これぞ新婚!
「この味噌汁、おいしいですねえ!」
イルカは思わず感嘆の声を上げた。
その声に一週間前正式に結婚したばかりの人生の伴侶、はたけカカシが初々しい微笑を浮かべた。
「そうですか〜!?イルカ先生に褒められると、俺嬉しいです!!」
エプロンの端っこで赤くなる顔を隠すカカシは可愛らしい。可愛らしいけれど、捲られたエプロンの下からはそそり立つ可愛らしくないものが見えている。
そう、カカシは裸にエプロンといった格好だったのだ。
イルカは顔には微笑を浮かべながら、その映像に脳内で強制フィルターをかけた。
カカシ先生は服を着ている……エプロンの下は服なんだ…!!
真性の変態であるカカシを一生面倒見るために、イルカも自分なりの努力を日々惜しまない。何でそこまでと思うのだが、仕方がない。
この変態を好きなんだからなあ…
イルカはちょっぴり物悲しくなりながらも、いまや服を着ているように置換されたカカシに、
「カカシ先生の料理はいつも美味しいですけど、今日の味噌汁は取り分け美味いですよ…!何か特別なだしでも使ってるんですか?」
憂いを感じさせない満面の笑顔で尋ねた。
カカシはその言葉にいたく感激した様子で、
「やはりイルカ先生には分かっちゃうんですね…愛の力ですかねえ…?そうなんです、今日の味噌汁は特別製なんですvv」
もじもじとしながら畳に上にのの字を書くカカシを見詰めながら、へえ、特別製かあ、とイルカが味噌汁を飲み干そうとした瞬間。何かがお椀の底からぷかりと浮かび上がった。
「……?」
何だろう。
訝しい顔をしながら、イルカはその物体をしげしげと眺めた。眺めて。蒼白になった。
まままままままさか………!!!
嫌な予感に体を震わせるイルカの前で、カカシは邪気のない顔で言った。
「今日は味噌汁に愛のエッセンスを入れてみました〜!!」
「ああああああ、愛のエッセンスって……あんた、な、何入れたんだ―――――――――っっっ!?」
訊いたら計り知れないダメージを受けると分かっていても、訊かずにはいられなかった。
味噌汁にぷかりと浮かぶ、溶き卵の白身のような液体。だがそれが卵の白身でない事は明白だった。
すっかり顔色を失ったイルカとは反対に、カカシの顔はこれ以上もないほど朱に染まった。
「イルカ先生…み、みなまで言わせないでくださいよ…は、恥ずかしいじゃないですか…愛のエッセンスって…あんたがいつもおいしそうに飲んでる俺の……」
「わーわーわ―――――!!もういいです、それ以上言わないでください…!!」
イルカは耳を手で塞ぎながら、カカシの言葉を遮るように大声で叫んだ。カカシの変態振りには慣れたつもりでいたが、いつもカカシはより上を行く。
一体カカシ先生は何処まで変態なんだ…!?
イルカは恐れ戦きながらも、
どうせ入れるなら味噌漉しで濾すとか…
分からない様にして欲しかった…!!
それでいいのか自分!?と突っ込みたくなるようなことまで考えてしまう。あまりの狼狽に冷静な判断力を失っているようだった。イルカは目頭を熱くしながら、一生懸命吐き気と闘っていた。
吐いてはいけない…!!
吐かないで…にっこり笑って言うんだ…!
明日からの食卓の安全を確保するためにも…
イルカは目に涙を浮かべながらも、にっこりと笑って言った。
「カ…カカシ先生は勘違いしてます……お、俺は愛のエッセンスは混じりけのない、フレッシュなものが好きなんですよ……」
ううう……なんちゅう台詞だ、とまた涙を零しそうになりながらも、イルカはカカシに近付いて、エプロンを震える手で捲った。
「イイイイイ、イルカ先生……!?」
動揺した声を上げながらも、カカシの目が期待に満ちたいやらしいものに変わる。
イルカは既に硬くなっているその先端を、えいっとばかりに口に含んで、ちゅうっと啜り上げた。既に先端からあふれ出した、プラスチックの溶けたような味が口に広がる。
こんなの飲むのは好きではない、決して。
好きではないけど。
「俺はこうやって飲むのが好きなんですから…もう絶対、味噌汁やら料理には入れないでくださいね!!」
料理に混ぜられるよりはましだ……!!
欲とは違う感情に潤むイルカの瞳を勘違いして、カカシは熱い息を吐きながら、「俺は何て事を…!!」と後悔に満ちた顔をした。
「俺が間違ってました……!!そうですよね!イルカ先生はこうして味わう方が好きなんですよね…!!本当にごめんね、イルカ先生……」
お詫びにたっぷり好きなだけ飲んでくださいねvv
どうぞとばかりに猛ったそれを鼻先に突きつけられて、イルカは作戦が上手く行ったと、少しばかり安堵している自分に内心はらりと涙した。
「イルカ先生、朝ごはんの用意ができましたよvv」
翌朝例によって裸エプロンのカカシに起こされて、イルカは戦々恐々と食卓の前に座った。
本当にもう大丈夫かな……
「いただきます、」
言いながらイルカは箸で料理の中身を用心深く検分した。その姿を見てカカシがくすりと小さく笑った。
「大丈夫ですよ、イルカ先生。もう愛のエッセンスは入れてませんからvv」
「そ、そうですか……!!」
イルカは自分の捨て身の努力が実った事を、この時ほど喜ばしく思ったことはない。
良かった…本当に良かった…!!
涙ぐむイルカに向かって、カカシはすっくと立ち上がり、エプロンを捲って言った。
「だからイルカ先生も何時でも遠慮しないで、俺のを飲んでくださいね!!」
俺はいつでも大歓迎ですから!!
今朝も飲んで行きますか?
まるで栄養ドリンク飲んでいきますか?というような気軽さで言われ、イルカはヨロリとよろめいた。
の、飲みたくねえ……本当に好きなわけないだろーが!!ってゆーか、昨日散々飲んだし!!
怒鳴りつけてやりたいのに、嬉しそうに前を肌蹴るカカシの姿が何となく阿呆っぽくて可愛い。
あああ……俺って奴は……
イルカは阿呆は俺かと呟きながら、擦り寄ってくるカカシの口付けを受け止めた。
これぞ新婚だ!と自分に言い含めながら。
(終わり)