後編

風呂敷包みの荷物をすっかり片付けてしまうと、カカシは上機嫌で言った。

「それじゃあ、早速彼女とのデートの予行練習でもしてみますか!」

ええっ!とイルカは心の中で叫んだ。
彼女もできない段階で、デートの練習をするのはおかしいだろ。いや、それともそう考えるところが俺のモテない所以なのか?
不毛な思考がイルカの頭の中をぐるぐる回る。
どっちにしろ、二日酔いで体がだるくて、イルカはとても外出する気分にはなれなかった。

「カ、カカシ先生、俺ちょっと二日酔いで具合が悪いんです...今日は寝ていたいんですが...」

イルカが恐る恐るそう言うと、え、と言ってカカシが普段は眠たげな目を大きく見開いた。そして次の瞬間、にこ〜とこれ以上ないくらい相好を崩した。

「そうですか〜!じゃあ、ちょっと休みましょうか!そうですよね、俺も片づけをして、少し疲れてるみたいです。」

カカシの返事にホッとして、イルカは安心してベッドに潜った。

ふー!よかった、カカシ先生が納得してくれて。

イルカがそう思ったのも束の間、シュルリというシーツの上を滑る音と共に、なんとカカシがイルカのベッドに入って来たのだ。

「な、な、な、何やってんですかーーーー!?ちょ...で、出ていってください....!」

イルカは焦っていた。ベッドはシングルな上、片方の側面は壁にぴったりついている。大人の男二人が寝るには狭過ぎる空間に、互いの体は自然と密着するような形になってしまっていた。その上壁側に追い遣られたイルカは逃げ場を失っていた。ぐいぐいとカカシの体をどけようと手で押してみてもびくともしない。

「俺も疲れちゃったんですよ〜眠いんです〜。」

「きゃ、客布団が押入れの中にありますからっ....お、俺が今敷きます...!」

カカシを押し退けるのを諦め、イルカはカカシの体を跨いでベッドから降りようと身を起こした。その瞬間あっという間に抱き寄せられて、イルカはカカシの体の下に組み敷かれるような格好になってしまった。

「カ、カカシ先生っ!?な、何するんですか!?」

そう叫んだイルカの声はひっくり返っていた。良くない予感がイルカに嫌な汗を掻かせていた。

「やっぱり予定を変更して寝るの止めます。ベッドの上でもできる、彼女の作り方を教えてあげます。イルカ先生は疲れてるみたいだから、そうやって動かないで横になっているだけでオッケーですよ!」

ひいいい!な、なんじゃそりゃああああ!?

幾ら鈍いイルカでも、流石にカカシの発言の不自然さに気がついていた。

ベッドで教えられることなんて、あれしかねぇだろ!?だ、だけど俺達男同士なのに。幾ら俺に彼女の作り方を教えるためとはいえ...普通そこまでするか!?カカシ先生の親切は度を越えている...!

蒼白になるイルカにカカシはフッと優しく笑って見せた。

「大丈夫ですよ〜何もとって食おうって訳じゃないんですから。俺、思うんですけどね〜やっぱり25歳で童貞ってところが女性に悟られてるんじゃないかと思うんですよ、イルカ先生の場合。あんまりにも物慣れないですもんねぇ〜。そこがいい年をした男として、一番問題だと思うんですよ。」

があーーーん...!

その時イルカが受けた衝撃は計り知れないものだった。自分でも25歳で童貞というのは不味いんじゃないかと思っていたのだ。彼女が出来ても、25歳で童貞だとばれてしまったら引かれるんじゃないか、それどころかいざ事に及んだ時、俺は上手くできるんだろうかなどと、常日頃不安に感じていたのだ。その痛いところをカカシに指摘されてしまった。しかも、どうやらそれを俺は女性にも悟られているらしい...!そうか、そうだったのか、だから俺は女性に縁遠かったのか...とイルカは悲しくも妙に納得してしまった。

項垂れるイルカに構うことなくカカシは言葉を続けた。

「だからねえ、せめてキスくらいは女性をリードできるように、教えておこうと思います。今時キスなんて挨拶程度のものですからねえ。そんなものでたじろいでいたら、折角出来た彼女も逃げちゃいますから。」

ね?と優しく言われて、男としての自信を見失っていたイルカはそれが尤ものような気がして、思わず頷いてしまった。

「じゃあ、早速始めましょうか。イルカ先生、目を閉じてください。」

「あ...はい。よ、宜しくお願いします。」

律儀に挨拶をしてイルカが素直に目を閉じると、すぐに柔らかいものが自分の唇に降りて来た。軽く啄ばむようにして何度も繰り返されるキスにイルカは感心した。

なるほど...こういう風にソフトに繰り返すのがいいんだな...

ぼんやりと思っていると、カカシがイルカの頬を掴んでグッと口を開けさせた。え?と思った次の瞬間にはカカシの舌が我が物顔で、イルカの口に入って来た。その舌の激しい動きにイルカは吃驚した。

や...ちょっと...お、俺には無理かも!こんなの真似できねえ。こ、これで挨拶程度...?

カカシのキスが深くなれば深くなるほど、イルカは自分がこうした行為になんて疎いのだろうとショックを受けた。女性がこのレベルを求めているとしたら、俺はずっと彼女が出来ないのかもしれない、とイルカは目の前が真っ暗になった。何時かはできるだろう、と呑気に思っていたが、本当に呑気だったなあ、と自分の反省までしてしまう。

そんなことを思っていると、カカシの手がイルカの服の下に潜りこんできた。

ええええ!?そ、それはちょっとやりすぎだろ!?

イルカは抗議の声を上げようとするのだが、激しい口付けに口を塞がれていて、「んんん!...ん!」といったくぐもった声しか発することが出来ない。仕方なくカカシの背中をバシバシと叩いて、行き過ぎた行為を止めさせようとしてみたが、カカシは全く気にしている様子もなかった。カカシの手はイルカの脇腹を撫で上げるようにしながら胸の突起に到着すると、その場所を執拗に摘んではぐにぐにと揉むようにした。するとイルカの腰に甘い痺れのようなものが走った。その刺激が急速にイルカの頭を正気付かせた。

な、何やってんだ、俺?カ、カカシ先生とこんな...お、男同士で。おかしいだろ、自分!

尚も続けられる愛撫にイルカがビクビクと体を震わせると、カカシがようやく唇を離した。
と、同時にイルカは叫んでいた。

「や、やりすぎです、カカシ先生!!挨拶でこんなことしません!も、もうこれ以上は教えてくれなくていいです...これ以上は心を通い合わせた、本当の彼女とだけするものですっ!だ、だから....あぁっ...!?」

イルカの言葉が終わらぬ内に、カカシの手がイルカのズボンの中に素早く滑りこんで、緩くイルカ自身を扱き出した。

「や、ちょ....カ、カカシ先生...!?」

泣きそうな顔をするイルカに、カカシは興奮にハアハアと荒い息をつきながら、問答無用の勢いで宣言した。

「俺が今日からあなたの彼女です!俺が彼女になります!!だからここからは心の通い合った、彼女との愛の営みということで!」

好きです、イルカせんせ〜〜〜と、がばっと抱きついてくるカカシに、一瞬イルカは頭が空白になって抵抗がお留守になってしまった。その隙にまた口付けで口を塞がれてしまい、断りの言葉をカカシに告げることが出来なくなった。
カカシの口が外された時には、もうカカシのものが深深とイルカの中に埋め込まれていて、激しい突き上げにイルカは言葉を紡ぐ余裕がなかった。
ガクガクとイルカを揺さぶりながら、カカシは嬉しそうに言った。

「俺、イルカ先生好みの、良い彼女になってみせますからっ!俺のこと、大切にしてくださいねvv」

.....俺まだ、OKの返事してない...ってゆーか、この場合、やられてる俺の方が彼女なんじゃ....

虚しい突っ込みを心の中でいれながら、イルカはほとほと涙した。



終り
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