黒蝶再び 後編3


まさか、黒蝶自らお出ましとは。

アスマは茂みの陰に身を潜めながら、目の前で繰り広げられる黒蝶とカカシの死闘を固唾を呑んで見守っていた。こんなに上手くいくとは、と杜撰な計画の予想以上の成功に信じられない気持ちだった。
その杜撰な計画、つまりカカシの言う「いいこと」とは裏暗部を誘き出す為の猿芝居だった。まず暗部が里外の任務で比較的手薄な時を狙って、カカシとアスマとで難易度の高い任務を請負う。その帰りに敵の妖術に操られてカカシが暴走したことにして、行動を共にするアスマが救援の狼煙を上げる。難易度の高い任務の後なので里もそれを疑問に思わないだろう。カカシレベルの者が暴走している上アスマが紫の狼煙を上げたとあっては、必ず暗部に出動要請がかかるだろう。しかし暗部の手薄な時期を狙っての狂言なので、あわよくば裏暗部が派遣されるかもしれない。

誰か裏暗部の者が駆けつけてくれれば儲け物、俺とアスマでなら捕まえられると思わない?

嬉しそうにはしゃぐカカシに「暗部が来たらどうするんだ?」とアスマが冷静な突込み入れると、「その時はもう俺の術は解けたとでも言えばいいじゃない。」といい加減な事この上ない。アスマは溜息をつきながら、「それで裏暗部の奴が来たらどうするつもりだ...?」と訊かなくても分かっている事を念の為確認した。

「どうするって...俺とアスマでギュウギュウ締め上げて、黒蝶の情報を聞き出すに決まってるデショ?」

デショ?って....

アスマは軽い口調のカカシに思わず米神を押えた。頭がガンガンと痛む。それってばれたら懲罰もんなんじゃねえか、と大声で詰寄ってやりたいところだが、今までの経験上そんな事は無駄だとアスマは知っていた。そして今までもカカシの言う「いいこと」に散々巻き込まれ、謹慎処分を食らったり減俸になったりと憂き目を見てきたことを思い出して、ガックリと肩を落とした。
そんなアスマの様子にカカシは「大丈夫、俺とアスマなら上手くいくよ?」と見当違いな慰めを入れる。
「それにひょっとすると、黒蝶自身が現われるかもしれないし。」だといいなあ〜、と独り言ちながらうっとりとした表情を浮かべるカカシを横目で見ながら、そんなに上手くいくか、と内心毒づいていたアスマだったが、すんなりと上手くいってしまった。最も期待した形で。

仕上げは隙を突いて俺が黒蝶の背後を取ることだ。

そう思ってアスマはさっきから参戦の頃合を見計らっているのだが、黒蝶になかなか隙ができない。黒蝶は相変わらず風のような速さで動き、そうでありながら繰り出す手の照準が僅かに狂う事も無い。アスマは思わず自分の役割も忘れ、暫し黒蝶の華麗な円舞に見惚れていた。しかし写輪眼の力を使っているとはいえ、カカシも黒蝶に負けないほどの速さと技の正確さだった。黒蝶の速さをコピーできるのはカカシが黒蝶と同じ身体的能力を持っていることに他ならない。

やっぱあいつもすげえな。

アスマがカカシに感心していると、カカシの動きが僅かに鈍ってきたようだった。そうだった、身体能力はあるんだが、あいつは持久力が無いんだった、とアスマは焦った。

早く決着をつけさせてやらねえとな。

アスマは野太い笑みを浮かべると、茂みの蔭から踊り出た。



アスマ先生!?

突然イルカは自分の背後に殺気を纏うアスマの気配を感じて、一瞬対峙するカカシから気がそがれた。その一瞬の隙をカカシが見逃す筈もなく、大胆に薙ぎ払った右手がイルカの手から刀を飛ばした。その衝撃にイルカが注意を戻した時にはカカシの刀がまさに真上から振り下ろされるところだった。

しま...っ!

イルカは自分の失態を呪った。しかしその刃がイルカを分断することなく、その切先をイルカの被る獣面の上に突付ける形で止まった。イルカの背中にはアスマが愛用のジャックナイフがイルカの動きを封じるように狙いを定めている。

どういうことだ...!?

内心訝しむイルカにカカシがニコーッと満面の笑みを浮かべて、心底嬉しそうに言った。

「黒蝶、捕まえちゃった〜!」


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