(39)

まさに天地創造、万物創世。
一枚の葉っぱに自然の真理を見たような気がして、カカシはその神々しさにハレルヤ、と心の中で叫んだ。

な、なんて神々しくも心を揺さぶる姿なんだ…ああっ、気になる…葉っぱに隠された真理が…!
宇宙の謎を究明せよと誰かが俺に叫んでいる…!!

イルカの股間の葉っぱにカカシの視線は釘付けだった。見詰めているとクラクラと眩暈がして、はあはあと息が乱れるのだが、目を逸らそうとしても逸らす事ができない。今までにこれほどまでに芸術に近付いたお宝映像があっただろうか。かつてぷるぷる震えるコンニャクにも心が震えたが、そよそよと揺れる葉っぱの心許無さはそれ以上だ。
「あっはっはっ、驚かせてすみませんカカシ先生。」
イルカは自分の格好に何も疑問を感じないのか、腰に手を当て威風堂々と振舞った。

どうしてこんな所にいるのか…俺のいない間に何があったのか…

訊こうと思うのに。先ほどまではその事が気になって仕方が無かったのに。葉っぱの存在がカカシの関心を全て奪い去っていた。

し、しっかりしろ俺…!イルカ先生の貞操が守られたかを確認しなくちゃ…宇宙の真理はその次だ…!

カカシがそう思いながらもジッと葉っぱを見詰めていると、
「暇だったからトラップに挑戦してみたら、意外に簡単に攻略できちゃって…断崖絶壁まで伝い降りたのはいいんですけど、今度は帰れなくなっちゃいまして…途方に暮れていたんです。どうなる事かと思ってましたが、カカシ先生に会えてよかった…!」
事の成り行きをイルカが滔々と説明した。イルカの心底ホッとしたような笑顔には微塵の嘘も感じられない。

…あのトラップ…全部イルカ先生が…?俄かには信じがたいけど…でも…ありえない事じゃない…

カカシは皮が剥けたイルカの手に気付いていた。それは確かにイルカが脱出に自分の力を使った事を物語っていた。

これからはもっと難しいトラップを仕掛けないといけないな…
それから監禁されていても退屈しないように、何か娯楽性の高いものを用意しないと…2000ピースのパズルとか…

取り敢えずストーカーに強姦されていなかった事に胸を撫で下ろしながらも、カカシはイルカの危機感の無さに眉間に皺を寄せた。

こんな葉っぱ一枚で出歩くなんて…危険極まりない…!
かもがネギを背負っているどころか、ネギを背負って自ら鍋の中へ飛び込んでいるようなものだ…!
分かってるのかなあ、この人…?というか、素っ裸で外に出る事に躊躇いはなかったのか…?

常識家だと思っていたイルカの意外に大らかな一面を見せ付けられて、カカシは突然焦りを感じた。
こんな調子で他の誰かの前でも大らかに振舞われたのでは、心配で気が気ではない。
一応確認の為に、
「じ、事情は分かりましたけど…イルカ先生、裸で外に出る事に何の躊躇も感じなかったの…?」
カカシが尋ねてみれば、
「男ですし…素っ裸で外に出たからって何だっていうんです?第一ここは人の目がある街中でもないし…別にどうってことないですけどね。むしろ開放感があって清々しい気持ちと言うか何というか…」
あっはっはっとイルカが豪快な笑い声を上げる。その振動に股間の葉っぱもふるふると震え、まるで葉っぱまでもがカカシの心配を嘲笑しているようだった。

イ、イルカ先生…あなたって人は…なんて罪作りな人なんだ…あなたがそんなに裸に対して解放的な人だったなんて…!
これから俺は任務の度に今まで以上に心配で、気が狂いそうです…!!!!

カカシはくっと唇を噛み締めながら、イルカの呑気さを呪った。

どうにかしてイルカ先生にもっと危機感を持ってもらわなくては…!
確かに葉っぱ一枚の姿は素敵素晴らしいけれど…!俺以外の目に晒される危険があるのかと思うと、ときめいてばかりいられない…!

カカシはギラリとその隻眼を光らせ、イルカの股間を凝視した。

全力で葉っぱを毟り取る…!

カカシは決意していた。

葉っぱを毟り取って、恥ずかしい格好を強要するんだ…それで裸で出歩く事に危機感を持ってもらうしかない…!
これはイルカ先生のためなんだ。本当はそんな酷い事はしたくないけど仕方が無い…!!

苦渋に満ちた選択にカカシの心は痛んだ。何故か下半身もズキズキと痛い。

ああ…っ、イルカ先生の事を思うと体の色々な場所が痛い…!

なんだか頭痛までするようだと、カカシがそれを振り切るように頭を振ると、ぐらりと視界の風景が揺れた。

あ…?俺は一体…?

カカシがその異変に気付いた時、
「カカシ先生…!?だ、大丈夫ですか…!?しっかりしてください…!!!!」
遠退く意識の中、イルカの悲鳴染みた叫びが何処か遠くに聞こえた。

続く