(4)

「イルカ…お前…お前、戻ってきてくれたんだな…!」
久々に出勤したイルカの姿に同僚が感極まったように、くうっと涙ぐんだ。
「ははは…何だよ、大仰だな。ちょっと休んでいただけじゃないか…!」
イルカは無意味に額当てに親指を当ててポーズを決めると、ニコリと微笑んだ。
普通だったら格好つけすぎだろうというその気障なポーズも、今のイルカにはピタリと決まっていた。
そう、二週間ぶりに、幻となりつつあった爽やか野郎が帰って来たのだ。皆の人気者のイルカが。
イルカの顔から無精ひげは姿を消し、脂でテカっていた肌もダブ洗顔でしっとりすべすべとしていた。括られた髪にはキューティクルによる天使の輪が復活し、死んだ魚の様にどんよりしていた瞳は今は叡智の光を宿して、きらきらと輝いている。

なんだか昨日までの自分が嘘みたいだ…後から後からやる気が漲ってくる…!ようし、今日からまた頑張るぞ…!

イルカは喩えようもない高揚感に酔いながら、ちらと天井を見遣った。
そこに僅かに開いた羽目板の隙間から覗く碧眼を確認して、イルカは背筋をゾクゾクさせた。

見られている…!カカシ先生に…!
天下の上忍に四六時中監視されている…!これだよ、これ!俺の求めていたのはこの緊張感なんだよ…!

これは粗相はできないぞと、イルカはベストの襟を景気よくパンと立てて気合を入れた。
何だか浮き立つような気持ちで、
「おはようございます!長く仕事を休んでいて申し訳ありませんでした!」
と受付所に顔を出せば、パンパンとクラッカーの鳴る音とともにわあっと歓声が上がった。

な…っ何だ…!?今日は俺の誕生日でもないのに…!?

焦るイルカの頭にひらひらと紙吹雪が舞い落ちる。見ると職場の人だけでなく、用務員のおじさんや食堂のおばちゃん、上・中・下忍の姿に加えて裏のお寺の飼い猫ミケまでもが涙を浮べながら、イルカを見詰めてパチパチと拍手をしている。よく分からない光景だった。
「お帰りなさい、イルカさん」「よく戻ってきたな、イルカ!」
そう口にしながら皆次々にイルカに握手を求めてきたり肩を叩いてきたりする。その大袈裟なほどの安堵っぷりに、

まさかこれって快気祝い…?ひょっとして、俺、すごく重い病気だと思われてたんじゃ…あんまり長く休むから皆に心配掛けてたのか…?

酷く後ろめたい気持ちになった。
「ご心配おかけしました…」
思わず深々と頭を下げると、
「いいからいいから。もう二度と心配はかけるなよ!」
皆が何故か熱っぽい眼差しでイルカを見詰める。すっかり自分がもてていた事を忘れ去っていたイルカは、それを不思議に思いながらも、

皆に心配をかけた分もバリバリ働いて返すぞ…!

心の中で腕まくりをしていた。
瞬間天井裏でごとりと不審な音がしたが、
「何だ?ネズミか?」
皆忍びらしからぬ注意力で、スルーしてしまった。帰って来た爽やかイルカに注意が削がれていたのだ。
そんな中でイルカだけが天井からの物音に、

いるいる、カカシ先生がいるよ〜!ああ〜ずっとそうしていてくれ…!頼む…!

ドキドキと胸を高鳴らせていた。




イルカ先生の言っていた通りだ…それどころか…思ったより事態は深刻だ…!

カカシはイルカのアパートの天井裏からその生活を覗き見て深い溜息をついた。隙のないイルカのサービスショットの少なさへの不満は、この際もうどうでもよくなっていた。それよりも何よりも問題なのは。

本当に俺以外にもストーカーがいるという事実だ…!

カカシは思わずぐっと拳を握った。イルカの人気は未だに衰える事無く、それどころか鰻上りの天井知らずだ。任務に就く前にもプチストーカーがイルカを追っていたが、今は真性の熱狂的ストーカーがイルカを狙っていた。

彼奴らめ…!幾ら凹にしても雨後の筍の如く次から次へときりがない…!

クマのできた疲労の色が濃い顔を何とはなしに両の手のひらで擦っていると、すぐ近くでカタと微かな物音をたてて羽目板が開いた。

おいでなすったな…!

カカシは大して驚きもせずに気配を殺して様子を窺った。
すると開いた羽目板からひょいと見知らぬ男が顔を出し、きょろきょろと屋根裏に視線を彷徨わせた。そしてカカシの姿を見止めるとギョッと固まる。勿論男は左官屋さんでも配線工事の人でもない。その証拠に男はビデオカメラを手にしていた。それを何に使うのか、カカシは分かっていた。

この俄かストーカー野郎め…!ビデオカメラなんて邪道だ…!
俺には写輪眼コピーがあるんだからな…!何時でも何処でも忠実にイルカ先生の痴態を再生可能だ…!どうだ?羨ましいだろう…!

カカシは特殊能力の濫用で優越に浸りながら、

お前らみたいな新参者に負けるわけにはいかない…!
こっちは年季が入ってるし、格が違うんだよ!格が!!俺が元祖イルカストーカーだ…!

競いどころを全く間違えた雄叫びを心の中で上げた。蛇に睨まれた蛙よろしく竦み上がる男をカカシはあっという間に簀巻きにして、屋根裏の隅に転がした。そこには既に人間簀巻きが五本転がっていた。今の男を足すと六本になる。このところいつもこんな調子だった。

後で川に流すか、それとも裏山に埋めるか…

ごくごくナチュラルに恐ろしい事を考えながら、カカシは持参の魔法瓶に手を伸ばした。こぽこぽとMY湯飲みにお茶を注ぎ、ふうと一息つく。

こんなに連日ストーカーが忍び込んでくるなんて…俺が任務の間はどうなっていたんだろう…
イルカ先生の秘密の入浴シーンも覗かれてしまったんだろうか…?

考えただけで股間がムラムラ…じゃなくて、心がムカムカしてくる。

それでも貞操を喪わなかったんだから、よしとすべきか…

自分を宥めながらも、次の任務の際は一体どうしようかとカカシは顔を曇らせる。今回守られた貞操が次も無事という保証はどこにもなかった。というか、今回無事だったことの方が奇跡に近いのだ。

ああ、おかしくなりそうだ…いっそ俺はコンニャクに生まれたかった…
そうすれば何も言葉にしなくてもイルカ先生を愛する事ができるんだから…

俺がコンニャクだったら、イルカ先生の右手だったら、と少しポエジーな気持ちになりながら、カカシは切なく溜息をついた。何時の間にか屋根裏に持ち込んだカウチチェアに身を横たえ、暫し目を閉じる。イルカの家の屋根裏は長きに渡るストーカー生活のうちに改造され、今やカカシの快適空間になっていた。着替えも布団も常備してある。何日も自宅に帰らなくてもOKだ。心置きなくイルカを眺め続けるために工夫を怠らないカカシだ。

そろそろまた長期任務が言い渡される頃だ…ああっ、心配だ…俺のいない間に書初めは駄目ですよ…!

悶々と考え込んでいると、
「カカシ先生、ちゃんと監視してくれてますか!?」
イルカの少し不満そうな声が聞こえた。





「任務ご苦労様でした!」
にっこり微笑むイルカの前は長蛇の列だった。受付所の窓口は五つ。しかし、残り四つは閑古鳥が鳴いている状態だ。仕方がないので皆窓口を閉め、イルカのサポートに回る。イルカは微笑んで報告書を受け取るのが仕事で、実質処理は同僚が流れ作業で行う。それは受付所の日常となりつつあった。
「最近海野くんのお陰で皆が任務に進んで就くようになって、任務が足りないくらいなんだよ。参ったなあ、はっはっはっ。」
あまり参っていない調子でイルカの上司が豪快に笑う。
「俺の力じゃないですよ。」
イルカが困ったように答えると、「またまた謙遜を。まあ、そこが海野くんのいいところだが」と上司が肩を叩き、
「そうだぞ、イルカ。お前の頑張ってる姿は俺達のカンフル剤だ!」
同僚達までもが手放しでイルカを褒める。

本当に俺の力ばかりじゃないんだけどなー…

イルカは曖昧な笑みを浮べながら、またしても天井をちらと見遣った。羽目板の隙間から見える灰色の塊は埃の玉ではなく、例の上忍の頭だと知れた。

俺がこうして頑張れるのも全てカカシ先生のお陰なんだよな…

灰色の塊をうっとりと目の端に留めて、イルカはしゃきりと背筋を伸ばした。再びバリバリと仕事を片付けながら、

なんか俺、最近本当にすごいよなー

心の中で自画自賛する。

カカシ先生の目を気にして理想の自分を演じるうちに…段々それが板についてきたというか…
ひょっとして俺このままでいくと、思い描いていた理想の自分になれちゃう…?

理想の自分には足の長さが後5cm足りないイルカだったが、今だったらそれも頑張り次第で伸びそうな錯覚に陥っていた。

カカシ先生の監視の目があれば、俺に出来ないことはないんだ…!

しかしやる気に満ちたイルカを、一瞬にしてどん底に突き落とす出来事が起こった。
その日の帰り道、物陰から姿を現したカカシがガシガシと頭を掻きながら、困ったように言った。
「イルカ先生、俺…明日から極秘任務に出る事になっちゃったんです…」
「えええええーーーーーっっっ!!!???」
並々ならぬ驚きに、イルカは思わず絶叫してしまっていた。

そ、そんな…!もう少しで理想の自分になれそうだったのに…カ、カカシ先生がいなくなったら、俺はどうなってしまうんだ…!?

想像しただけで全身から血の気が引き、足ががくがくと震えてくる。ショウジョウバエの乱れ飛ぶ中で、トドのように転がったまま動かない、薄汚い自分の姿が脳裏に浮かぶ。そしてそれが想像だけに終わらない事をイルカは身を以って知っていた。
「カ、カカシ先生…い、一体何日任務に出ているんですか…!?」
悲鳴のような声で尋ねれば、
「はあ、それが十日も留守にしてしまうんです…」
カカシが申し訳なさそうに答えた。
「と、十日間も…!?」
計り知れない絶望がイルカを襲った。

駄目だ…十日もなんて…今の俺はカカシ先生と一日たりとも離れられないのに…
そんなに離れていては廃人決定だ…!ああっ、一体どうしたら…!

イルカは激しい焦燥に混乱して、思わずカカシの腰に縋りついた。
「カ、カカシ先生、俺を置いていかないでください…!俺、俺…カカシ先生がいないと…」
言いかけてハッと正気に返った。何を言うつもりだったんだと焦るイルカの顔を、カカシが見たこともないほど真剣な瞳で凝視している。イルカの言葉の続きを待っているようだった。

ああー、な、何て言おう…!?カカシ先生に監視されていないと生活できないなんて、そんな変な事はいえないし…

イルカは適当な言葉を思いつくことができなくて、
「カカシ先生がいないと、ストーカーに何されるか分からなくて怖いんです…」
自分でもどうかという情けない言い訳をしていた。
しかしカカシは何故かその言葉に、分かってますよ、と深く頷いて意外な事を言った。
「分かっていますよイルカ先生。俺にいい考えがあります。」




「カカシ先生…これは…?」
いい考えがあります、とカカシがイルカに差し出した物を見て、イルカは狐につままれたような顔をした。
カカシが手にしている物が何なのか、イルカにはよく分からなかった。
形状だけ見ればベルトのようだが、しかし環状ではなくT字型をしている。しかもステンレスか何かで作られているらしく、大変物々しい感じだ。

な、何だろう、これ…?これとストーカーとどういった関係があるんだろう…

イルカは首を傾げた。

ひょっとして対ストーカー撃退用の攻撃器具か何かかな…?す、すごく厳ついもんな…

イルカが謎の物体を観察するようにじいっと見詰めていると、カカシがにこりと爽やかな笑顔を浮かべながら言った。
「貞操帯ですよ、イルカ先生。」

……はあ?

一瞬イルカはカカシの言葉が理解できなくて、ぽかんと間抜け面を晒してしまった。テイソウって何だ?と頭の中で辞書を捲る。それでも適当な変換を思いつかなくてイルカは固まったまま、ただただ立ち尽くすだけだった。
そんなイルカの様子に、カカシは突然頬を赤くして、言い難そうにボソッと呟いた。
「あの…だってイルカ先生童貞だし、ストーカーが初体験の相手なんて嫌だろうと思って…」
カカシの言葉にイルカは激しく動揺した。25年間隠し続けていた秘密をさらりと口にされてしまったからだ。

どどど、ど、どうして俺が童貞だと…!?
ああっ、もてない男の哀愁が背中に滲み出ているんだろうか…?そ、それともアレが使い込まれていないのが見るだけで分かるものなんだろうか…?
ってか、俺の童貞とこの怪しいブツとストーカーの相関図が浮かばない…一体なんだって言うんだ…!?

混乱によろめくイルカの手を引いて、
「これは最新式の物なんですけど、プロテクター部分のサイズは大丈夫か心配で…。ちょっと装着してくれませんか?」
カカシは物陰に連れ込むと、すぐさまイルカのズボンに手をかけた。
「ぎゃーーーー!?な、ななな、何するんですかーーーーー!!!???」
吃驚したイルカが悲鳴を上げながら、下ろされそうになっているズボンをはっしと引き止めた。その時になってようやく『貞操帯』という言葉の意味をイルカは理解した。
長く里を空ける忍者の妻や恋人の浮気防止の為に、あそこをガードするための代物があると聞いた事があったが、実物を目にしたのは初めてだった。
排泄の際の不自由さと不衛生さから、今は貞操を守るためのものというよりも、対拷問用か、もしくは変態ちっくなプレイの為の大人の玩具として地下で出回っているとか何とか。
週刊誌の怪しい通販の欄に載っていた紹介文をイルカは薄っすらと思い出していた。

あわわわ…カカシ先生がこんなものを俺の為に用意していたなんて…!
無意味だよ、だってストーカーは本当はいないんだし…それに男の俺の貞操なんてどうでもいいし!
俺の心配してるのはそんな事じゃないのに…俺が求めてるのはカカシ先生の監視で、あそこを守る為の道具じゃないんだ…どうしたらいいんだ…!?

イルカは自分がついた浅はかな嘘を呪った。真剣なカカシを無碍にする事はできない。だからといって、このままハイそうですかとこの貞操帯をつける気にはなれない。

大体、どうやってトイレに行くんだよ…!?

イルカは鍵穴のついた、アレを納める部分らしいプロテクターを見詰めて戦々恐々とした。下向きに固定されたそれは勃起をも許さない代物だ。トイレも立ってでは無理だろう。

こんなの、同僚の誰かに見られたら…!

泣きそうなイルカに、カカシはといえば鬼の形相で詰め寄った。抗いを許さない目をしていた。
「イルカ先生の為を思って言ってるんです…!さ、早くつけてください!」
施錠しないといけないですからね、と言うカカシの手には貞操帯を外れないようにする為の、鍵が握られていた。




イルカ先生は無事だろうか…

カカシは木の葉の里へと全力疾走しながら、胸の内ポケットから小さな鍵を取り出した。可愛らしいイルカのキーホルダーがついているそれは、しかし可愛さとは無縁の場所に差し込まれるものだ。カカシはそれを大切そうにぎゅっと手のひらに握り込んだ。その手が小刻みに震えていた。

ああ…っ!頑張って早く任務を終わらせるつもりでいたのに…流石Sランクの極秘任務……
まさか予定より帰還が遅れてしまうなんて…!イルカ先生…っ無事ですか…!?貞操帯はちゃんと役目を果たしていますか…?

カカシは焦燥で気も狂わんばかりだった。十日の任務が何と十六日もかかってしまったのだ。

あんなストーカーの巣窟のような里に、半月もイルカ先生を一人にしてしまったなんて……

最早カカシの心の拠り所は、手の中の小さな鍵だけだった。自分のチャクラを思い切り練りこんで貞操帯に施錠した。余程の手練でなければ絶対に開ける事はできない筈だ。まずそんな輩はいまい。
そう思うのに不安を拭い去る事ができない。

もしや…何か不便を感じてイルカ先生が火影様にでも外してもらっていたら…

その可能性は大だった。イルカは最後まで「トイレは、風呂は…どうするんですか?」と泣きべそをかいていた。そこはカカシも頭を悩ませた点だった。カカシはイルカの家のトイレや風呂に術を施し、そこを使った場合にのみ、外れないまでも、洗ったり排泄が可能な程度に貞操帯が緩むようにしておいた。勿論出て行く時にはまたきつく締め直される仕掛けだ。
「アカデミーや外出先ではトイレに行かないよう我慢してくださいねvv」
さらりと告げた言葉にイルカは蒼白になっていた。可哀想に思ったが仕方がなかった。

公衆トイレで俺の可愛いイルカ先生が、いかがわしい野郎どもと肩を並べて立ちションするなんて…危険すぎる…!!
あなたにそんな顔はさせたくないけど、ここは心を鬼にしなくては…!俺だって辛いんです、分かってください…!

しかしそんな心の叫びとは裏腹に、その時のカカシはでれでれと至福の顔をしていた。何と言っても、愛しのイルカが下半身に貞操帯をつけただけの格好でいたのだ。それまでは早く鍵をかける事で頭の中が一杯だったが、いざ貞操帯をつけたイルカを前にすると、鍵を差し込むのではなく別のモノを差し込みたくなってしまったカカシだ。

あの時は我慢するのが大変だったなあ…vv

しかし幾ら物陰といえど、帰宅時間の路上という事もあって、カカシにも理性が働いたのだ。何よりもイルカのいやらしい格好をちらとでも通りがかりの奴に見せたくなかった。

あんなところで装着させちゃって…俺も余程焦っていたんだな…誰にも見られなくてよかった…

何となくハアハアと熱く息を荒げながら、カカシは更に走るスピードを上げた。

イルカ先生…!俺が鍵を開けてあげますからね…!どうか無事な下半身を俺に見せてください…!

カカシは里の大門をくぐると、一路イルカの家へ向かった。

イルカ先生…イルカ先生…!

逸る心を押さえて、カカシはイルカの家に着くとその扉を叩いた。
「イルカ先生、俺です…!只今帰りました…!」
しかし扉の奥からは何の反応も返って来なかった。イルカの気配はしているが、何だか様子がおかしかった。眠っているにしても弱すぎるその気配にカカシは戦慄した。

イルカ先生に何かあったんじゃ…!?

良くない予感にカカシは大急ぎでドアを強引に引き開けた。次の瞬間。
「う…っ!」
開け放たれた扉からわんわんと蝿が飛び出した。特殊な口布をしていても卒倒しそうな強烈な悪臭が鼻をつく。なんと、イルカの家の中は再びゴミ御殿と化していた。しかも前回よりも一層酷く、ゴミに阻まれて部屋の中の様子を覗き見ることもできない。
「イ、イルカ先生…何処にいるんですか!?ど、どうしたんですかこれは…?」
カカシが戸惑いながらもゴミを掻き分け進むと、どかしたゴミ袋の下から良く見知った括り髪が姿を見せた。
「イ、イルカ先…!?」
カカシが慌ててゴミ袋を後方へと放り投げてどけると、ゴミ袋の下からイルカが出てきた。長く伸びた髭もそのままに、グッタリと横たわる姿は、薄汚れて黒ずんでいる所為もあって、トドに似ていた。トドに似ていて。

可愛いなあ・・・

カカシは心配そうにイルカを抱き起こしながらも、初めて見るイルカの様子に頬を緩めた。
木の葉の天才エリート・はたけカカシ。26歳にして真のイルカ道を究めた恐るべし男だった。



5へ

戻る