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し、しかし酷い有様だな…

イルカは入浴で体の垢を落とした後、未開の密林を思わせる自分の部屋の中を、カカシと一緒に探検隊よろしく切り開いた。すると未知なる菌類が其処彼処に蔓延り、滅多に見ない生物までもが生息していることを発見した。
「凄いですねー!このきのこは辞典でしか見たことがないですよー。さすがイルカ先生。」

何がさすがなのか。

思い切り凹むイルカの隣で、カカシが酷く感心しながら、へえ、薬剤調合部に持って行ってやろう、と大切そうに竹筒に仕舞いこんだ。そんなに珍しいものなのかとイルカは渇いた笑みを浮かべた。

ほんと、すげえ…俺のゴミ御殿…ってか、あのきのこ、毒でもあるのかな…
そんな中で平気で生活していた俺って…

今更ながらに自分の末恐ろしいほどのだらしなさに呆れていると、カカシは屈託の無い笑顔を浮かべて、
「このきのこはとても貴重なものなんですが、その生態はまだわかっていなくて…ひょっとしたら薬剤調合部がイルカ先生の家を調査しに来るかもしれませんよ。」
などととんでもないことを言う。
「そ、そんなの真っ平ゴメンです。」
イルカが慌てて口にすると、
「大丈夫ですよ、イルカ先生の家に生えていたとはばらしませんから!イルカ先生の家に他の誰にも上がって欲しくないし…」
カカシが顔を赤く染めながら伏目がちにポツリと呟いた。
イルカはその様子に居た堪れないものを感じた。常軌を逸した汚さの我が家を他の人に知られないように、というカカシの配慮が窺えて、堪らなく恥ずかしく、堪らなく惨めだった。

カカシ先生、今度こそさぞ呆れてるんだろうなあ…

考えても仕方がない事を考えながら、イルカは黙々とゴミを片付けた。カカシも不平をいわず、当たり前の様にイルカと一緒になって部屋を掃除してくれている。上忍なのになんていい人なんだとイルカは益々カカシへの崇拝を高めた。

嫌な顔一つせず、それどころか始終ニコニコした顔で俺の汚い背中も流してくれたし…
その上、無償でストーカーの監視までしてくれて…

イルカは人として忍びとして、カカシを崇めずにはいられなかった。その思慕の念が募るほど、イルカは駄目になっていく自分を感じた。

尊敬するこの高邁な志を持ったカカシ先生に、厳しく見詰められたい…
この人の前だからこそ、俺は輝けるんだ…!!

イルカはせっせと掃除に勤しむカカシの後姿を見詰めながら、しかし影の差した微笑を浮かべた。今はまたカカシが戻ってきたからまだいい。また自分は人として復帰できる。しかもより輝いた選りし精鋭として華々しく。

だけどまたカカシ先生が任務に出たら…俺は駄目人間に逆戻りだ…
カカシ先生に任務がある限り、俺の人生は株価の大変動よりもアップダウンが激しい…
周囲が何時までも受け入れてくれるとは限らないし、俺自身次はどこまで堕ちるのかわからない…
どうにかしなくては…!

イルカはこの期に及んでようやくのっぴきならない危機感を感じた。頭の中で忙しなく今後の事を考える。

カカシ先生の目がないとやっていけない自分。
すぐにゴミ御殿を築きあげてしまう自分。
カカシがいない場合、どうしたらそれを改善できるのか…。

その時イルカの頭にピンと閃くものがあった。

そうか…!その手があったか…!!これだよ、これ…!何となく上手くいきそうな気がする…!

イルカは興奮のままに後先も考えず、カカシに向かって言い放っていた。
「カカシ先生…お、お願いがあるんですが…俺…カカシ先生のうちに住んでもいいですか…?」
振り向いたカカシの手から、イルカの使用済みランニングがぽとりと落ちた。


続く

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