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確かに思いが通じ合ったと思ったのに…何故か俺はここにいる。

カカシは天井の穴の隙間からイルカを覗き見ていた。
最近益々男振りが上がったイルカに、老若男女を問わず生きとし生けるものが群がっていると言うのに、自分は蜘蛛の巣の張る薄暗い屋根裏からイルカを覗いている…おかしいだろう。カカシはクウッと唇を噛み締めた。ついでに涙もほろりと零れる。
楽しかったストーカー生活も、長年の片思いが成就しイルカと肌を重ねた今となっては、全く面白みがなかった。
お宝部屋の小火騒ぎの後カカシが病院で目覚めると、イルカが深刻な顔をして火を放ったのは自分だと懺悔した。どうしてそんな事をしたのかとカカシが問うと、
「あんなものじゃなく…もっと、俺を見て欲しかったんです…俺自身を…!カカシ先生に、俺だけを見詰めて欲しい…」
信じられないような、熱烈な告白を受けた。
一瞬頭の中が真っ白になった。
十余年にわたるストーカー生活の思い出が、カカシの頭の中を走馬灯の様に駆けて行く。
お花を咲かせながら笑っていたイルカ。出会ってからずっと、雨の日も風の日も、たとえ未曾有の台風が家のかわらを飛ばしているような日でさえも。カカシはイルカをストーカーし続けた。雪の深々と降る冬の夜、まだ快適空間に改造前だった屋根裏で、寒さに震えながら歯を食い縛って自慰を決行したこともある。

あの時はただでさえ硬くなっていた俺の息子が、寒さに更にカチンコチンになって…
おまけに出した精液がミゾレアイス(練乳入り)みたいになってて笑ったよなあ…!

任務帰りに致命傷に喘ぎながら、血塗れでイルカを覗いた事もある。
その時も入浴するイルカの姿にくらくらしているのか、貧血でくらくらしているのかよく分からなかった。
楽しい事もあった。苦しい事もあった。その努力の日々が今報われようとしている…!
今こそ自分もイルカへの熱い思いを口にする時だと、カカシは内心気合を入れた。
「俺…火影様に自首してちゃんと罰を受けます…もうこれ以上カカシ先生に迷惑をかけません…!本当にすみませんでした…!」
カカシは涙ながらに病室を出て行こうとするイルカの手を掴み止め、
「迷惑なんかじゃありません…!それよりもイルカ先生、本当にずっと見詰めていていいの…?気持ち悪くない?俺はずっと見詰め続けるよ…あんただけを、これからも。ずっと…ずっと好きだった…俺はあんたを、好きでいていいの…?」
なけなしの勇気を振り絞り、一世一代の大告白をした。
顔が熱く火照り体が小刻みに震えた。僅かな言葉の空白も居た堪れない。
情けないけれど、十余年もの間イルカに一言も声をかける事ができずに物陰からひっそり覗いていたのは粋狂だからではない。

俺はイルカ先生に関しては小心者なんだーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!

あまり自慢にならない事をカカシが心の中で絶叫した瞬間。
「好きでいてください、俺を…。ずっと見詰め続けてください…!俺も好きです…カカシ先生の事が、好きです…っ、」
イルカが顔をこれ以上もなく赤くしながら、必死に叫ぶように言った。
死ぬかと思った。あんまり嬉しくて。嬉しすぎて、心臓が破裂してしまいそうだ。

あの時は本当に幸せだったなあ…

一人思い出してカカシはでれっと締まりのない顔をした。
退院が待てずに、ちょっと体の具合がよくなるとすぐにイルカと交わった。
性経験の無いイルカは他人が齎す初めての愛撫によがり捲くった。
「ここ、舐めてあげる…」
全身をカカシに舐め揉まれ擦られ、硬く育ったイルカのペニスをカカシは口腔に導いた。肉幹の部分をくぐらせた指の輪で上下に扱きながら、張り出した先端を舌で存分に舐め回した。快楽に震えるイルカのペニスが開閉する先端から絶え間なく淫蜜を滴らせる。
「すごく、気持ちいデショ?」
コンニャクより、と言い掛けてカカシはぐっと言葉を呑んだ。何となく低レベルの争いだ。しかも。

この可愛いペニスを俺より先に味わったなんて…やはりコンニャクが憎い…!無機物といえど許せない…!

真剣に嫉妬の炎を燃やすところがかなり重症だ。
だがそんな嫉妬も、イルカですらも弄った事の無い双丘の狭間に自分のペニスを埋め込んだ時、最早どうでもいいものになっていた。

一時期はコンニャクに生まれたかったと思ったりもしたけど…やっぱり人間でよかった…
コンニャクじゃこんな事できないし…

ずんと奥まで貫いて、
「あぁ…っ!」
嬌声を上げるイルカの姿に堪らなく満足する。腰から下が経験した事が無いほど気持ちいい。蕩けてしまうようだ。初めてのイルカを思い遣れる余裕がないほど、カカシは激しく中を突き荒らした。

気持ちいい…見てるよりもずっと…指先を絡めるだけでイキそう…

触れ合う幸せにカカシは酔い痴れた。イルカの肌の温もりを知ってしまった後では離れている事が辛かった。とてもイルカに触れずにいられない。ずっと触れていたい。何しろ十余年も遠く離れた物陰から見詰め続けてきたのだ。念願かなって両思いになった今は、できるだけイルカに引っ付いていたかった。それなのに、初めて肌を重ねた後イルカはニッコリと桜最前線といった感じの笑顔を浮かべて言ったのだ。
「これからも家にいる時以外は、思う存分俺を物陰から見詰め続けてくださいね…!」
「え…?いや、あの…イ、イルカせんせ…?」
「見詰め続けてくれるって、言いましたよね?」
「あう…」
優しい笑顔とは裏腹に厳しい口調で念押しされて、カカシは頷く事しかできなかった。
というわけでカカシは相も変わらず、物陰からイルカをストーカーする日々を送っているのだ。

見詰め続けるとは言ったけど…それは思いの丈の比喩的表現であって、本当に物陰から見詰め続けるという意味じゃなかったんだけど…

そこは元熱狂的ストーカーである自分の言葉。イルカが取り違えても無理はなかった。

でも一番近い存在である筈の恋人が、一番遠くにいるってどういうわけ…?

カカシはハアと苦悩の溜息をついた。

続く