イルカは真剣な眼差しで手の中のヨモギパンを見つめていた。
小腹のすいたイルカが台所を物色してようやく見つけた一品だ。
すぐさま食べてしまいたいが、表示された賞味期限はギリギリ。イルカは慎重になっていた。
いつもなら多少賞味期限が過ぎていようとも頓着なく食べてしまうのだが、今は梅雨だ。じめじめとした天候に全てがあっという間にカビていく事をイルカは知っていた。イルカは顔を近づけ、ヨモギパンを何度も引っ繰り返してはしげしげと見詰める。

緑色で、黒いツブツブだらけのヨモギパン。

果たしてカビているのか、カビていないのか・・・・何度目を凝らしてみてもよく分からない。イルカは暫しの間熱心にヨモギパンの現状を推察していたが、遂には諦めてゴミ箱に捨てた。
この前も前日の夕飯時から出しっ放しにしていた味噌汁を、大丈夫だろうと翌朝飲んだら腐っていた。あんな思いをするのはごめんだった。それでも未練がましくイルカは思わず呟いていた。

「ヨモギパン・・・食べたかったなあ・・・」

それを物陰からこっそりと覗いている、禍々しき存在に気付きもしないで。

 

ヨモギの惨劇

 

イルカは激しく動揺していた。ベッドの上に静かに横たわる物体に。

ベッドの上に横たわる物体の名は、はたけカカシ。近隣諸国にその名を轟かせる凄腕の忍者だ。そんな超エリートのカカシとイルカは只今婚約期間中だ。即籍を入れようとして、激しく狼狽する三代目に止められた。

「婚約をして様子を見てからでも遅くはない、イルカよ、はやまってはいかん!何が何でもそうするのじゃ!」

くわと詰め寄られ、イルカは思わず頷いていた。そう、三代目は知っているのだ。木の葉一の技師と歌われる男はたけカカシが木の葉一の変態であるという事を。イルカはそんな事は百も承知だったので、婚約期間などせっかくの決意に水が差されたような気がして有難迷惑だったが、今となっては少し三代目の気遣いに感謝したい気持ちになっていた。

カカシの変態振りには慣れたつもりでいた。

しかしベッドの上に転がるカカシの姿にめまいを感じずに入られない。

「イルカ先生、おかえりなさいvv」

にっこりと恥ずかしそうに微笑むカカシは全裸の上、顔も胸も腹も・・・・とにかく全身が緑色だった。その色に黒いツブツブが混じっているのをみて、イルカは悲鳴を上げていた。

カカカカカシ先生・・・・カ、カビてる・・・・!?いや、そんなわけねえ!落ち着け俺!しっかりしろ・・・!

プンと漂ってきたヨモギの強烈な香りがイルカを覚醒させた。

まままままままさか・・・・・!!

イルカが目を凝らしてみると、緑のそれは勿論カビではなく、擂ったヨモギのようだった。ふんだんにヨモギの練り込まれたカカシ。しかも更によく見るとその胸の上に乳首を隠すように、お椀型のヨモギパンが乗せられていた。ヨモギパンからはホワンと湯気が出ている。立ち込める甘い香り。多分できたてなのだろう。とてもおいしそうなのにちっとも食欲が湧かない。それどころか、イルカは胃がしくしくと痛み出すのを感じた。カカシはそんなイルカの様子にお構い無しに、うっとりと呟いた。

「出来立てです・・・vvイルカ先生がこの前すごくヨモギパンを食べたそうにしてたから・・・作っちゃいました・・・!さあ、思う存分食べてください・・・っ!!」

鼻息荒く宣言したカカシの股間で、何かがピコッと顔を出した。

それは・・・まさにヨモギパンでホットドック、ホットドックでヨモギパン。

どちらでもいいが、とにかくできたてのヨモギパンに今は雄雄しく立ち上がったカカシのものが挟まれていた。カカシの股間でそれがピコピコ揺れては、ヨモギの匂いのする芳しい湯気を上げる。
あまりに常軌を逸した光景にイルカは腰が抜けて、思わずその場にへなへなと座り込んでしまった。

俺はアレを食べる事になるんだろうか・・・・?

呆然と考えながら、自然と込み上げてくるものに鼻の奥がつんとする。

「あ・・・熱くないんですか・・・?」

突っ込みどころはそこじゃない気がするが、最早イルカに何が言えようか。その異常を糾弾したところで今更どうにもならない。イルカの言葉にカカシは恍惚と答えた。

「熱いです〜!ちょっと痛いくらいです〜!だから、はやくイルカ先生食べてください・・・!できたてのうちに早く・・・!」

 一生懸命作りました、と嬉しそうに言うカカシの顔は「褒めて」といわんばかりに強請る顔をしている。緑でツブツブの顔をして。

馬鹿だこの人・・・ほんとーにどうしようもない馬鹿だよ・・・

その方向性の間違った一途さを可愛いと思ってしまうんだから仕方が無い。イルカは本格的に諦め、そして決心した。

明日、また三代目のところに行ってみよう・・・もう婚約期間は十分だって・・・・

「おいしそうですね・・・それではいただきます・・・」

イルカは涙で視界を滲ませながら、取り合えずカカシの股間に顔を近づけた。乳首の上のヨモギパンはともかく、まず先に大事な部分を救済せねばならないだろう。きっと軽い火傷をしているに違いない。我慢しなくていいところで無駄に我慢の利く人だ。

愛されてるなあ、俺・・・

イルカはポジティブシンキングで無理矢理涙をやり過ごすと、ぱくっとヨモギパンを口に含んだ。もうヨモギパンの甘さとは別のねばっとしょっぱい味がした。人生のしょっぱさと甘さだ。

「ああ・・・っvvイルカ先生・・・・っ」

ヨモギパンとそれとは別の硬く張り出したものを頬張りながら、イルカの嫌いな食べ物リストにまた一つ項目が増えていた。

 

終り

 

このSSは、メールを下さったfumiyoさんのヨモギパンのカビの有無を確かめるお話がとても面白かったため、了承の上カカイルで書かせて頂きましたvvま、まさかこんな変態話に使われるとは思っていなかったことと思いますが・・・ご、ごめんなさい(><)変態話ですがfumiyoさんに捧げます。いや、萌えたんです。ヨモギパンのカビ(笑)ありがとうございました!

しの