君よ抱き給え


「結局最後には、あんたなんですよ。」

呟くカカシの顔からは一切の表情が削げ落ちていた。

「木の葉丸もナルトも....最後はあんたに抱きしめてもらいたいんです。」

抱きしめて、大丈夫だよと慰めて欲しい。
まだそこに温もりがあるのだと安心させて欲しい。

「....あんたも抱きしめて欲しいんですか?」

そう言ってイルカは可笑しくもないのに薄く笑った。深い喪失感がイルカの顔に色濃い影を落としていた。


偉大なる忍三代目火影がこの世を去った。
苛烈なる忍の道を極めながら、深い愛情を忘れなかった男。
里を照らす雄々しくも優しい火は失われ、降りて来た闇に人々は足元さえ覚束無い。
木の葉の里は深い悲しみに満ちていた。


「いいえ。」

カカシは短く答えた。

「俺はあんたを慰めたいんです。」

カカシはイルカの顔をじっと見つめた。

「あんたと違って、俺の腕は人を殺すためのものだから誰もこの腕を欲しがらない。
でも他に思いつかなくて。こんな腕であんたを、」

抱きしめてもいいですか。

カカシが尋ねた。

「いつも強引なあんたらしくないですね....」

辛うじてそう答えるとイルカは顔を歪ませた。我慢していたものが迫り上がってきて叫んでしまいそうになる。
カカシの腕がイルカを包み込むように背中に回された。

ごめんね、とカカシが呟いた。

ごめんね、俺は満足な慰め方も知らない。

言いながら、イルカの背中を優しく撫でる。

イルカはカカシの身体にギュウとしがみついた。
カカシに告げたい言葉があるのに、溢れ出る涙と嗚咽で言葉にならない。

それだけでいいいのだ、と。
それだけで。

君よ、
その手を広げて。


          終
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