Friends番外 「結婚しよう」
「あんた、何やってんですか・・・・」
イルカは玄関の扉を開けたまま、呆然と呟いた。
あ、見つかっちゃった、と恥ずかしそうに頬を赤く染める男の姿はまるで子供のようで、表情だけ見ているとその端正な容貌と相俟って、微笑ましくすらある。
しかし、イルカがちっとも笑えないのは男が、全裸だからである。
しかも・・・・何この人・・・・?
俺の箸しゃぶってるんですけど・・・・・
そのあまりに奇異な光景に、イルカは背筋が凍る思いだ。
全裸でうっとりとイルカの箸を舐る男の名前は、はたけカカシ。木の葉の里が誇る天才エリート忍者で、忍として尊敬と畏怖を集めている。
忍としての名誉を欲しいままにする男には、しかし重大な欠陥があった。
希代の変態だったのである。
その変態に強烈にストーカーされ、済崩し的に恋人となったイルカは、カカシのそうした性癖にもかなり慣れたつもりでいた。
つもりでいたが・・・・。今目の前に広がる光景に目眩を感じずにいられない。
全裸のカカシの股間にビンビンに張り詰めた一物を確認するに至っては、ちょっとだけ泣きそうな気持ちになった。
ううう・・・・まさかと思うが・・・・俺の箸を舐めながら○ナニーしてたんじゃないだろうな・・・・
熱くなる目頭を押さえながら、
「何してたんですか、カカシ先生?」とイルカは再度尋
ねた。
カカシはバツが悪そうにもじもじとしながら、
「何って・・・・イルカ先生は意地悪だなあ・・・・見たら分かるじゃないですか・・・・それとも俺に言わせたいんですか・・・・?」と何処か興奮した様子でハアハアと詰め寄ってくる。
「き、聞きたくありません・・・・!」
イルカは慌てて耳を塞いだ。
そう、こんなの聞かなくても分かる事だ。
でも、ちょっと信じられなかったので、つい口に出してしまっただけだ。できれば思い違いであって欲しかった。
カカシは聞きたくない、と叫ぶイルカの声を無視して、
「イルカ先生のお箸舐めてたら・・・なんか興奮しちゃって・・・・はじめはちゃんと服着てたんですけど・・・・なんだか段々イルカ先生とセックスしてるような気分になってきちゃって・・・・vv」と照れ臭そうにガシガシと頭を掻いた。
なんで箸舐めてるだけでセックスしてるような気分になるんだよ・・・・!?
・・・ってゆーか、舐めるな人の箸を・・・!!
イルカは心の中で絶叫しながら、その場にがくりと膝をついた。
「あんた・・・・なんでそんなに変態なんですか・・・・」
呟いた声はみっともなくも震えていた。そんな変態中の変態、キングオブ変態の男が自分の恋人だとは。
カカシはイルカの言葉にさも心外だというような顔をした。
「イルカ先生・・・・俺は変態じゃありません!!俺はもとはとってもノーマルで淡泊だったんです。ただイルカ先生、あなたに出会ってから俺は変わってしまった・・・!!俺の中の野獣が目覚めたというか・・・・あなたのその蠱惑の瞳が俺を狂わせるんです!!」
ああっ、何て罪な人なんだ、とカカシがイルカのことを悩ましげな目をして見詰める。
カカシの言葉をイルカは疲れた表情でじっと聞いていた。俺に責任転嫁しやがって、と内心悪態をつきながらも、カカシの言葉にどうやら嘘はないようなのである。
というのも、カカシとこんな関係になってから、イルカはカカシのあまりの変態ぶりに思い悩む事もあり、自分のこととは言及しないまでも、それとなく周りの皆にカカシの性癖について尋ねていたりしたのである。
所謂、情報収集というやつだ。
すると信じがたい事に、カカシは別に普通の人だと皆が一様に口を揃えて答えるのである。
はたけ上忍についてあっちの事で悪い噂を聞いたことがないなあ。
すごくもてるのに淡泊みたいで、あんまり女と付き合ったこともないらしい。遊郭遊びもしない上忍だって、結構有名な話だぜ。
数少ないはたけ上忍と付き合ったことのある女の話によると、別れの原因ははたけ上忍が淡泊すぎるところにあるらしい。要するにセックスレス気味なんだと。
天才エリートは超過任務のせいで、精力が減退してるのかもなあ。気の毒に・・・・。
イルカの耳に届く情報は皆、そんな調子のものばかりだった。
「そ、そうかー?はたけ上忍って、粘着質で執拗で少し変態チックなところがあると思わないか?」
イルカがそんな風に口を挟もうものなら、
「何言ってるんだ!?凄い忍なのに驕ったところのない、あんないい人を。」
「そうだぞ、イルカ。言うに事欠いて変態なんて!」
非難轟々集中砲火だ。
つまり、カカシはイルカにだけちょっと、いや大分おかしいらしいのだ。
それだけ愛が深いという事なんだろうか。
それは果たして喜ぶべき事なのかどうなのか。
イルカがこめかみを揉みながら、ちらと卓袱台の上を見ると、何故かそこには自分愛用の座布団やら歯ブラシやらまで置いてある。
「・・・・カカシ先生・・・・こ、この俺の座布団と歯ブラシは一体・・・・?」
イルカは嫌な予感を抱きながらも、またしても質問をした。
まさか・・・・!
カカシは何故か胸を反らせ、ついでにアソコも反らせて高らかに言った。
「これは・・・・俺が如何にイルカ先生を愛しているかの証拠です・・・・!!俺は本当は淡泊なのに、イルカ先生の事になると抑えが利かなくて・・・・!!例えばこの座布団!!これにいつもあなたの可愛いお尻が乗っているのかと思うと・・・・!!」
ああっ、と興奮したように叫びながらカカシが座布団にすりすりと頬擦りし、鼻先を埋めてくんくんと臭いを嗅ぐ。
するとカカシの股間のものは、ぐんと一段と容積を増した。
イルカはそれを恐怖の面持ちでただただ見詰めた。
「例えば、この歯ブラシ・・・・!!」
カカシはそんなイルカの様子に構うことなく、既に暴走していた。
「この歯ブラシが、いつもあなたのあったかくて狭い口の中を、唾液まみれで行ったり来たりしてるのかと思うと・・・・!!」
イルカ先生〜!と感極まった声で叫びながら、カカシはイルカの歯ブラシ(硬め)をガシッと手に握ると、何と汁の滲み出た己の先っぽにあてがって、微妙に擦りだした。
「あんたっっっ、何すんだーーーーーーーー!!」
イルカはカカシの予想を遥かに超えた変態っぷりに度肝を抜かれながらも、遂に大声で叫んでいた。
しかし叫んでみたところで、もう遅かった。カカシは恍惚と眉を寄せながら、ウッと呻いて白濁した汁を勢いよく撒き散らしていた。
汁まみれの俺の歯ブラシ。あれはもう使えまい。
思いながらもイルカは戦慄する。
・・・・ってゆーか・・・・まさか今までもこんな事してたんじゃないだろうな・・・・こんな事して・・・・また元通りの場所に戻していたんじゃ・・・・
イルカは涙で目元を濡らしながら、イルカ先生に見られてると思ったら、いつもより興奮しちゃったvvと幸せそうに笑うカカシをじっと見詰めた。
・・・・変態過ぎる・・・・
イルカはちょっぴり、カカシと上手くやっていく自信がなくなっていた。
でも、こうなってしまったのはどうやら俺の所為らしい・・・・天才でエリートで。ノーマルで淡泊だったカカシ先生。
もし、近い将来俺と別れるようなことになっても、こんなに変態になってしまった後では、最早元には戻らないだろう。一生カカシ先生は変態のままなのだ。
イルカはそんなカカシを不憫に思うと同時に、自分が別れたらこんな変態を誰が面倒見るというのだろうと思った。
・・・・誰もいないよな・・・・こんな人を許せる奇特な人なんか・・・・
自分以外は、とイルカは小さく呟く。
そう、きっと誰もいない。それならば諦めてしまおうとイルカは決心した。
俺以外は誰も面倒を見れないんだから。
そんなカカシ先生を放っておけないんだから。
とんだ苦労性だと泣き笑いしながら、イルカはカカシに向かって言った。
「俺・・・・責任を取ります。」
解放後の熱い息を吐きながら、カカシがイルカをとろんと見詰める。なんて阿呆臭い人なんだ。だが、阿呆な子ほど可愛いものなのだ。
「・・・・・カカシ先生、俺と結婚しましょう。」
憮然と言い放ったイルカに、カカシが瞬間驚いた顔をして、すぐに何かう〜う〜言いながら物凄い勢いで抱きついてきた。カカシは感無量といった様子でイルカ先生〜と子供のようにえぐえぐ泣きながらも、既に硬さを取り戻した己のものをグリグリと擦り付けてくる。
せめて服着てる時に言えばよかったなあ、とイルカは考えながらも、でもどうせこうなるんだから同じかと嘆息して、カカシの唇に噛み付くように口付けた。
(終わり)