(14)
カカシが夢中になって何度もイルカに口付けていると、その合間に、遂にイルカがクシュンとくしゃみを漏らした。カカシがハッと我に返って、ようやく唇を離してイルカを見ると、イルカの頭や肩に雪が積もって真っ白になっていた。イルカはズズッと鼻を啜りながら、恨みがましい目でカカシを見つめながら、「寒いです...」と小さく呟いた。その顔が紅葉を散らしたように赤い。
「ごめんね?」カカシは笑いながらイルカに積もった雪を払ってやった。
するとイルカも同じようにカカシに手を伸ばして、その頭の上の雪をポンポンと手で払い落とした。カカシはその手を掴んで、自分の唇に押し当てた。
「カカシさん...あの、」イルカが少し戸惑ったような声を上げる。
続きを言わせては駄目だとカカシは思った。イルカに嫌われてはいないことは分かっている。嫌っている奴にイルカはここまで許しはしない。だけどこの先の行為を許すまで、まだ心がついてきていないのだ。でも、もうカカシは我慢できなかった。そして我慢するつもりも無かった。
今、どうしてもイルカが欲しい。箍が外れてしまった。少しばかり、イルカが心を開いてくれただけで。
「拒まないで。」
カカシはイルカの手に何度も口付けながら言った。
「お願い。拒まないで、俺を。少しでも好きでいてくれるなら。」
多少好かれているところにつけこむ、卑怯な言葉だった。カカシは形振り構っていられない心境だった。イルカの手に何度も口付けながら、お願い、と哀れっぽく繰り返す。
イルカがこれ以上ないくらい顔を赤くして溜息をついて言った。
「少し、じゃないです....。」
その言葉の意味をはかり兼ねて、カカシは瞬間ポカンとした。そんなカカシの様子に、イルカはいよいよ観念したかのように、もう一度言った。
「すごく、好きです。」
「は、」思わずカカシは間の抜けた声を上げてしまった。そんな言葉、予想していなかった。だからその言葉の意味をすぐに理解できなかった。
好き。
イルカが、好きって。
すごく好きだって、俺のことを。
ようやくその言葉を理解すると、カカシの心が大袈裟なほど跳ねあがった。
たまらなかった。聞き間違いかと思った。
あまりの歓喜に動けないでいるカカシをどう思ったのか、イルカは少し困ったような顔をして笑って見せた。
その無防備な笑顔にカカシは胸が締めつけられる思いがした。
どんなにあんたのことを思っていたか知らないでしょ。
どんなにあんたのことを求めていたか知らないでしょ。
どんなにあんたのその言葉が俺の心を震わせるか、知らないでしょ?
今夜そのことを教えてあげる。
好きで好きで好きで。欲しくて欲しくて欲しくて。
やっと、手に入れた。
「俺も好き...イルカ...好き。」
カカシは切なく囁いてイルカを掻き抱いた。
続く