第十三回


「う…っ」
熱い塊が体の奥へと押し入ってくる。
その圧迫感にイルカは思わず呻き声を上げた。
強張る体を宥めるように、カカシの手が二の腕を撫で、首筋に柔らかに口付けを落とす。

何処か、おかしい。

胸を喘がせながら、ぼんやりとした意識の中でイルカは考えた。

どうしてこの人はこんなに優しく触れるんだろう…

首筋を這い登ってきたカカシの唇がイルカの唇に重なる。それと同時に腕を伝い脇腹を滑り降りた手がイルカの固くなったペニスを握り、ゆっくりと上下した。
「……ッん、」
深さを増す口付けに甘美な喘ぎは吸い込まていく。
「…んっ、…ぅう…っ、ふ…」
巧みな手淫に腰が震えた。その瞬間途中で侵入を止めていたカカシのペニスが、ぐっと奥まで潜り込んだ。
「んんん…っ!」
根元まで熱い質量を呑み込まされた衝撃に、イルカの背中が反る。
勿論イルカはそんな場所で男の欲望を受け入れたのは初めてだった。それ以前に、性欲処理の為に誰かと肌を重ねるのも初めてだ。
何の感情の交換も無く、体を繋げる。
虚しい行為だとイルカは思う。
だが、それはカカシの望んだ事だった。
真実を話す事以外ならば、自分にできる事は何でもするというイルカの言葉を受けて、カカシは暫しの沈黙の後言ったのだ。
「そ。じゃ、好きにさせて貰うから。」
そのまま少し離れた空家まで連れて行かれた。何をするのだろうとイルカが首を傾げていると、
「服脱いで。」
酷薄な笑みを浮かべてカカシが吐き捨てるように言った。
「突っ込ませてよ、なんでもするんでしょ?溜まってんの、俺」
「え…」
イルカは茫然とした。聞き間違いかと思った。
しかしそんな様子のイルカに構わず、カカシは壁にもたれかかって腕組した姿勢で、
「早く、」
顎をしゃくって先を促す。

本気で言ってるのか…?

イルカはカカシの真意が分からず戸惑った。確かに何でもすると言った。だけど。
「これで…こんな事で貴方の気は晴れるんですか…?」
震える声でイルカが尋ねると、カカシが鼻で笑った。
「煩いよ。あんたが言ったんでしょ?何でもするって、」

早く脱ぎなよ。

そう言われて、イルカは従うしかなかった。のろのろと服を脱ぎ全裸になると、
「男相手に手間隙かけるつもりは無いから、あんた自分で解してよ、」
更に信じられない事を言われた。やり方を知らないと言うと、カカシはイルカの手を取って、その指先をイルカ自身の口の中に捻じ込んだ。
「指舐めて…そう、十分に濡らして…それで後ろの穴に突っ込んで広げるようにして…」
イルカはカカシの目の前で自分の後孔に指を入れた。屈辱と羞恥に頭が焼き切れてしまいそうだった。
「もっとよく見せてよ、」
四つん這いにされて、腰を高く掲げた姿勢で足を開く事を強要された。指が出入りする様がよく見えるように。
「ん…っ…は、」
渇くとまた指先を舐め、自分の中に押し込む。指先は震え上手く動かず、体は異物感しか感じない。
何よりもこんな格好を晒す事が情けなく恥ずかしく、堪らなく惨めだ。
それなのに。

後孔を弄る自分の姿をカカシに見られている。

その事に奇妙な昂りをも感じていた。淫らにも自分の陰茎が固くなっていく。反り返った先端が自分の腹を濡らし、やがて淫蜜がぽたぽたと床に落ちるのを感じて、イルカは自分の浅ましさに目頭が熱くなった。

こんな状況で興奮するなんて…俺はどうかしている…

思わず目尻からするりと涙が零れ落ちる。

大の男がみっともない。これくらいの事で泣くな、

ぐっと奥歯を噛み締めて嗚咽が漏れるのを堪えた瞬間。カカシが背後からぎゅうとイルカを抱き締めた。

…え?

イルカが驚いて振り返ると、涙に濡れる目尻をカカシが舐める。そのまま体を反転させられて、唇を吸われた。唇だけではない。イルカの体中をカカシの舌が這い、そこに唇が触れた証拠を残した。同じようにカカシの手がイルカの体を弄り、イルカが反応を示す場所を執拗に撫で回す。自分で解せと言った後孔もカカシの舌と指先で、ぐずぐずに蕩けるまで愛撫された。だから挿入された時に圧迫感はあったものの痛みは無かった。おかしい、とイルカは思った。快楽にぼんやりとする頭で。

これはただの性欲処理なのに…

カカシの指先が、唇が。イルカに優しく触れる度に胸が痛くて堪らなくなる。
どうして優しくするのか。心は通っていないのに。それが酷く辛い。
激しく打ち込まれるカカシのペニスが、イルカの知らない快楽を体の奥から引きずり出す。その結合部分の泡立つような音と共に、カカシの手の中に握られたイルカのペニスが、先端から溢れる淫蜜に濡れ、ぐちゅぐちゅと嫌らしい音を立てる。
「あ…ッあ、ああ…っ」
イルカを穿つカカシのペニスが熱い迸りをその最奥に叩き付けた瞬間。イルカもまた白濁した精液を撒き散らしていた。
あまりの快楽に頭の中が真っ白になる。
その時イルカの耳元で。

…あんたに…教えて欲しかっただけなのに…

カカシが悲しげな声で小さく呟いたような気がした。
それは溜息にも似てとても微かで。
確かめようにも、降りてきた唇に塞がれ、イルカは聞けず終いだった。再び体を弄られながら、

俺は何か間違ってしまったんじゃないか…

イルカは心の片隅で、何処か不安を感じていた。


続く