バナナでおじゃま

「イルカ先生、今日はバレンタインデーですね!」

家に帰るなり、部屋に勝手に上がりこんでいたカカシに迎えられ、イルカは仕事で疲弊した身体がより一層疲れるのを感じた。バレンタインデー。今日がその日だとは知ってはいたが、だからなんだというのか。自分達は恋人同士・・・のようなそうでないような関係だが、男同士の間でチョコレートのやり取りも無いだろう。第一、チョコレートを買っているところを誰か女生徒にでも見つかったら、大変なことになる。イルカ先生はモテないから自分でチョコを買って、きっと誰かから貰ったように自作自演しているんだわ、等と不名誉な噂を立てられたらどうする。
しかし、もじもじと身をくねらせながら頬を赤く染めるカカシに、カカシがバレンタインデーに何らかの期待をしていたことを知ると、イルカは急に不安になった。

「あ、あの・・・俺、バレンタインデーが今日だって知らなくて・・・」などと白々しい嘘をついてみる。幸いカカシの嫉妬を恐れて女生徒達に貰ったチョコは教職室に置いて来ている。後は自分の演技しだいで何とか誤魔化すんだ!とイルカは自分を奮い立たせた。
するとカカシは何ら動じた様子もなく、「イルカ先生はきっとそうだと思ってましたよ〜vv」もう、恋人同士の行事に疎いんですからあvvとイルカの額を諌めるように指先でチョンと突いた。何だか拍子抜けなリアクションだ。しかし。

「は、はは・・・は・・・、す、すみません・・・はは・・・」

イルカは笑って答えながらも内心の動揺を隠すことは出来なかった。悪い予感に体が勝手にカタカタと震える。今までの経験から、何か良くないことがこの先に待ち受けていると、頭の中で警報機が鳴り捲っていた。

「そうだ、俺、学校に忘れ物が・・・!」とイルカが脱兎の如く飛び出そうとするのと、それを抑えるようにカカシがイルカの肩をがしっと掴むのとは同時のことだった。怯えに目を見開くイルカにカカシはニッコリと会心の笑みを浮かべて言った。

「だからね、今日は忘れん坊のイルカ先生のためにも、俺がチョコを用意しました!さ、早く14日が終わらないうちに交換し合いましょう!」

 イルカの中で警報機が螺子を飛ばして分解した。

 

チョコレートを交換するとカカシは言った筈なのに。果たして今この状況がそれに相応しいものなのかどうか。カカシのこうした性癖に免疫がついてきたとはいえ、イルカはあまりの羞恥と情けなさに目尻にじわりと涙を浮かべた。イルカは手首を一纏めに縛られて、ベッドに括り付けられていた。しかも全裸の上、足は恥ずかしいほど大きく開かされて、やはり縄で固定されている。

「カ、カカシ先生・・・チョコの交換をするんじゃなかったんですか・・・?」無駄とは知りつつも、イルカは縄を解いてくださいと涙ながらに訴えた。しかしそれに何ら反応を返すこともなく、カカシも全裸のまま、台所で何やら一心不乱にごそごそとやっていた。

何をしているんだろう。

イルカが怪訝な顔をしてカカシを見つめていると、カカシが「できました!」と嬉しそうな声を上げて体ごと振り向いた。その姿に、正確に言うとその局部にイルカは言葉を失った。

カカシの固くなったアレにチョコが塗りたくられていた。そしてそれを彩るように鏤められた、ピンクやイエローのチョコスプレー・・・・。

イルカの想像を遥かに超えた、ファンシーとグロテスクが不思議な融合を見せるその代物に、イルカの目は逸らしたくとも釘付けになってしまった。凝視すれば凝視するほど頭の芯がぶれてくらくらする。

チョコ・・・チョコを交換するって・・・・ま、まさか・・・・!

泣きそうに顔を歪ませるイルカに、カカシは頬を赤らめて照れ臭そうに言った。

「俺からのチョコです・・・食べてくださいねvvプレゼントだから可愛くチョコスプレーをトッピングしてみました〜!因みに今からイルカ先生のにも俺が塗って上げますから、それは俺が頂きますね!」

チョコ交換、チョコ交換、とうきうきと呟きながら、ハーシーズのチョコソースを片手にカカシが近付いてくる。それをイルカはこの世の終わりの訪れのように感じていた。

神様ーーーー!!一体俺が何をしたって言うんだあーーーーー!!

「食べ物を粗末にしちゃいけませんよ、って、いつもイルカ先生言ってるよね。」イルカの顔の上を跨ぎながら、ゆっくり腰を落としてカカシが言った。カカシはカカシでイルカの股間に顔を埋め、チョコレートソースをそこに垂らしている。

どういう状況だよ、これ・・・・。

自分の頬にぬる、と押し付けられている甘ったるい匂いのするそれに、イルカは本当に半べそをかいていた。イルカの抱える確固とした常識も、カカシの前では風に揺れる最後の一葉の如く心許ない。こんなもの舐めたくねえ!とイルカが最後の矜持とばかりに顔を背けたままでいると、カカシが「食べ物を粗末にしたら、後でお仕置きですからね!」と窘めるように言った。

お仕置き・・・!

その言葉は過去に何度も聞いた事があった。情事の際にイルカが抵抗する度、お仕置きは実行された。その上忍の凄腕をあらん限り発揮した、変態痴漢行為の数々がイルカの頭の中を走馬灯のように過ぎる。それはもう思い出しただけで気を失いそうになるほどだ。

い、嫌だ!それだけは・・・!!

イルカは強迫観念に駆られながら、目の前の固く張り詰めたそれを、えいっと口に含んだ。矜持なんてかなぐり捨てていた。お仕置きをされたら人間性までかなぐり捨てることになるだろう。しかしこんな行為は耐えられない。早くカカシに達ってもらおう。イルカは目尻に涙を浮かべながらも、夢中になってズボズボと激しく口腔でカカシを扱き上げ、ねっとりと舌を這わせる。チョコと先端から滲む精液が混じった、なんとも形容しがたい味を堪えながら、イルカは一生懸命カカシの猛った熱棒を愛撫した。そのあまりの激しさに、イルカの股間で執拗にイルカのものを嬲っていたカカシの舌の動きが乱れた。

「あ・・・は・・・イ、イルカ先生・・・どうしたの・・・凄く激しい・・・・・そんなに俺のが欲しかった・・・?嬉しい・・・な・・・」カカシは今や自分が腰を揺らめかせてイルカの口の中を蹂躙しながら、うっとりと呟いた。

イルカはその動きを助けるように、吐き気を堪えて舌を使った。もう口の周りは溶けたチョコやら精液やら唾液やらでぐちゃぐちゃだ。

早く達ってくれぇーーー!

イルカがそう心の中で叫んだ瞬間、カカシのものがドロッとした汁を吐き出した。

「・・・飲んで?」というカカシの言葉にイルカは慌てて、吐き出されたそれをごくんと飲み下した。バリウムだってもっと飲み易いはずだ、とイルカがその飲み難さにぽろぽろと生理的な涙を零すと、カカシは己のものを引き抜いて、体勢を変えて自分の顔をイルカに摺り寄せてきた。摺り寄せてきたカカシの顔はだらしなく緩み、口の周りはやはりイルカと同じようにチョコソースでベトベトだった。

うわー・・・凄い間抜けな顔・・・

いい男も台無しだなあ、とイルカは泣き笑いを零した。するとカカシも優しく微笑んで、そのチョコだらけの唇でイルカの顔中にチュチュとキスの嵐を降らせる。ぬるつくチョコの感触を気持ち悪いと思いながらも、こんな風に優しく施されるキスは好きだった。「好きです、好き・・・イルカ先生・・・」と切羽詰った声でカカシは繰り返しながらキスをする。そうされると何だかボーっとしてしまって堪らない気持ちになる。

こんなに変態なのに許せちゃうんだよなあ・・・。

イルカが照れ臭さを隠すように目を閉じると、カカシがうっとりとした声でイルカの耳元で囁いた。

「イルカ先生、今日は凄く頑張ってくれたから・・・・ご褒美あげなくちゃね・・・?」

「・・・え?」今カカシは何て?

聞き間違いかとイルカが弛緩しきっていた身体を硬直させて、恐る恐る目を開けると、カカシがもう一度大きく口を開いて繰り返した。ぽかんとするイルカに言い含めるように。

「ご・ほ・う・び☆あげますからね?」

ご褒美って・・・・な、何をする気だーーーーー!?

イルカは先ほどまでの自分の甘さに内心唾を吐いた。お仕置きを免れても、ご褒美があったのでは同じ事ではないか!?俺の努力を、矜持を返してくれ!!

来月のホワイトデーも・・・こんな風なのかな・・・

恐ろしい予感が現実になるであろうことを思って、体からなけなしの魂が抜けていくのをイルカは感じた。

 

終わり