぐ後に会うかのような調子で手をヒラヒラさせた。
既に背中を向けていたカカシは、無言のまま片手を上げてそれに答えた。

カカシは自分の部隊の面子にザッと目をやると、その顔を瞬時に記憶した。目の端に黒髪の括り髪が見えた。
カカシは表情の見えない面の下で、思い切り嫌な顔をした。

何もなきゃいいけど。

カカシを隊の先頭にして真中辺りに正規部隊の中忍を二人、一番後方にもう一人の暗部を配置して、その間に医療部隊の15人を挟みこむような形で戦列を整えると、カカシは早速出立した。第一の目標地点まで夕方までに辿り着き、そこで早めの休息を取るつもりだった。そして夜中にまた移動を開始する。その先からはなるべく日が落ちてから移動をするつもりだった。足場は悪くなるが、敵との接触の可能性がグッと減る。カカシの部隊のルートは地形が険しいというほどではないので、そんなに神経質になる必要はないだろう、とカカシは考えた。どうせ順調に行けば5日後には砂漠地帯を通過するのだ。その時は勿論夜間の移動になるのだから、今から慣れておいた方がいい。
第一地点までは何の問題もなく到着した。続く二日、三日目も無事に過ぎ、皆の緊張が緩み始めた頃、最初の脱落者が出た。道幅の狭い斜面を移動中、滑落したのだ。
滑落者が呑み込まれていった、眼下に広がる暗い森を見遣って、カカシは無理だと判断した。もう生きてはいまい。生きていたとしても虫の息だ。死体処理をするほどの忍でもなし。捜索を出すまでもない。

「足を止めるな。このまま進む。」

カカシの非情な言葉に医療部の者たちが戦慄した時、サッとひとつの影が動いたかと思うと、崖下に跳ぶようにして消えていった。瞬間、予想外の出来事に唖然としてしまったカカシだが、「そのまま隊列を崩さず、そこで待機!」と叫ぶとすぐにその影の後を追った。影の姿はイルカだったとカカシには分かった。イルカが命令を無視して隊列を離れた理由が分からなかった。抜けたくなったのか、それとも密通者なのか、いや唐突過ぎる。まさかと思うが、滑落者を助けに?そこまで考えて、カカシは首を横に振った。だとしたら正気の沙汰じゃない。
カカシはすぐに大気の乱れにイルカともう一人のチャクラを感じ取った。カカシが追いついた時には、そこには予想した通りの光景が広がっていた。ぐにゃりとおかしな方向に首や手足を曲げた遺体の前に、イルカは何やら跪いていた。

祈っているのか。

それを認めると、カカシは腹の中が煮え繰り返る思いだった。

「アンタね、」カカシは怒気を込めた声で言った。「命令違反は重罪だよ。」大した事ではないが、それは脅しだった。これからまたこのような事がないように、牽制のつもりだった。
イルカは怯んだ様子もなく、カカシに背を向けたままゆっくりと印を組んだ。次の瞬間、遺体を赤い炎が包んだ。轟々と燃える炎が遺体を灰に変えていくのを見届けると、イルカはカカシの方を振り返って、「申し訳ありませんでした。」と頭を下げた。だがその瞳には悔恨の色はなく、静かな中に確固たる強い意思が宿っているのが見て取れた。カカシは苛立ちが押さえきれなくなった。

「あんたは忍失格だ。」カカシは吐き捨てるように言った。侮蔑を込めて。

「あんたが勝手に隊列を離れたお蔭で、今仲間達は足場の悪い危険な場所で待機させられている。今襲われたらお終いだろうな。そうしたらあんたはどうするの?また遺体を荼毘に付して?神に祈りを?あんたはそれでいいかもしれないけど、他の奴らにはいい迷惑なんだよ!あんたのやってることは本末転倒だ。それを十分肝に命じておくんだね!」

イルカがキュッと唇を噛み締めて俯いた。

そうだ。そうやって少しは思い知るがいい。自分の思慮の浅さを。偽善を。愚劣さを。

カカシは隊列に戻るように、クイッと顎をしゃくって無言でイルカを促した。
のろのろと動き出すイルカを見ながら、カカシは罰してやろうと思った。命令を違反したのは事実なのだから。

もう二度と、こんな馬鹿な真似をしないように。
罰を与えなければ。



続く