「酩酊と暴走の果てに」
はたけカカシ(26才 木の葉コーポレーション勤務)は寝ぼけた頭のまま巨大なダンボールを擬視していた。
全く身に覚えの無いそれは、カカシの部屋のど真ん中でこれでもか、と存在を主張している上・・・あろうことかガタガタと揺れていたり、する。それも明らかに内側からの振動で。
「な・生物・・・?」
懸命に昨夜の行動を思い出そうとするが泥酔していたのか悪友数名と飲みに行った事しか浮かんでこない。だが恐らく・・・ペットショップで衝動買いでもしたのだろう。
此処に『何か』が居るのだから。
「こ、この大きさは・・・犬、かな?」
少々引き攣りながら爬虫類だの猛獣だのであってくれるなよ、と祈りつつ箱の蓋に手を掛ける。
だがその僅かな衝撃がバランスを崩したのか・・・先刻から大揺れに揺れていたソレは、遂に振動と共に横倒しになり中身は勢い良く転げ出てきた。
「な・・・!?」
人、だった。類人猿ホモサピエンス。ペットショップの商品ではなく。
しかも、足と手を拘束されトランクス一枚にされていた。口にはガムテープが張られ、何故かネクタイのみが捩れながら首にぶら下がっている。
「〜〜〜〜〜」
解れて顔を隠すように流れる黒髪。それに覚えが、あった。
「おめ〜は如何にも其の場限りですって感じの色気過剰のネーチャンばっかりだよな。」
嘗てヤンチャをしていた頃の仲間との再会。久し振りに昔に戻って外れまくったハメのままに下世話な話へと縺れ込んだカカシは、揶揄の矛先を最近頓に落ち付いて着た悪友へと向けた。で、言われたのが先の台詞である。
「え〜だってどうせヤるんなら柔らかくて目に楽しいのが良いでしょ〜」
遊ぶだけなら軽い方が楽だしぃ へらへらと主張するカカシを、友人は鼻で嘲笑った。
「あ〜遊びなら、な。」
皮肉げに口元を歪める相手は先頃、積年の思いを遂げた・・・らしい。酔いに紛らせて最愛の恋人を手に入れたと惚気ていた。
「少々病弱」だか「真面目」で「優しい」「男」なのだと、友人が告げるのに
「お堅い上に男〜」
趣味悪〜いと感想を述べるカカシ。だが相手は
「ま、おめぇには一生判らねぇかもな。」こう言う幸せってのは。
と、さらりと余裕でかわした挙句恋人が待っているから、と早々に去って行く。
そして良いようにあしらわれたカカシは面白い訳が無く。もやもやする気分を変えようと別な店へ移動していると
「あれ?はたけさん。」
たまたま擦れ違った、見覚えのある総務の男。黒い髪、黒い瞳、真面目そうな印象・・・その特徴はアイツの惚気相手に(病弱以外は)酷似していて。
「ん〜〜この人とならアイツの言うシアワセが判るのかねぇ?」
単なるぼやきで、ついでにやつ当たりである。だが言った本人はこの時完全な酔っ払いであった。
「あ〜ツキアッテ見れば判るか。」
「エ?何か・・・ええっっカカシさんっ!!」
慌てふためく相手を抱えて引き摺ると無理矢理部屋へと連れ込んで。必死で逃げ様とする相手のズボンをずり降ろして足を拘束。Yシャツを剥いで両腕を後手に縛り上げ喚き散らす口をガムテープで塞ぎ・・・暴れるのが煩わしくて、たまたま在ったダンボールに梱包した。
そして当のカカシは・・・動いて廻った酔いに任せてそのままぐっすり眠ってしまったのである。
「さて、ど〜しようかねぇ」
盛んにもがく男−確かうみのと言う名だった−のギンガムチェックのパンツを眺めながら思案する。正真正銘の拉致監禁である。それも同じ会社の仲間であり・・・確か時々会長が秘書替わりに使っていたお気に入りだ。このまま帰すのはやはり拙かろう。口止めは
「金じゃ無理?だよねぇ。」
きっと余計に怒り出すタイプだ。
「さて、と。」
屈み込んで様子を見ようとして、漸くまともに顔を見た。目が、合う。
澄んだ、黒い瞳。その内に秘められた意思は真っ直ぐで。カカシを射るように睨んでいる。汗ばんだ首筋は思いの外白く、張り付いた黒髪が奇妙に妖しい風情を醸し出していた。
「・・・・・」
ズキーンと来た。それも、下半身に。
誘われるままに剥き出しの胸に手を、這わす。するとピクリと反応があった。調子に乗って更に肌を弄ろうとすると慌てて身を捩り、逃れようとする。可愛らしい抵抗に何だか嬉しくなって、圧し掛かって動きを留めた。
「うみのサン、だっけ。ごめん、ちょっと付き合って、ね?」
ナンパ相手に好評な甘く掠れた声で耳に囁く。その耳を甘噛みするとそっと首筋に顔を埋めようとし・・・
「OX△▼□@〜〜」
目の前で火花が散った。精一杯仰け反った態勢からの渾身の頭突きを食らったのだ。
そしてカカシが怯んだ隙に相手はごろごろ転がって逃れると、あろう事か周囲に在るスタンドだのサイドテーブルだのを全力で蹴倒し始めたのだ。上に載っていた物ごと凄い音を立てて次々と倒れるのを後目に、今度は両足でガンガン壁を蹴り付け始める。
「ちょちょっとっっ」
此れでは階下や隣室から苦情が来る。焦って止めさせようと身体に手を掛けた時・・・目が合った。
相変らず真っ直ぐで強い、瞳。だが
「ごめんなさいっっ」
咄嗟に土下座してしまう。先刻の、酔っ払いの悪ふざけに対する物とは明らかに質の違う本物の怒り。臓腑まで焼き尽くしそうな炎を秘めた瞳には多分自覚が無いのだろう涙が薄っすらと浮かんでていて。
「ごめんなさい許してくださいっっ」
平伏して謝罪を続けるカカシに対し、投げられた眼差しは・・・厭くまで冷め切ったものであった。
この後拘束を解かれた相手にみっちり説教を食らい・・・そんな姿にすら見惚れたカカシが「お詫び」と称して付き纏い始めたのは寧ろ当然の事だった。
取り合えず第一部(!?)終り。↓その後に続きます。
「1年後」
「で、コレは何ですかカカシさん。」
ソファの影に隠されていたガムテープ、それもすぐに使えるように切り口を少し剥がしてある物を発見したイルカはやたらと平坦な声で恋人に尋ねた。序に視線も平坦である。
「あ、いや〜その。」
まずった・・・と言った表情で頭を掻くカカシに、イルカの口元が僅かに歪む。
別に、通常ならイルカだって気にしない。ガムテープの一つや二つ部屋に転がっていたところで。・・・・だが今日はカカシ言うところの「二人が運命的な出会いをした日v」なのである。
そしてその「運命」とやらには不本意ながらガムテープが深く関りを持っていた。
「何を考えていらっしゃるのですか。」
殊更に丁寧な口調はイルカの内心が正反対である事を示している。この1年でそれを学んだカカシは、その上「下手に言い訳したらただじゃ置かない」性格をイルカがしている事までしっかり学習していた。
「記念日じゃないですか。折角だから出会いの風景を再現したいかなっと。」
てへっと笑うカカシは客観的に見れば可愛い。外見だけ、なのだが。
「ほぅ・・・そして俺に頭突きを食らった上部屋中引っ掻き回された挙句説教されたい、と。」
抑えた声が却って怖い。ふっと目を眇めてのイルカの言葉にカカシが慌てて反論する。
「違いますっ!ただあの時のシチュエーションを試して見たいなと思っただけです!!」
ちょっと面白そうじゃないですか。刺激的ですし。
へらへらと言ってのける男は、基本的に快楽主義者であった。
「刺激・・・ですか。」
呟くイルカに
「ええ刺激、です。」
カカシは真顔で強調して見せる。もしかしたら、なんて期待を込めて。
「・・・そう、ですか。」
だがそれを聴いたイルカの表情がふ・・・と曇った。え、と思う間に顔を叛けられる。
「・・・カカシさんはそんな刺激が必要な位には、俺に厭きているんですね・・・」
低く小さな、声。だがそれはカカシの耳に入った途端凄まじい音量となってグワングワンと響いた。
「そんな事ないですっイルカ先生なら1年365日同じ体位だって厭きない自身ありますっっ」
結構とんでも無い事を叫びながらぎゅっと抱き締める。そして顔を見せてくれない想い人に、必死の謝罪と愛の言葉を囁き続けた。
「許して下さい、馬鹿な事をしました。」「愛してますどんな時でも貴方だけです」「厭きるなんて事貴方に関しては絶対に有得ません」etc.
カカシの誇る愛の言の葉の、在庫が良い加減尽きそうになった頃・・・漸くイルカが顔を上げた。カカシ気に入りの黒い瞳が上目使いに見詰めて来る。
「本当、ですか。」
「勿論です。」
自信たっぷりに頷くカカシ。
「だったら・・・その」
ほんのり頬を赤らめたイルカがその胸に顔を埋める様にして囁く。
「ちゃんと証明してくれませんか・・・?」
「・・・・・・」
言葉を無くしたカカシは恋人を抱え上げると全力でベットへと移動した。
うみのイルカ25歳。彼を良く知る者達は「天性のたらし」と評価する。
作為と本音混ぜ合わせ、巧みに自身の希望を通す彼の手管に抵抗する術など・・・カカシには、なかった。
(終り)
うおおお!!ちゃきっさんから素敵萌えSSを2本も頂いてしまいましたよ!!
これはチャット大会で盛り上がったネタである、「ネクタイ」「トランクス」「ガムテープ」のキーワードを全部使ってくださってるんですよ〜〜〜〜!!!!
しかもギンガムチェックパンツ発言したの私だし(笑)うわ〜〜〜い、やった♪言ってみるもんですね・・・(しみじみ)
そして、このイルカの何とかわゆいこと・・・!!むしゃぶりつきたくなります!!はあはあ・・・。そしてカカシは何気に変態ちっく。ガムテープがすぐに使えるようになっていたところに萌えたのは私だけですか?そうですか。
ちゃきっさん、素敵萌え作品をありがとうございました!!(田んぼDEカカイルも・・・?)