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あの機密部屋に入ってみれば何か分かるんじゃないかな…?

イルカは最近そんな思いに囚われる様になっていた。
カカシが絶対に入ってはいけないと言っていた「里の機密部屋」。
あの部屋から聞こえるカカシの苦しそうな声。
そしてあの部屋から出てきた後のカカシは、何時にも増してげっそりしている。

何かある…あの部屋にはカカシ先生の健康を害する物が…!

カカシは新薬の臨床実験中だと言っていたが、あまりにカカシの痩せ細り具合が心配で、イルカはどうしてそんな無理をさせるのかと火影に直訴をしてしまった。
すると火影は吃驚した様な顔をして、そんな危険な事を里の重要な戦力であるカカシには課していないと言うのだ。
「もしそれが本当だとしたら…優秀な忍であるカカシの事、自主的に何かを開発しようとしておるのかもしれん…己の身を削って…流石よのう…」
難しい顔をしながらも、火影が感心したように頷いた。
その言葉にイルカは言い知れぬ衝撃を受けていた。

そうだったのか…なんて立派で高邁な志だろう…!
でも…でも、そこまで里の為に自己犠牲を払わなくても…今でも十分里の為に尽くしているのに!
俺はカカシ先生の方が心配だ…何とかその開発とやらを諦めてもらえないだろうか…?

そんな事を考えるのは忍として間違っているのかもしれないが、健康を害してまで続けるのは間違っていると思った。

第一、カカシ先生に何かあったら…俺…俺……っ!

考えただけで足がガクガクと震えてくる。とても立っていられないほどだ。
そうは言っても未だ全てが憶測で、本当にあの部屋で何か実験が行われ、その所為でカカシが健康を害しているとは、はっきりとは言えなかった。

何か証拠を掴まなくちゃ…!

イルカはそう考えていた。今の様子ではあの機密部屋に関して、自分は口出しができない。しかし証拠があれば火影に意見を仰ぎ、カカシの行動を公に止めてもらうことができる。もしあの機密部屋が何もカカシの健康に関係ないのであれば、それはそれでよし。カカシを病院へ連れて行けば済むだけの話だ。
イルカは心の中で、既に機密部屋へ侵入を試みる事を決めていた。

問題はどうやってあの部屋に入るかだよな…

よほど見られたくないのか、カカシのガードは固い。
鍵は何重にもかけられ、カカシのチャクラまで込められている。
しかもカカシが部屋の中に籠もってばかりいるので、イルカが進入するような機会もない。

それでも鍵は何とかなると思うんだよなあ…
いざとなれば少々荒っぽいけど、扉ごと壊してもいいし…
問題はカカシ先生だよなあ…

カカシは自分を監視していることもあって、始終イルカと行動を共にしている。

こんなんじゃ何時まで経っても部屋に入れないよ…どうしたらいいんだろう…

痩せ細っていくカカシに日々はらはらとしながらも、無為に日々が過ぎていく。
骨と皮になったカカシに、ついにイルカの心配が頂点に達した時、神は舞い降りた。
「イルカ先生…俺また二週間の任務が入っちゃったんです…」
ある日カカシが苦渋に満ちた顔でぼそりとイルカに告げた。

ええ!?そ、そんな状態で大丈夫なのか…!?

イルカは心配しながらも、来るべき瞬間が訪れた事にゴクリと唾を呑み込んだ。


続く

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