Friends3

まただ。また失くなってる...。

イルカはベランダに干していた洗濯物を取り込もうとして、思わず眉を顰めた。
ここ連日、ずっとイルカは洗濯物について悩んでいる事があった。
別に10年間使い続けているオンボロな二層式洗濯機を全自動に買い替えようかとか、洗剤が切れそうだから新聞屋にせびらないと、などという常日頃の悩みではなく、今イルカが抱えている悩みはもっと深刻で切実なものだった。

どうしてなんだ?また、またパンツだけ失くなってるよ!

最初のうちは風で飛ばされてしまったのかもしれないと周囲を捜してみたりしたが、こうも毎日、しかもパンツだけ失くなるというのはどう考えてもおかしい。おかし過ぎる。もうこれは誰かが意図的に自分のパンツだけ盗んでいるとしか思えなかった。

だけどそんな奴いるかなー...。

いつもそこまで考えてイルカは行き詰まった。年頃の女性の下着ならともかく、自分の、つまり男の下着などを盗んで嬉しい輩などいるのだろうか?しかもイルカのパンツはブランドの高価なものでもなく、3枚千円で売っているペラペラの廉価品だ。もし本当に盗まれているのだとしたら、そいつはよっぽどの変態に違いない。
イルカはそう思いながらも、取りあえず今日の自分を憂えていた。元から10枚くらいしかなかったパンツが、今履いている分を抜かして今日で全て失くなってしまったのだ。

仕方ない。コンビニにでも買いに行くか...。

イルカがコンビニへ出かけようと玄関に鍵をかけていると、お隣りの家の扉が開いて、そこからカカシがヒョコリと顔を出した。

「あれ?イルカ先生、こんな時分に今からお出掛けですか〜?実は夕飯の肉じゃがを作り過ぎちゃって、一緒に食べませんかってお誘いしようと思ってたところなんですけど...。」

カカシの台詞にイルカの心はグラリと揺れた。肉じゃが。それは独身男の心を惹きつけて止まない、お袋の味ナンバー1の料理だ。イルカも勿論大好物だった。しかもカカシが料理上手だという事をイルカは既に知っていた。というのも、カカシは引っ越してきてからというもの、「作り過ぎちゃって。一緒に食べませんか。」とよくイルカを誘ってくれるのだ。カカシにすっかり餌付けされ気味のイルカだった。

「肉じゃがですか!俺、大好物なんですよ。あの、すぐに戻りますんで、その後でもいいですか?ちょっとコンビニに行って来ます。」

イルカがグウと鳴るお腹を擦りながら答えると、カカシが「何を買いに行くんです?俺のうちにある物だったら、わざわざこんな時間に買いに行かなくても、差し上げますけど?」とイルカの様子を伺った。
必要としている物がお味噌や熨斗袋ならば、イルカもそんなに迷わなかったのだが、物がパンツなだけにイルカはどうしようかと躊躇った。
そんなイルカにカカシは眉尻を下げてションボリとした。

「すみません...しつこく言って。肉じゃがは今日俺一人で食べますから...。」

「ああっ、ま、待ってください、肉じゃが、じゃなくてカカシ先生!違うんです、俺...あの、ぱ、パンツが...」途中まで言いかけてイルカは顔をカアと赤くした。情けない。本当に情けない。でもここまで言ってしまったなら、途中で止めるのはかえって変だ。イルカは意を決して言った。

「今日履くパンツが無いんです。だから買いに行こうかと。」

するとカカシは拍子抜けするほど普通に答えた。

「なんだ、そんな事ですか。大丈夫ですよ、俺んちに新品ありますから。あげますよ、イルカ先生に。これでもう問題解決ですね!」

カカシはニコニコ笑いながら、それじゃあ一緒にご飯を食べましょう?と改めてイルカを誘った。
カカシの家で肉じゃがを食べながら、イルカはカカシに自分のパンツ事情について語らねばならなかった。というのも、どうしてわざわざパンツを買いに行くところだったのか、そんなに洗濯をため込んでいるのかとカカシに不名誉な疑いを掛けられたからだ。

「本当に困ってるんです。警察に知らせるべきでしょうか.?でも、俺なんかの下着が盗まれてるとか言っても、信じてもらえそうも無いですよね...はは。」

情けなく笑うイルカに、カカシはフルフルと首を横に振って見せた。

「いいえ、俺には分かります。イルカ先生はご自分を分かっていないみたいですね。俺は断言します!あなたの下着を狙ってる不埒な奴は、この里に巨万といます!絶対に!」

あんまり嬉しくない事を断言されて、イルカは「えー」と思わず不服の声を上げた。

「そんな物好きいませんよ...だって今までは盗まれた事も無いし。第一俺そんなに...」

もてませんよ、と続けそうになってイルカは慌てて口を噤んだ。パンツを盗まれた上に自嘲的な気分になっていたのでは、情けなさ過ぎるではないか。
そんなイルカにカカシはキッと眉を吊り上げた。

「そんなことはありません!前々から思っていたんですけど、イルカ先生はもっと注意すべきですよ。あなたは無防備過ぎます!」

目をギラギラさせながら、鼻息荒くカカシはイルカにお説教をし始めた。あまりに延々と続く話にイルカは何処か恐ろしいものを感じて、話題を変えねばと少し焦った。

「そ、そうだ。カカシ先生がくれるっていったパンツを出してくれませんか。ちゃんとお金払いますんで。」

イルカの言葉にカカシは一瞬目を瞬かせて、「ああ、そうでしたっけ!すみません、忘れてました。今すぐ出しますね!」とウキウキした調子で言った。

ふう、お説教が終ってよかったとイルカが胸を撫で下ろしていると、カカシが引き出しをごそごそと物色して、まだ開封されていないパンツをイルカに差し出した。

「カカシ先生、ありがとうございます...!」

パンツを受け取ったイルカは、しかし次の瞬間ビシリと固まった。カカシがくれたパンツはTバックの紐パンだったのだ!後の紐具合にも度肝を抜かれたが、それ以上に前面の布地面積のあまりの小ささに、イルカは失神してしまいそうだった。

こんなんじゃ収まりきれねえだろ...っていうか、これなら履いてないのと一緒じゃないか...!

履いていないのより始末の悪いパンツに、イルカは一人赤くなったり青くなったりした。そんなイルカの様子に構うことなく、「そのパンツ着心地最高ですよ、まるで着けてないみたいなんですから!」とカカシは得意げに言う。

そうだろうな、着けてないみたいだろうな、これじゃあ。

イルカは一縷の望みをかけて、「あの、トランクスとかもっと普通のはないですか?」と訊いてみた。しかしカカシの答えは無情だった。「いいえ〜?俺のパンツは皆このタイプですよ〜?」イルカはガクッと肩を落とした。

仕方ない。背に腹はかえられない。どうせ今日だけだ。

「ありがとうございます...」

イルカは諦めてそのパンツをはく決意をした。

その夜風呂から上がったイルカは、ゴクリと唾を飲みこんでそのパンツと対峙した。
たかがパンツ。されどパンツ。
よくわからない事を考えながら、イルカは意を決してパンツをえいっとはいてみた。
25年間ずっとトランクス派だったイルカには、妙に勇気の要ることだった。
はいてみると予想通りスースーするし後ろの食い込みも気になる。前も何だか心許なく、とってもアクティブフリーな感じだ。イルカは恐る恐る自分の股間に目を遣って、声にならない叫びを上げた。

「◎×▲〓※....っ!◇∴●....っっっ!!!!」

駄目だ...!俺にはこのパンツをはきこなす度量が無い....!でもこれしかパンツは無い...!

イルカはなるべく見ない様にしながら、すぐさまパンツの上に寝巻のズボンをはいた。もうどうせ寝るだけだから、と自分に言い含めながらサッサとベッドに潜り込む。そうしてベッドの中で何度も寝返りを打っていると、なんだかおかしな具合になってきた。密着した足りない布切れから溢れる自分のものが、イルカが動く度にその布切れに擦られるような感じになるのだ。イルカは何度目かの寝返りで「んっ...」と鼻から抜けるような甘い声を漏らしてしまっていた。

うわ....まずいよ、これ....

甘い痺れが腰に集まり始めていた。