Friends6

「どうして俺こんな格好してんだろ...」

イルカは自分が脱いだ服を足元に見つめながら、茫然と呟いた。たった今、イルカは服を着替えたばかりなのだ。しかし着替えた物は服と言えるかどうか。イルカは恐る恐る覗いた鏡に映る自分の姿に、「あふぁおえ...!」と訳のわからない奇声を発してしまった。
その声を聞き付けて、「どうしたんですか、イルカ先生?変な声を出して。もしや変質者が!?」とカカシが扉を叩く。
「い、いえ...何でもありません...」と答えながら、イルカは自分の視界が滲むのを感じた。情けない。こんな格好、幾ら変質者の注意をひくためとはいえ、やり過ぎなんじゃないだろうか。しかしカカシと話していると、ああ言えばこう言う方式でなんだか丸めこまれてしまう。扉を開けてカカシの元へ行かなければならないというのに、イルカは踏ん切りが付かなくて部屋の中で茫然と立ち尽くしていた。
すると、「もういいですか、イルカ先生?入りますよ〜。」とカカシの声が聞こえた。そして次の瞬間にはガチャガチャガチャバキリ、という何かが壊れる派手な音とともに、鍵をかけていたはずの扉が開いた。

「ええっ!?」い、今カカシ先生、ドアノブ壊した...!?

そうイルカが叫ぶのと、

「....っ!イルカ先生....!」とカカシが興奮した声で叫ぶのとはほぼ同時の事だった。

遠慮無い不躾な視線でイルカの姿を凝視するカカシに、イルカはカッと頬を赤らめた。頬所の話じゃない。羞恥に全身が赤く染まっていた。

「み、見ないでください!」咄嗟にその場に座り込んでしまったイルカを、

「どうして座っちゃうの?」とホニャと相好を崩したカカシが引き上げて立ちあがらせる。

「とてもよく似合ってますよ、その裸エプロン♪」

だあああ〜〜〜〜っっっ!嬉しくねえええええ〜〜〜〜!!とイルカは心の中で大絶叫した。そうなのだ。イルカは変質者の注意を引くために、なんと裸にエプロンといった格好をしているのだ。取りあえずエプロンの下に新品のパンツははいているのだが、それにしても情けなさ過ぎる。

「本当にこんなんで変質者の注意を引きつけておけるんでしょうか...?」

イルカが弱々しく涙ながらに訴えると、勿論ばっちりです!とカカシが鼻息荒く即答する。その瞳は爛々と輝き、顔は今までにないほど紅潮していた。その楽しそうな様子に、はあ...カカシ先生俺の事を使って遊んでないか?とイルカは少し疑ってしまった。カカシがいつものようにハアハアとしながら、
「イルカ先生のしどけない姿に変質者が釘付けになっているところを、俺が捕獲しますから!ただ、ちょっとこのパンツが...」と言いよどんだ時には、既にイルカのパンツに手をかけ、ツルリと半分脱がしていた。
「ぎゃーーー!な、何するんです!?カカシ先生!!」イルカはあまりの事態にジタバタと暴れ出した。
「いや、このパンツ、脱いだ方が良いですよ。その方が絶対成功率が上がりますって!大体変質者だからといって、弱いと決まった訳じゃないんですよ?昨夜はあなたの攻撃もかわし、素早く逃げたというし...ひょっとしたら俺よりも腕の立つ奴かもしれません。だから備えあれば憂いなしということで、ここはバーンと脱いじゃいましょう!男同士なんだし、そんなに恥ずかしがる事もないでしょ?」
そう言うカカシの顔は恐ろしくなるほど真剣で、鬼気迫るものがあった。
「わ、わかりました...じ、自分で脱ぎますから、手を放してください!」とイルカも必死になって怒鳴り返すと、ようやくカカシの手が離れた。手を離す瞬間、「ちぇー」と小さく不貞腐れたような声が聞こえた気がして、イルカは思わずカカシの顔を見つめた。
するとカカシは「ん?どうしました?」といつものように惚けた返事をする。
「い、いえ、何でも...そ、それより出ていってください。脱いだらそちらの部屋に行きますから...」
イルカはグイグイと強引にカカシを部屋から追い出した。カカシは少し不服そうだったが、しぶしぶとイルカに従った。
イルカは再び一人になった部屋で、ガクッとその場に座りこんだ。何でも手伝うと言った自分に激しく後悔していた。

はあー...。でもカカシ先生は俺のことを思って、やってくれているんだよなあ...

カカシも自分の裸エプロン姿など見たくも無いだろうに、本当に自分の引き受けた事に対し、真面目で律儀な人なのだとイルカは思う。

俺も恥ずかしがってはいられないよな...カカシ先生の言う通り、男同士だし恥ずかしがる必要は無いんだ。それを俺は年甲斐もなく大騒ぎして....意外に脱いでしまえば諦めがつくのかもしれないな。

イルカは目を瞑って、とりゃあ!とパンツを一気に脱いだ。
「お待たせしました、」とイルカが隣りの部屋に行くと、カカシはハッと弾かれたようにしてイルカに視線を向けた。その視線が活火山のマグマのように熱い。しかしイルカはその事に全く気がついていなかった。というのも、目にしたカカシが何故か上半身裸だったからだ。
「え...ど、どうしたんですか?なんでカカシ先生まで...」
イルカが吃驚してオロオロしていると、
「イルカ先生、何だか恥ずかしがってたみたいだから...俺も同じに裸になれば恥ずかしくないかなあと思って...」とカカシがえへへと笑った。
カカシ先生はそんなことまで考えていてくれたのか、とイルカは胸がじ〜んとした。
「すみません、俺...あの、もう大丈夫ですから...」
イルカが裾の短いエプロンの端を押えながら言うと、カカシは「そうですか!それじゃあ、次に教えておきたい事があります。」と言い出した。

教えておきたい事...?

ふとイルカがテーブルに目をやると、そこにはかつてカカシの部屋で見た特殊なロープがあった。カカシはそんなイルカの視線に気付き、「そうですよ、これの使い方を教えます。俺が捕獲した変質者を押えつけている間に、イルカ先生に縛ってもらおうと思って。」とニッコリと笑顔を浮かべた。浮かべた笑顔から鼻血がツーと垂れた。

「あわわ、カカシ先生!?鼻血、鼻血!!」とイルカは慌てて叫びながらティッシュを渡した。
テーブルの上からティッシュを取った時、ロープの他にあの謎の軟膏も転がっている事にイルカは気付いた。

へえ...あれも使うんだ...何に使うのかな...?

その時のイルカは呑気にそんな事を考えていたのであった。