(40)

大変だ…早くカカシ先生を家に連れて帰らなくては…!

突然倒れたカカシの額にイルカが手を当ててみれば、吃驚するほど熱かった。

やっぱりこんな痩せ細ったままでの任務は無理だったんだ…
こうなると分かっていたのに未然に防げないなんて…俺は…俺は…なんて不甲斐ない男なんだ…!

イルカはカカシを素早く背負うと、使役鳥が指し示した里の方角へと大急ぎで走った。カカシを思う心に体の機能は限界まで高められ、その足の速さたるは「走れメロス」も吃驚なほどだ。山を越え谷を越え。やがて全速力で走るイルカの瞳が里の町並みを遠くに見据えた瞬間。

あ…やべっ、俺マッパのままだった…!!!!

イルカは自分の破廉恥極まりない姿にハッと気がついた。激走になけなしの葉っぱすらも剥がれ落ち、今イルカは本当に真っ裸だった。

あ、危ない危ない…!このまま里に入っていたら、変質者として捕まるところだった…!
変化の術を使わなくちゃな…ああっ、でもある程度服を着ていなくちゃ…誰かに見破られた時物凄く恥ずかしい…!!

里の入り口がすぐそこまで見えているというのに、羞恥にイルカの足が止まる。イルカははあはあと息を乱しながら、背中のカカシをちらと見遣った。足場の悪い山道に激しく揺られていたというのに、カカシはピクリとも動かなかった。余程の事態と言えた。

こんなところで立ち止まっている暇はないのに…で、でも流石にマッパでは幾らなんでも…

焦るイルカの頭に突然グッドアイデアが閃いた。

そ、そうだ、包帯…カカシ先生の携帯している医療用具に包帯がある筈…!

カカシを下ろしてベストのポケットやポーチを弄ると、新品ニ本と血塗られた古いものが一本、合計三本の包帯が出てきた。

よし…これを体に巻けば…!今度は紙じゃないから大丈夫だ…!

イルカは性懲りも無くそんな事を考えながら、取り合えず自分の股間を中心にふんどしの要領でぐるぐると巻いた。
始めは嬉々としていたイルカだが、包帯一本の長さがトイレットペーパー一巻きの長さに遥かに及ばない事に気づいて、途端に顔を曇らせた。幅もない包帯はニ本半使い切ってようやくイルカの股間と臀部を隠したくらいだ。

お、俺の腰周りがもっと細かったらなあ…今更そんな事を悔やんでも仕方ないけど…
兎に角一番の猥褻な場所を隠す事ができたんだからよしとするか…
…しかし中途半端に余った包帯が勿体無いよなあ…この僅かに残った包帯で、もう少しどこかを隠してみるか…

一体何処をと考えて、イルカはぽんと手を打った。

そうだ、乳首だよ…乳首だったら隠せるんじゃないか…?

イルカは腰に巻かれた包帯の両端をびよんと引っ張って、乳首を隠すようにすると首の後でその両端を結んだ。丁度裸にサスペンダーのような感じだ。全てのいやらしい部分を隠し切った事と包帯を無駄にしなかった事に満足をしたイルカは、自分の格好が如何に奇抜かに気付く事はできなかった。

これでよし…!後は変化の術で…ええと、誰に変化しよう…?

一楽の親父でいいかと考えながら変化の印を組もうとしたが、ブルブルと震える手に上手く印を組む事ができない。イルカは思った以上に自分が体力を消耗している事を知った。

そうだよな…幾ら超人的な力を発揮できるといっても…基礎体力には変わりがないし…
こんなに短期間に能力以上の事をし過ぎたんだ…体がガタガタになって当たり前だよな…

これ以上術を使ってチャクラを消費したら、カカシを運ぶ力すら残らないかもしれない。カカシの事を思うなら変化の術は使わない方が正解だ。

あそこは隠せたんだし…変化の術はもういいかとも思うけど…でもやっぱり恥ずかしいもんだな…

ばれるにせよ、多少なりとも正体を隠したいと思うのは往生際が悪いだろうか。何か顔を隠せるようなものがあればと思ったが、カカシのポケットからは役立ちそうなものは何も見つからなかった。

ああ…っ、どうしたらいいんだ…?

苦しそうに荒い息を吐くカカシに、こんな事に悩んでいる場合じゃないとイルカがハッと危機的状況を思い出した瞬間。

そうだ…これだよ…!君は光僕は影、二人羽織り作戦だよ…!

イルカの頭に素晴らしい考えが浮かんでいた。

続く