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「お疲れ様です。」
微笑んで書類を受け取る男の列はいつも混んで居る。
手際が悪いのでは無く、敢えてこの列を選ぶ人間が多いからだと気付いたのはもう、随分と前の話だ。
特にくの一が多い気がしていたが、理由は先刻の紅の説明で判った。
「子供達の様子はどうですか？」
いつもの決まり文句に、
「あ〜、相変らずです。ナルトとサスケは喧嘩ばかりだし、サクラはサスケばっかりだし。」
と、毎回似たような返答をする。
何かもっと喜んで貰えそうな話がしたいのだが、そう毎日に変化がある訳じゃない。
結局似たような事しか言えないのだ。
…それでも修行が上手く行った時なんかはちゃんと教えて、『それは良かった』と極上の笑みを返して貰ったり、している。
「そうですか。まぁ、元気なら良い事です。」
笑って、書面に目を通し判を押されてしまえばもう、俺は帰るしかない。
「はい、結構です。」
「じゃ、失礼します。」
軽く会釈して横にずれると、一瞬ふわりと優しく笑って軽く頭を下げてくれる。
だが、それでおしまいだ。
あの人は次の相手に「お疲れ様」と言っている。
それが何故か、酷く残念だった。
「そろそろ休憩にするぞ〜」
太陽が天辺を回ったのに気付き俺は子供達に声を掛けた。
今日は修練日。朝からぶっ通しでチャクラの鍛錬をやらされていた三人は肉体労働以上にへろへろになっている。
「あれ、お前おにぎり一個だけ？」
「へへっ今日は良いんだってばよ。」
ごろんと握り飯一つのナルトに疑問を投げると、鼻を擦りながら得意そうな笑顔になる。
訳の判らない俺に対して、心なしか顔付きが変わったのはサスケだった。
「…イルカ先生か？」
「は？！」
「そうだってばよ。昨日の夕方偶然会って。」
今日鍛錬だって言ったら、丁度休みだから試作品持って行くって言ってたってばよっ
何故か威張るナルトに対し、サスケも食べ始めていた弁当を片付けてしまった。
「試作品って…」
俺が更に追求するより先に、覚えのある健やかなチャクラが近付いて来た。
「試作品…ですか。」
「はい。」
三段の重箱に詰められた様々なお菜。別に盛られた菓子の類。
下手な店より余程品揃え豊かなそれは全てイルカの手作り…しかも『新作』だと言う。
「味見って自分一人でしてると訳判らなくなって来るんですよね。」
だからナルトやサスケに味見て貰っているんです。
夢中で、サクラまでもが参加して食べ続けているのを眺めながら話に興じる。
「あいつ等も一食浮くし。」
そう言って笑うこの人の、『試作』の理由はすぐ判った。
ナルトはともかく、サスケは喩えイルカからでも理由無しに物を貰うなんて事は絶対、しない筈だ。
でも『試食』なら、ましてそれが美味いならば貰って行くだろう。
現に文句も言わずナルトと競う様にして重箱を攫っている。
「カカシ先生も如何ですか？」
俺の昼飯用に持って来たので悪いんですけど
そう、差し出された弁当はどう見ても一人前にしては多くて。
有難く戴いた俺はその美味さに感動した。
がつがつ食べていると、気付いたナルトが寄って来る。
「あ〜っ！！カカシ先生ばっかりズルイってばよっ」
別メニューなのに気付いて叫ぶナルトにイルカが苦笑する。
「でもコッチはちょっとお前達の口には、なぁ…」
ほれ、と差し出された豆板醤を効かせたサラダにナルトが顔を顰める。
試しにと口にしたサスケも、美味しいとは言えない様子だ。
「ほら、デザートも在っただろ。」
口直しして来い、と言われて二人が戻ろうとする。と
「あ、ナルト。」
呼ばれて振り返ったナルトの口元に付いていた米粒をイルカが取って
「お弁当付いてたぞ。」
口元に押し当てる。
「あ、有難うってば。」
ぺろりと舌を出してそれを舐め取ったナルトは、照れた様に笑って走って行く。
それをぼぅと見ていると
「あ、ほら」
突然、イルカが手を伸ばして来た。反射的に下がろうとした俺を追ってきた指が、俺の口元からやはり米粒を持って行く。
「カカシ先生も。」
にっこり笑って差し出されて。
つい、その指を口に含んでしまった俺は。
その後何故か、何時までも唇に残る感触に…焦ったのだ。
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