恋文

「俺の気持ち・・・伝わっていますか?」

カカシの突然の神妙な言葉に、イルカはただでさえ滑る里芋の煮っころがしを、箸から取り落としそうになった。それを辛うじて取り押さえてイルカは徐に里芋を口に運んだ。もぎゅもぎゅと咀嚼しながら、カカシの言葉の意味を考える。

俺の気持ちって・・・何のことだろう。

考えながらも、また何か変な事を企んでるんじゃないだろうなあと嫌な予感がして、イルカは表情を暗くした。突然味をなくした里芋をごきゅりと飲み下しながら、自分の返事をじっと待つ、カカシの姿をまじまじと見つめる。

上忍はたけカカシ。ビンゴブックに名を連ねるまでの実力と、端正な甘いマスクを持つ男。天に二物を与えられた男は、しかし重大な欠陥を持っていた。

変態だったのである。しかも筋金入りの。

隣に越してきたカカシと済崩し的に体の関係を持つようになって、早1カ月。その間イルカの常識を遥かに超えたカカシとの強制コミュニケーションを経て、鈍いイルカも学習するということを覚えたのだ。 カカシの質問の意図は分からない。しかしそれがよくない出来事への序曲だということは身に沁みて分かっていた。
背中をツーと冷や汗が流れるのを感じながら、イルカは出来るだけ和やかな調子で言った。

「カカシ先生の気持ちって、何の事ですか?」

 このまま何があってもすっとぼけろ、シラを切り通すのだ!相手のペースに乗っちゃ駄目だ!

イルカは内心自分を叱咤激励した。
イルカの言葉に瞬間カカシは驚いたような顔をし、次には落胆に肩をがっくり落とした。おまけに大きな溜息までも吐く。

「はあ〜。やっぱりイルカ先生には伝わってなかったんですねえ・・・・。俺、そんな気がしてました・・・・。でも訊くのが怖くて・・・・。だけどこんな状態は良くないですよね!?俺・・・俺・・・今日は勇気を出して伝えたいと思います!」

言い様、カカシは夕飯の乗った卓袱台をガッと端に寄せると、訳が分からず呆然としたままのイルカの肩をがしっと押さえつけた。

「俺の気持ち、聞いてください・・・!」

カカシのあまりに真剣な様子に気圧されて、イルカは何がなんだか分からないながらも、「聞くぐらいならいいか、」とこくこくと頷いて見せた。しかしイルカが幾ら待てど暮らせど、目の前のカカシはこれでもかというほど赤くした顔を俯けたまま、あーだのうーだの意味不明の言葉を繰り返し、身体をもじもじさせるばかりだ。

「あのー、カカシ先生・・・」決心がつくまで時間がかかるなら、夕飯の残りを食べてもいいかなとイルカが卓袱台にちらと視線を走らせると、カカシが突然がばりと顔を上げて言った。

「あ、あの・・・・やっぱり恥ずかしいんで・・・て、手紙でもいいですか・・・?」

手紙。

イルカはカカシの言葉に何処か拍子抜けすると同時に、安堵で胸が一杯になった。手紙なんてただの紙切れで、例え書いてある内容が変態風味だとしても大してダメージではない。

今回は俺の取り越し苦労かー。よかったよかった!

イルカは危険が回避された喜びに、心からの笑顔で言った。

「ええ、勿論いいですよ。」

自分の言葉がよからぬ事への幕開けとなるとは、気付きもしないで。

 

 

イルカは呆然としていた。何故こんな状況に陥っているのか、自分でも良く分からない。イルカは裸に剥かれて手首を縛られ、鴨居に吊り下げられていた。ご丁寧に足首も一纏めに縛られているので、イルカはもがけどもどうすることもできない。もがけばもがくほど、かえって手首の拘束はきつくなるようだった。

どうしてこんなことに・・・・。

数分前までは和やかに夕餉を囲んでいた証拠に、壁際に寄せられた卓袱台の上で温かみを残す味噌汁が、まだほわりと湯気を上げていた。そしてその横にはすでに前を猛らせた全裸の変態上忍。日常と非日常の見事なコラボレーションにイルカの悲哀はいや増した。

「な・・・なんでこんことするんですか・・・っ!?」

訊いてもきっと理解できるような返事は返ってこないと知りながら、それでもイルカは涙目でカカシを睨み付けた。するとカカシはまた驚いたように、「えぇっ?だってイルカ先生がいいって言ったじゃないですかあ〜。」と間の抜けた調子で答えた。

「俺がいつそんなこと・・・っ!俺がいいって言ったのはあんたが手紙を・・・」とそこまで言いかけて、イルカはカカシが手にしているものに気付いて、失った色を更に失わせた。

カ、カカシ先生が手に持っているのは・・・ま、まさか・・・

「て、手紙を書いても・・・い・・い・・・って・・・」言った。俺は。言ってしまったんだ!

小さくなるイルカの言葉尻をカカシが言葉を重ねて補強した。

「そう、手紙vv書いてもいいって言ったよね?今から早速書きたいと思います・・・・。イルカ先生、俺の気持ちを受け取って・・・!」

ああ、なんか緊張するなあ〜と恥ずかしげに頬を染めるカカシの手には、太い筆が握られていた。

 

「あ・・・っああ・・・っ、そ、そんなところ・・・や、やめ・・・はあっ・・・」

カカシの握る筆がイルカの肌の上を執拗に這いまわっていた。柔らかな筆先が強弱をつけてイルカの肌を撫で上げると、なんとも甘痒い痺れがぴりぴりとイルカの身体に走り、イルカの腰を重くした。その度毎にピクリと跳ねる体が、鴨居の下で心許なげに揺れる。

「イルカ先生、今俺がなんて書いたか分かりましたか〜?」

カカシは筆を止めると、ハアハア言いながら真剣な眼差しでイルカに問いかけた。

分かるかっつーの!!

イルカは内心叫びながらも、絶え間なく続く愛撫にも似た刺激に息も絶え絶えで、言葉にすることが出来ない。イルカのものはその刺激には固く張り詰めて、今やはしたない汁をしとどに溢れさせていた。こんな状態で肌の上に文字を書かれても、正確に辿る事なんて絶対に無理だった。それなのにカカシはやめる気配も無い。黙っているイルカに「分かりませんでした?しょうがないなあ〜じゃあ、もう一度書きますね?」と眉尻を下げて困ったように言う。

「や、やめ・・・!ふ・・・あ・・・っ!」

抵抗の言葉も虚しく筆の動きは再開し、またイルカの肌の上を怪しく滑る。さっきからずっとこれの繰り返しだった。始めのうちは真剣に言葉を書いていたカカシも、今や本当に文字を書いているのかさえ怪しい。「この文字には濁点がつきますよ〜」などと適当なことを言って、イルカの乳首の上に「てん、てん、と。」と執拗に筆先をてんてんさせるところが怪しい。更に「ここで一行が終わりです〜。」と言って、「まる、っと。」とイルカの中心の一番敏感な先っぽに、ぐりぐりとまるまるさせるところが怪しい。敏感になりすぎた肌は筆が齎す些細な快楽も拾い上げ、イルカは追い上げられていつの間にか、ヒックヒックとしゃくりあげていた。

こ、こんな変態プレイに感じているなんて・・・!

あまりの情けなさに目頭が熱くなった時、カカシが思いつめた声でまた訊いてきた。

「イ、イルカ先生っ、どうでした!?こ、今度はっ、分かりましたかっ!?」

詰め寄るカカシの瞳は欲に濡れてぎらぎらと輝き、乱れる吐息は獣めいていた。はっきり言って余裕が無い。それ以上にカカシの熱く滾る下半身もぱつぱつで、もっと逼迫していた。

俺の身体に筆で字を書いていただけで、こんなに興奮できるなんて・・・やっぱりこの人は本物だ・・・本物の変態だ・・・

うつろな目でイルカがカカシを見つめ返すと、カカシが突然絶叫した。

「すみません・・・イルカ先生っ、俺が・・・俺が間違ってました・・・・!!こんな筆なんかで気持ちが伝わるなんて・・・!!こんなんじゃ分かるはずないですよね!?やっぱり、やっぱり・・・一番いいのは太古から伝わる意思伝達の方法・・・ボディーランゲージですよねっっっ!?」

何じゃそりゃあああああああーーーーーー!!!!????

イルカの心の大絶叫がカカシに聞こえるはずもなく、ボディーランゲージと称してカカシはイルカの身体を好き放題にした。鴨居につるされた状態で、足の拘束だけ解かれて、後ろから抱え上げられて貫かれた。カカシの根元まで全部押し込まれた状態で、カカシはイルカの耳朶に甘く噛り付きながら熱い声で囁いた。

「それじゃ、今から俺のコレで、イルカ先生の中に文字を書きますから・・・vv分かったら口に出していってくださいね〜vv」

その言葉にイルカは快楽に喘ぎながらも、目が点になった。

それって尻文字・・・?いや○○○文字・・・?違う違う、突っ込みどころはそこじゃねえ!・・・っていうか、突っ込まれてるのは俺だけど・・・ああっ!!そうじゃなくて!!そんな、そんな文字が・・・・

「・・・分かるわけねえだろ〜〜〜〜〜〜っっっ!?」

ようやく口にすることが出来たイルカのその叫びは、しかし、「分かるまでやりますvv」という事も無げに告げられた恐ろしい言葉と同時に激しく打ち付けられる抽挿によって、あっという間にかき消されてしまった。カカシは激しく腰を振っては合間合間に腰を丸くゆすったりして、「今の文字、分かりました〜?」などと出鱈目な事を訊いてくる。勿論イルカには分かるはずもなくそんな余裕すらない。

いいところを擦られて「あ・・・ああ・・っ」とイルカが喘ぎを漏らせば、「そうです!!今の文字は【あ】です!ああっ、イルカ先生、やっとわかってくれたんですね〜〜〜!?次、次行きますよ!」とカカシが興奮して腰の動きを早くする。あまりに強引な抜き差しに後孔が引き攣れて、「い・・・・っいた・・・・」とイルカが苦痛にうめくと、またまたカカシが感激したように、「そうです、今のは【い】です!やっぱりボディーランゲージの方が伝わるんですね!それじゃ、次はイルカ先生!?」と調子付く。立て続けにイルカのいいところをぐりぐりと突き荒らされて、イルカは「ひあぁぁぁ・・・・っ」と一際高い嬌声を上げて、触れられてもいない前を弾けさせた。するとカカシは拗ねた様に「違いますよ〜イルカ先生。今のは【ひ】じゃありません。もう一度行きますよ?」と、吐精したばかりのまだひくつく敏感なイルカの身体を、更に突き上げて追い立てた。自分の中を責めと溶かす勢いでかき混ぜられて、過ぎる快楽にイルカは意識を飛ばしそうになる。

もう、勘弁してくれ・・・てめえ一人でマスかいてろ・・・この変態野郎め・・・!!

その心の叫びは途切れ途切れにイルカの口から零れ出た。

「・・・して・・・マス・・・・・め・・・」

するとカカシが「そうです、イルカ先生!!つ、伝わったんですね〜〜〜!?俺のっ、俺の思いがっ!!」と感極まった様子でぎゅうぎゅうと力一杯イルカを抱きしめた。その途端にぐぐっと奥まで潜り込んできたカカシのものが膨れ上がって破裂した。

「んん・・・っ!」イルカは熱いものに奥を濡らされる感触に背中を震わせた。カカシが満足そうに熱い息を漏らしてイルカの肩に甘く口付けを落とす。イルカが荒い息を整えながら肩に顔を乗せるカカシに胡乱な瞳を向けると、カカシが頬を染めてはにかんだように言った。

「【あいしてます】って伝えたかったんです・・・・」

わあー、言っちゃったと両手で顔を隠すカカシの姿は、繋がたっままの淫靡さからは程遠い、初心な少年のような恥ずかしがりようだった。その場にそぐわないことこの上ない。

「はああああ〜〜〜〜〜〜!?」何を今更・・・っていうか、それくらい口で言ってくれよ・・・いや、そんなことより恥ずかしいことを散々してるだろうが・・・!!

イルカは最早何処をどう突っ込んでいいのかさえ分からなかった。ただただ呆然としていると、「だってイルカ先生、好きとか言ってくれたこと無いじゃないですか・・・・。一度も無いじゃないですか・・・・。俺も恥ずかしくて、あんまり言ったことないし。だから俺の気持ちが伝わってないのかなあって・・・でも、口じゃなかなか言えなくて・・・すみません。」とカカシは悄々と言った。

そんなのおかしい。あんた変だよ。

言ってやりたいのに、何故かもうほだされかけている自分がいる。

はあ〜・・・俺もすっかり慣らされて・・・・

イルカはそんな自分の性分に涙しながらも、「わ・・・わかりましたから、も・・・ぬ、抜いてください・・・」とカカシに懇願すると、カカシがニッコリと笑って言った。とても無邪気な微笑だった。

「駄目ですよ、イルカ先生。俺が勇気を出して告白したんだから・・・イルカ先生も返事をください。ボディーランゲージで!」

ふざけんな!

イルカの心の中での即答は、自分の中でまた硬度を持ち始めるカカシの存在によって、声になることは無かった。

 

終わり