イトウさんへ捧ぐ〜茣蓙とカカイル〜
(今は夏真っ盛りと、皆さん月読で時間と質量を支配して読んで下さい…す、すまんです)


「折角の海なのに、泳がないんですか?」
イルカは薄目を開けて、逆光の中自分を覗き込む人物を見詰めた。夏の日差しを受けてきらきらと輝く銀髪が目に眩しい。もう一度目を瞑りながら、イルカはむにゃむにゃと答えた。
「…泳ぎたいのは山々なんですけど、茣蓙が気持ちよくて…」
後五分だけこうしていていいですか、と茣蓙に顔を摺り寄せる。屋根つきの海の家は茹だるような暑さの中でも涼しく、無造作に敷かれた茣蓙がひんやりと気持ちいい。
「さっきから後五分、後五分って…もう彼是一時間が経過してるんですけどねえ…」
拗ねたようなカカシの声に、イルカは半分眠った意識の中で申し訳ないなあと反省する。

俺も楽しみにしていたんだけどなあ…

今すぐカカシと大海原へと駆け出して行きたい気持ちはあるが、体の方がどうにもこうにも駄目だ。
カカシと予定をあわせて、夏の休暇に海に行く計画を立てたのはいいが、予想外だったのはイルカの仕事が立て込んでしまった事だ。休暇をとるのは無理かと思ったが、その事は決してカカシに言わなかった。忙しいのは自分だけじゃないと分かっていたからだ。

イルカ先生と一緒の初めての遠出ですね…!俺、すごく楽しみです…!頑張って残ってる任務終わらせちゃいますね…!

特別任務を予定の半分の期間で終らせて。ボロ雑巾のような有様で倒れこみながらも、カカシが嬉しそうな顔をしてそんな事をいうから、イルカも毎日日付が変わるまで残業して必死に頑張った。そしてお互い何とか休暇をもぎ取ったのだ。だがイルカはそこまでで力尽きてしまった。

結局昨日も徹夜だったからなあ…でもそれをいうならカカシ先生も同じなんだよな…
昨日新たな任務から帰ったばかりなんだから…俺より疲れている筈なのに…

これが上忍と中忍の基礎体力の違いってやつかとイルカは自分を不甲斐なく思いながらも、襲い来る睡魔をどうする事もできなかった。

本当、折角の海なのに…今日の為に頑張ったのに…

「…後、五分だけ。…五分経ったら、起こして、くだ…」
イルカは呟きながら、早くもくうくうと寝息を立てていた。
「もう寝ちゃったの?イルカ先生…」
カカシはイルカの傍らに腰を下ろして、イルカの汗で貼り付く前髪を払ってやった。
「隈なんて作っちゃって…」
無理しなくていいって言ったのに、とカカシは憔悴したイルカの寝顔に苦笑した。

あんたが楽しめなくちゃ俺も楽しいはずは無いでしょ?

それでも、とカカシは思う。それでも、自分との約束の為に無理してくれたイルカに堪らない嬉しさを感じる。

夏の思い出は、俺にはこれで十分。

カカシは団扇でぱたぱたとイルカに風を送りながら、

でも起こさなかった事を後で怒られるだろうなあ…

その時の事を覚悟する。それとも自分に申し訳なかったと消沈するだろうか。その時はその後ろめたさにつけ込んで、あれやこれや今までしてもらえなかった事もしてもらおう。よからぬ妄想ににんまりと笑みを浮かべながら、カカシは茣蓙のあとがくっきりとついたイルカの頬にそっと口付けた。


終わり


イトウさん、長々と待たせたのにこんな出来具合で申し訳ありません…(伏目)。しかも時期はずれ…。
もっと精進して何れリベンジしたいと思いますが、取り敢えずご査収ください。
リクエストありがとうございました!み、見捨てないでください…  しの