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カカシ先生、裸は気持ちいいですよう。
大体アダムとイブが林檎を食べるまでは裸だったんです。
裸が一番人間らしい姿なんですよ…!
カカシ先生も服を脱いでフルオープンの素晴らしさを体感したらどうですか…!?

わっはっはっと両手を腰に当て、豪快に笑うイルカの股間の部分に自主規制が入っている。
だからカカシはこれは夢なんだなと冷静に状況判断をしていた。

夢なんだから、うろたえるな俺…!

そう思うのに裸で野山を駆け回るイルカが、
「こっちですよう、カカシ先生…!」
木の葉の里の入り口へと走り出すのを見て、カカシはあっという間に我を失った。

イルカ先生…!そっちに行っちゃ駄目です…!そっちはストーカーという淫魔の巣窟です…!
待って、待ってください、イルカ先生…!!!!!ああっ、俺がイルカ先生に危機感を持つように教え込まなかっために…!

何とか追いついて止めようにも、夢の中の自分は恐ろしくスローモーだ。
懸命に走っているつもりでも、軽やかなイルカの足取りに追いつくことができない。
「カカシ先生、はやくはやく!」
夢の中のイルカはカカシの目の前を、肉付きの良いお尻をぷりぷりさせながら駆けて行く。
そのずっしりとした肉感に、イルカが牛だとしたらかなりの霜降り牛だろうとカカシは想像した。
そう考えたら酷く空腹を覚えた。イルカを止めなくてはと思うのに、焦りと同じくらい食欲を感じる。

な、なんだろう…いつもとは別の意味でイルカ先生のお尻に喰らいつきたい気分だ…!
特にイルカ先生のサーロインはまさに「サー」と貴族の称号を与えるに相応しい腰肉だ…!

カカシの思考は胃袋の訴える強烈な空腹感に支配され、大変おかしな具合になっていた。
夢はカカシの欲求どおりに映像を変えていく。
何時の間にか前を行くイルカは焼肉街を走っていた。
道行く人々がイルカの裸体を凝視している。性的意味合いと食的意味合いで。

ああ…っ!!!!イルカ先生危ない…!!!!食われちゃいますよ、色々な意味で…!!!!
美味しいお肉だ、モー!ですよ…イルカ先生…イルカ先生…イルカ先生…っ!

幾ら声を張り上げ叫んでも、夢の中のイルカには届かない。それでもカカシは必死で叫んだ。
「イルカ先生…っ!!!!」
何度目かに叫んだ自分の声が突然近くで聞こえて、カカシはハッと目を覚ました。

あ…お、俺…?

寝惚けた頭は上手く働かず、ぼんやりと周囲に視線を彷徨わせる。
天上からぶら下がるシャンデリア。天蓋付きの特注ベッド。壁に貼った恋愛運が高まる風水の札。
なんだか良く見知った部屋の様に思える。確かここは…

お、俺の家だよ!

思い当たってカカシはガバリと起き上がった。

ど、どうしてこんなところにいるんだ…?俺は一体どうなってしまったんだろう…?
確か任務を急いで終わらせて…秘密のアジトにイルカ先生を迎えに行った筈だったのに…!
…そうだ、俺はあまりの空腹と疲労に突然倒れて…!!

混乱するカカシの腹がきゅうっと収縮するような痛みを訴えた。空腹すぎて胃酸過多な所為だ。
何かを食べ無いといけない事は分かっていたが、それよりも何よりも。

イルカ先生…イルカ先生はどうしたんだ…!?
俺をここまで運んだのはイルカ先生なのか…?裸だったはずなのにどうやって…?
まさか裸のまま、木の葉の里を突抜けた…?

嫌な考えが頭に浮かんだ。
裸で街中を駆け抜けるイルカ。てっきり夢だと思っていたが、あれは現実だったのではないか?
朦朧とした意識の中で見た映像が夢の中に反映されたのではないか?
考え出すと尤もな気がして、カカシは居ても立ってもいられなくなった。
イルカの無防備さへの憤怒と裸を見たであろう人々への嫉妬で髪が逆立つ思いだ。いや、平素から十分逆立って入るけれど。
「イルカ先生…何処に居るんですか?イルカ先生…!」
ベッドから飛び降りたカカシがガチャリとドアを開けると、廊下に面した別の部屋のドアが開いているのが目に入った。
開いている筈の無いドアだ。

ま、まさか…!?

カカシの全身から血の気が引いていく。
開いていたのは「里の機密部屋」ならぬ、「イルカお宝部屋」のドアだった。

続く

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