後編


カカシが勝手に傷ついて疲れていくさまは、滑稽を通り越して哀れだった。
それがイルカの与り知らぬことだけに。より一層。

いつか破綻が来るだろうと思ってはいたが、俺はそれを手を拱いて見ているだけだった。
所詮俺は当事者ではないのだ。それに恋愛において第三者が介入して、縺れることはあっても上手くいくことはないというのが俺の持論だ。
持論だったが。
その持論を覆してでも、介入したい衝動に駆られている。
カカシが、長期任務に志願したからだ。



「逃げるのか。」イルカから。

カカシの奴を捕まえて、短く尋ねた。俺は遠回しなことは好きじゃねえ。のっけから直球勝負だ。
俺の言葉にカカシはフ、と薄く笑った。

「俺はね、手放すんだよ。」分かってないねぇ、とカカシが呟く。

馬鹿が。ちゃんと分かってる。

手放すんだよ。

カカシの言葉に俺は苛立ち、次々と煙草に火をつけては、ろくに味わうこともせず灰皿に押しつけた。

カカシが渇望していたもの。カカシの空洞を満たしてくれるもの。カカシが、イルカから、欲しかったもの。
カカシは、自分のそうしたものたちを求める心を手放すと言っているのだ。
この先ずっと、もう愛はいらないと。
愛を、手放すと。

「イルカはなんて言ってる?知ってるのか?」

「内緒。それにもう決めたから。」これで終いだとばかりにきっぱり言い切る。

こうなったカカシに何を言っても無駄だと経験で知っていた。

俺はイルカのことを話すときのカカシの顔を思い出していた。
面倒でイカレた奴だと思っていたが、イルカのお蔭で、ちったぁ、可愛げのある奴になってきたところだったのに。勿体ねぇだろうが。

ならば。もうイルカをあたるしかない。
俺は持論を曲げる決意をした。
介入しないどころか。土足で踏み込んでやる。





思ったとおり、イルカは何も知らなかったようだ。
俺はカカシが不憫だったので。
イルカに少しばかりの同情を分けてもらう気でいた。カカシを引き止めてもらいたかった。

だが。
俺が切り出すより早く。
イルカがぼろぼろと大粒の涙をこぼして泣き出したのだ。

たまげて頭が一瞬空白になった。

なるほど、そういうことか。合点がいった俺は込み上げてくる笑いを抑えきれなかった。

カカシは馬鹿だ。
思えばあいつは始めから全て放棄していた。イルカに関わる全てを。
確かにイルカは全てに惜しみなく愛を注ぐ。
だが、求めれば。
特別って奴を手に入れられたのじゃないだろうか。
詭弁めいたそれはイルカの口から紡がれれば、きっとカカシの真実になる。

馬鹿くせぇ。
なんてめんどくせぇ奴らなんだ。やはり俺の持論は正しかった。放っておこう。だって問題ねぇだろ?
ただ、ちょっとまどろっこしい奴らだから、早道のヒントくらい教えてやろう。
なんたって、俺は特別親切な奴なんだ。



「お前、自分の気持ちはちゃんと伝えたほうがいいぜ。あいつは馬鹿だからな!」




                        終
                        戻る