優良物件 ��
「何見てるんだ？」
ぼけっと窓から外を眺めていた俺は、寄って来た髭熊にそう声を掛けられた。
「ん〜、ナルトの大事なイルカ先生。」
「何だ、そりゃ。」
どっかりと横に座られる。ちゃんと灰皿は持って来た様子なので良しとしよう。
「あの人行動範囲広いな〜って。何かやたらと見かけるし。」
「あ〜そうか？色々兼業してるからなぁ。」
「兼業？」
「副業とも言うわね。」
俺が聞き返すと、何時の間にか髭の横に居た紅が教えてくれた。
「アカデミー教師に受付嬢。火影様の秘書兼子守りで、ちょっとした私用の使いっ走り。」
医療関係も出来るとかで手が足りない時は借り出されているわね。
「後、揉め事相談もやらされてるって聴いたな。」
「ええ。本来エビスの仕事だったらしいんだけど。」
あいつあの性格だから。
言われて皆、納得してしまう辺りエビスは不幸なのかもしれない。
「で、イルカちゃんがどうしたって？言っとくけど変なちょっかい掛けたらくの一敵に回すわよ。」
「はぁ？！何、ソレ。」
「イルカはモテるんだよ。物凄く。」
俺の素っ頓狂な声に、髭が律儀に返してくれた。
「あの、何か野暮ったい人が。」
「あら、野暮ったいって言っても良い物ばかりよ。」
イルカちゃんの使ってる物って。
紅の説明に疑問を感じる。・・・て、言うか何で紅が、一介の中忍の持ち物なんか詳しいんだ。
判らない事はきちんと訊ねる。これは先生に教わった事。だったので、俺はきちんと紅に訊ねた。
すると紅もちゃんと教えてくれる。
「だからモテるって言ったでしょ。」
元々人が良い事では評判だったらしい。おまけに子供好き。
恋人には、不満でも夫には花丸。ソレが当初のうみのイルカの評価だった、そうだ。
「その内、年配のくの一達が言い出したのよ。イルカちゃんが使ってる物って皆、凄く良いモノだって。」
良くある御洒落なブランド物じゃなかった為、年若いくの一達の目を擦り抜けていたそれらは皆、老舗といわれる店の物。
流行に関係の無い品質を誇る品ばかりだった。
身の回り品は勿論、武器文具の類その他諸々。
「良い物は長く使えますから。」
と、さらりと言う相手に、何処からそんな物を買う金が・・・と突っ込んだのは女性ではなくやっかんだ同僚だったらしい。
それで判ったのがイルカの大量の副業。その、一つ一つは決して高収入とは言い切れない物が組み合わさったイルカの収入は
「外勤の忍と変らない位あったのよ。」
おまけに本人も、ケチじゃないけど大してお金使う質じゃないみたいだし
内勤なのに薄給で無い、子供好き。働くくの一達にとって一躍優良物件となった男は、更に。
「食堂のおばちゃん達が集団で風邪にヤられた時」
代りに食事を作ってのけたのだそうだ。忍なら料理は出来て当然。だが、味付けは当人の感覚だ。
人が居ないから、と定食1種類に絞られたその献立は一汁三菜、漬物付きで。
「しかもちゃんと日替わりだったのよね。」
「ああ、ありゃあ美味かった。」
しみじみと語る髭は、紅共々その『伝説の1週間』毎日食べに行っていたのだと言う。
「優しくて料理が出来て、収入が良くて、子供が好きで、内勤。」
視線で意味判るでしょ、と紅が語る。
「つまり御人好しで『英雄』に成り難くて美味い物食わせくれて稼ぎもある、と。」
「そう、最高でしょ。」
あっさり答える、女。もっとも、隠さずに言ってくれる辺りが付き合い易いのだが。
それに広言していると言う事は紅にとっては標的で無い、と言う事だ。
「ただ、当人が鈍いのか天然か態となのか…喰い付きが悪くてね。」
今の所落とした娘、いないのよね〜
けろけろ語る。この様子なら陰で誰が落すかトトカルチョ位やってるな。
「だからカカシも頑張ってみたら？」
「ぶっ…何言い出すんだっっ」
その時偶々口に含んでいたコーヒーを盛大に噴出す。何でそう言う話になったんだ？
「あら、違うの？」
「違〜うっっ」
それは残念、と呟く馬鹿女を其の場に置いて、俺はまだ提出していなかった任務報告書を出しに行く事にした。
「…本気で自覚無いのね。」
「カカシだからな。」
カカシは『やたら見かける』と言った。だが、幾ら兼業してても基本的に内勤で行動範囲はアカデミーと受付周辺に限られる。
そのイルカを、子供と里中動き回っているカカシが『やたら』見るのは当人が見ようとしているからに他ならないのだ。
「何で時間潰してまで今頃報告書出しに行くのかも、判っていねぇな。」
イルカの今日の担当時間は今丁度始まったばかりである。
「先は、長そうねぇ…」
「あるのか、先。」
溜息をつく年長者達であった。