いつも真っ暗な中にいた。
己の醜さを隠してくれる闇に包まれ安堵しながら。
何処か心の片隅で夢見ていた。

その暗黒の世界に明りが燈ることを。
小さな灯火が自分を照らしてくれることを。

街燈の灯りを求める蛾のように。



月の無い夜も太陽が隠れた朝も

(1)



「医療部隊の海野イルカといいます。よろしくお願い致します。」

今日合流した医療部隊に属するその男は、そう言ってペコリと頭を下げた。その様子を他の奴らが戦々恐々と遠巻きに見つめる。

俺に挨拶するなんて、よっぽどの怖いもの知らずか、よっぽどの馬鹿か、そのどちらかだ。

カカシは目の前で善良そうな笑みを浮かべるその男を、面越しに冷ややかな目で見つめた。イルカと名乗った男は後者のようだった。答えるのも面倒だったので、カカシはイルカを無視した。
するとイルカは聞こえなかったと思ったのか、もう一度律儀に挨拶を繰り返した。
カカシはイルカの察しの悪さに辟易した。

面倒な奴がいるもんだ〜ね。

それでもカカシが黙っていると、イルカは戸惑ったように「あの...」とまた口を開きかけた。
何度も挨拶をされては敵わない。カカシは観念してようやく重い口を開いた。

「あんたさ、挨拶されても困るんだよね。俺達は暗部なんだから、名乗る名前も無いわけ。分かるデショ?」

馴れ合われても困るので、多少きつい調子で釘を刺す。
イルカはカカシを見据えたまま、その言葉をじっと聞いていた。そしておずおずと言った。

「勿論...分かっているんですが、その、これから暗部の方たちにお世話になるので、俺、じゃなくて私が挨拶をしておきたかったんです。あの...ご気分を害されたのなら、申し訳ありません。」

言い終わるとイルカはもう一度頭を下げて、そそくさとその場を去った。
残されたカカシはポカンとしていた。

今あの人、何て言った?
これからお世話になる?だから自分が挨拶しておきたかった?

何ソレ。


カカシは急に苛立ちを覚えた。カカシ達暗部の今回の任務のひとつは、イルカの所属する医療部隊の護衛だ。戦争の最前線にいる部隊の陣営まで、イルカ達を無事に送り届けねばならない。そして二つ目の任務は、その陣営の指揮者から戦争における裏同盟の密書を受け取り、それを各国に運ばねばならなかった。その目的地に着くまで最短で1週間はかかる。その間、あのイルカのような愚鈍な男と顔を合わさねばならないとは。

あの人、今から激戦区に赴くって事、ちゃんと分かってるのかな。

これから煩わしいことになりそうだ、とカカシは心中舌打ちした。


続く