(4)

やはり過剰に喪われた水分は、補給しなければならないらしい。
男との情交で、カカシは男の生態について一つ新たな知識を得た。
カカシはホッと安堵すると、

となれば…注意してすれば、大丈夫だよね…?

喉元過ぎれば熱さ忘れる、すぐによからぬ思いに囚われた。
一度溶け合った体はカカシに甘美な余韻を残し、男の笑顔を見る度にその体に触れずにはいられない。
気がつけば盛る獣の様に男を求めている。男の動作は鈍く、逃げているのか煽っているのかよく分からない感じだ。
「でも、俺の事を嫌いじゃないよね…?」
繋いだ下半身を揺らしながら、じっと男の瞳を覗き込み尋ねてみる。
「俺の事、好き…?」
荒い息を吐く半分開いた男の唇をなぞると、男の唇がゆっくりと動く。勿論その口から響く言葉は無い。
だが、その唇が確かな思いを形作る。

す、き。

情事の最中にカカシが何度も囁く言葉。その口の動きを男はただ真似ているだけかもしれないけれど。
たったその二つの文字を男の唇が模る度、カカシは眩暈のするような幸福を感じた。
たとえその言葉がなくても、自分の体に縋る腕が男の思いの全てを語っているような気がした。
ぎゅっと骨が軋むほど男の背中を抱き締めて、カカシは男の身体の奥深くまでを穿つ。
「…っ……っ…、…っっっ!」
激しく身体の中を突き荒らされて、男は苦しげに身を捩った。
それもその筈、カカシはそそり立つ男の根元を指先できつく塞き止めていた。
いやらしい知恵と言うのだろうか、一回吐き出すと男はグッタリしてしまうので、カカシが注ぎ込むまでは吐精をさせないようにしている。カカシが一回吐き出すまでの間に男は何回か吐精してしまうので仕方ない。可哀想だとは思うが、我侭な欲を止めてあげられない。
「ごめんね…でも我慢できない…したくて仕方が無い…ごめんね…」
男が夢中で塞き止めるカカシの手に爪を立てる。その痛みすら愛おしい。
カカシは男の手を引き剥がして、その手の甲にチュッと口付け、一層激しく腰を打ち込んだ。
ぐぐっと奥まで突き入れると、男の前を開放してやる。
「………っっっ!」
ビシャリと勢いよく精液を放出するのにあわせて、熱い内壁がきゅうっときつくカカシ自身を締め付ける。
堪える気も無くカカシは男の中に欲望の全てを吐き出していた。
カカシは余韻を楽しむ間も無く、大急ぎで枕もとの水を口に含み、グッタリする男に口移しで飲ませてやった。

俺の注ぎ込んだ精液は吸収されないみたいなんだよねー…

それは注ぎ込んだものが何時までも男の中に残っている事で分かった事だ。男が摂取するものは純粋に水でなければ駄目らしい。
一応男の体を慮ってカカシは一度吐き出したら、それ以上は男の体を求めなかった。
本当は何度も男の中に入り、思う様その体を揺さぶりたい時もあったが。

これ以上はあんたがどうなるか分からないし…

カカシはぐっと己の欲望を我慢した。
今まで感じた事が無いほど、カカシは毎日が満たされていた。
縁側で男が鳥と戯れている時も、カカシはおずおずとではあるがその隣に座れるようになっていた。
光の当たる、暖かい場所。
自分も男と一緒にその場所にいてもいいような気がしていた。
『あんたの欲しいものが手に入るよ』
今更ながらに老婆の言葉を思い出し、本当だなあとカカシは一人微笑んだ。

本当にずっと欲しかったものが手に入った…しかしあの老婆の正体は一体なんだったんだろう…

考えてみても勿論分かる筈も無い。

でもあの婆さんが何であれ、感謝しないとね…

カカシが隣に座る男の手に自分の手を重ねると、男がカカシの肩に凭れて来た。男がそんな甘えるような仕草をするなんて珍しい。何処か面映いような気持ちでカカシがその黒髪に口付けを落とした瞬間。
凭れていた男の体が肩から滑って、カカシの膝の上に力なく崩れ落ちた。

え…?

カカシはそれを信じられない面持ちで、茫然と見詰めていた。




驚いたカカシが男を布団に寝かせ、その枕元で右往左往していると、やがて男がパチリと目を覚ました。
男はいつものように温かな笑顔を浮かべると、のろのろと腕を伸ばし、カカシの手をギュッと力強く握った。
男の手は温かく、反対にきつく握り込んだカカシの手は末端に血が行き届かず、温度を失っていた。酷く冷たい。

これでは俺の方が具合が悪いみたいだな…

苦笑するカカシの手が小刻みに震えていた。握り込んだ手に力を入れていないと全身に震えが伝わってしまいそうだった。
怖い、と思った。男が倒れるのを目にした時心臓が凍りついた。呼吸さえままならない。
今までどんなに命を危険に晒されても、怖いと思った事なんてなかった。
自分自身が虫の息だった時でさえも、ひたひたと近付く死の足音を静かに聞いていた。

だけど、今はこんなにも怖い…もし…もしも目の前のこの人を喪ってしまったら…

始めはその可能性を危惧していたのに、浮かれて過ごすうちにこのまま男とずっと暮らしていけるような気になっていた。
だが、よく考えると男は植物なのだ。コップ一杯の水で生きながらえる植物。人間と寿命が同じ筈は無い。人間と同じ筈は無いが、通常の切花とも同じ筈は無いだろうとカカシは思う。普通の切花だったら、もうとっくに枯れてしまっている筈だ。

この人はいつまで生きていられるんだろう…?

今更ながら、そんな事が気になり始めた。砂上の楼閣のように、なんて脆い幸せに浮かれていたのだろうか。足元を既に砂にとられていたのにも気付かずに。
カカシが恐ろしい予感に言葉も発せられないでいると、男がゆっくりと起き上がって今度はカカシの体をギュウッと抱き締めた。宥めるように背中を擦られて、カカシは自分の体が既に酷く震えている事を知った。励まさなくてはいけない立場の自分が、逆に励まされている。
「…情けなー…」

しっかりしろ、俺…

カカシは呟きながらギュウッと男の体を抱き締め返した。
鼻先を埋めた男の首筋からは日向の臭いがしていた。お日様の臭いが。
その臭いにカカシは堪らなくホッとした。この人はまだ大丈夫だと根拠の無い安堵を感じていた。
しかし、その日を境に男の体の調子は緩やかに下降の一途を辿っているようだった。
男の体を慮ってカカシが情交を求めない所為か、男が倒れるような事はなかったが、日に日に布団の中で過ごす時間が長くなってきていた。夜明けと共に飛び起きていた男が自分よりも遅くまで寝ている姿は、カカシの不安をこれ以上もなく掻き立てる。

ちゃんと息をしているんだろうか…

心配でいつもいつも男の呼吸を確認してしまう。
それでも男は必ず目覚めて、まるで何処も調子は悪くないというかのように、いつもと同じ明るい笑顔を浮かべるので、

大丈夫なのかな…?

カカシはその笑顔を信じてしまう。
本当は不安で堪らないのに考えるのが怖かった所為もある。臆病なのだ。きっと耐えられないから無理に頭から締め出している。
男の動きは始めの頃よりも一層のろいものになっていた。亀の様にのたのたと歩き必死の形相で家事をしようとするので、
「俺がやるからいいよ、」
見兼ねたカカシがひょいと洗濯物を取り上げたり包丁を取り上げたりしようものなら、男は亀パンチをのたのた繰り出しながら、物凄い抗議の瞳でカカシを睨みつけた。その迫力にカカシはいつも降参してしまう。

体が心配なだけなのに…

料理とか洗濯とか。どうでもいいから休んでいて欲しいと思うのに、男は決して譲らなかった。
そしてある朝遂に、男は寝床から起き上がる事ができなくなってしまった。
布団の上で男はいつもと同じように明るく微笑んでいるのに、何時の間にかその頬はやつれ、健康的に輝く肌の色は失われてしまっていた。
「しっかりして…?」
カカシは男の手をギュウッと握り締めながら、速まる胸の動悸に眩暈がした。頭の中が混乱してどうしたらいいか分からなかった。

調子が悪いと分かっていたのに…俺は…俺は何もしないで…変わらない笑顔に騙された振りをして…!
考えないようにしていた…考えるのが怖くて…でも、

それこそが間違いだったのではないかとカカシは己を責めた。何も手立てが無いような気がしていたが、火影様に訊けば何かしら手立てはあるのかもしれない。その可能性は万に一つも無いと頭では分かっていたが、僅かでも希望があるのならそれに縋りたい。カカシはすぐさま決意した。
「待ってて…!あんたを助けられるかもしれないから…火影様を呼んでくるから…!」
飛び出そうとするカカシの腕を男が必死に掴み止めた。そのままグイと引き寄せられて、カカシは男の体の上に覆い被さる様な形で倒れ込んだ。
「ちょっと何して…」
慌てて起き上がろうとするカカシの頭を男の手が掻き抱く。
そのまま噛み付くように情熱的に唇を重ねられて、カカシはビクリと体を震わせた。

こんな事をしている場合じゃない…あんた、自分の体がどんな状態なのか分かってるの…!?

怒鳴ってやろうと開けた口に男の舌がぬらと差し込まれる。
自分が男を愛撫する時の動きを真似て、熱い男の舌がいやらしくカカシの口腔を弄る。
いつもカカシの方からしてばかりで、男が誘うようにカカシに触れる事はない。こんなに激しく、求められる事は。
だから。
男が片手をゆっくりと下へ滑らし、カカシの膨らみに直に触れると。
もう我慢なんてできる筈がなかった。




「俺が欲しいの…?」
カカシの声は期待と興奮に上擦り、その語尾は掠れていた。
男がおずおずとカカシの下穿きの前を寛げて、既に硬くなったペニスを解放する。
ひんやりとした外気に晒されたそれに、男の熱い吐息が掛かる。
それが男の自分を求める欲を伝えているようで、まだ咥えられてもいないのにカカシのペニスは更にグンと容積を増した。もう先端が先走りで濡れている。
「いいよあんたの好きにして…。俺は全部あんたのものだから。全部あげる。」
羞恥の為にか、カカシのペニスを前に躊躇う男の黒髪を愛しげに撫でてやると、男がこくりと唾を飲み込んで、そっと口を開いた。その奥に見える赤く濡れた舌が酷くいやらしい。
男はカカシの施した口淫を真似て、たどたどしくその舌先でカカシの肉棒を愛撫した。
先端を含み吸うようにしては、竿の部分を横咥えにして丁寧に舐めあげる。男の舌が余す事無くカカシの赤黒いペニスを濡らし、同時に添えた手で幹を刺激した。
目も眩むほど淫らで、心が軋むほどに愛しい姿だ。
「気持ちいいよ…」
息を弾ませながら、カカシは男の耳朶を指先で擽った。
ん、と男が擽ったそうに鼻を鳴らす。カカシを見上げる黒い瞳が欲に潤んでいた。

欲しがっている。俺を。

カカシの股間が痛いほど張り詰める。どうにかなってしまいそうだった。
早く一つに繋がりたい。男と混ざり合いたい。
狂おしいほどの欲望に急きたてられて、
「ね、我慢できそうも無いから、」
カカシは口淫をしていた男の手を引いて膝立ちにさせると、手早に男のズボンを下げた。
男のペニスも既に腹につくほど反り返り、淫らな汁で濡れそぼっていた。
「俺のしゃぶってて、あんたも気持ちよかった…?でも足りないでしょ…?もっと、気持ちよくしてあげる…」
熱く囁きながら、男の吐き出す淫蜜を指先に擦りつけて、性急に尻の狭間を弄る。
「…っ、」
男は少し体を震わせたが、抗うような事はしなかった。
潜り込む指先を求めるように自分から腰を揺さぶる。いつもぎこちない男の後孔は昂る気持ちにか
、早くも柔かく溶け、もっとと強請るように熱くカカシの指先に絡みつく。
カカシは男の背中を布団につけると、大きくその足を割り開き膝裏を掬う様に押し上げた。
「…欲しい?」
先端をずぶりと少しだけ男の蕾に咥えさせて、返事を強請る。
男は震える手でカカシを抱き寄せ、先を促すように一生懸命にカカシの唇に口付けた。
それに呼応して蕾がきゅうっと収縮して埋められた先端を愛撫する。
口付けを解いた男の唇が震える。震えながらもいつもの形を作る。

す、き

「俺も、」
カカシは言いながら一気にいきり立ったペニスで男を貫いた。
衝撃に男の背中が弓形にしなる。しかし我慢できずに、カカシは最初から激しく己のペニスを打ち込んだ。
「俺も好き…あんたも俺のものだ。全部…全部俺に頂戴。あんたの全てを俺に…」
男の中がそれに応えるように熱くカカシを締め付ける。
カカシは狭いその中を割り開くようにして、より深くへと熱く滾る肉棒を何度も何度も穿った。

男の体の奥深くまで。全てを自分で一杯にしてしまいたい。
「好きだ…」
ぎゅうっと抱き締め、カカシが腰を震わせ吐精すると、男も同時に熱い迸りをカカシの腹に叩き付けた。熱い飛沫が中を濡らす感触に男が背筋を震わせる。
一つに混ざり合い、肌を重ね互いの体温を感じていると、さっきまでの不安が嘘の様に安堵していた。耳に伝わる男の破裂しそうなほどの心臓の音が心地いい。

そうだ…水を飲ませて…中を掻き出さなくちゃ…

カカシが慌てて体を離そうとすると、男がそれを厭うように指を絡ませカカシを引き止めた。
離れたくないとばかりに体を摺り寄せられて、カカシはぼうっとして頬を赤くした。
散々肌を重ねたというのに、男のこうした仕草に弱い。
「ん。暫くこうしていようね…」
男を腕に抱きこみながら微笑むと、男も安心したようににっこりと笑った。
いつもの、お日様のような笑顔だった。
だからカカシも少し油断してしまった。暫くしたら起きようと思っていたのに、傍らで男の寝息を聞くうちに、自分も何時の間にか眠ってしまっていたのだ。

しまった…!早く水を飲ませなくちゃ…それから…

カカシはガバリと身を起こし、傍らを見て俄かに体を強張らせた。
男の姿がない。そのかわりに一輪の萎れた花が布団の上で花びらを散らしていた。




火影は煙管の煙を燻らせて、深く嘆息した。
「カカシよ、お主には下忍担当の上忍師の仕事についてもらう、不満は聞かぬ。どのみち…」
言いかけて眉間に深い皺を寄せる。
「今のお前に外回りは無理だろうよ、」
カカシは心ここに在らずといった様子で立ち尽くしていた。
火影の言葉も何処か遠くに聞こえる。
いつもならば上忍師なんてとんでもない、とすぐさま反論しているところだ。
だが、火影の決定も尤もな事だった。

俺は酷い有様だったからな…

思い出してカカシは薄く笑う。
今は随分とまともになったが、呼び出しの使役鳥に沙汰の無い事を不審に思った火影が駆けつけた時には、自分で立ち上がれないほど衰弱しきっていた。
何日もの間カカシは何も口にする事も眠る事もできなかった。
原因はただ一つ。男が忽然と姿を消したからだ。
枯れた花を残して。
それが男の変わり果てた姿だと、何となく頭では理解しながらも、

そんな馬鹿な…そんな筈は無い…

カカシは家中を探し回った。家の中に男の姿がないと知ると、今度は外へ飛び出し思いつく限りの場所を駆けずり回った。だが男は見つからなかった。
家に戻ると出た時と変わらぬままの姿で、枯れた花が布団の上に横たわっていた。
「……ねえ、あんたなの…?」
カカシは震える手で枯れた花を手に握った。
今更ながらに男に名前をつけなかった事に気付く。こんな時に呼ぶ名前さえ無い。
「ねえ、ほんとに…あんたなの…?」
その時手の中で茶色の葉が、かさりと乾いた音を立てた。

ごめんなさい

まるで謝っているかの様に。
大きく震える手の中で、涙の様に花びらを散らす。

ごめんなさい ごめんなさい

男は声を発する事ができなかったのに。
何故かその声が聞こえるようだった。
花びらからは微かにお日様の匂いがした。いつもの男の匂いが。
「……っ、」
不意に悲しい現実が追いついて、カカシの胸を絶望で満たした。

男はいない。いなくなってしまった。俺を残して。

瞳から零れる滴が頬を濡らした。俺はまだ泣く事ができたのかとカカシは驚いた。
カカシは泣いた。これ以上も無いほど泣いて、その後庭先に枯れた花を埋めた。
姿を消した男が、また地面から芽を出すのではないかと思って。
コップ一杯の水を遣る事だけが、カカシが一日にする事全てだった。
他の事はどうでもよかった。
飲まず食わずで上手く歩けなくなると、這うようにして庭先に出た。
駆けつけた火影がその異様な有様に驚愕し、事情をカカシに尋ねたが、カカシは男の事について一言も喋らなかった。火影は何か病気かもしくは敵の術にでもかかったのかと危惧して、カカシの体を調べさせたが、何処もおかしなところはなかった。
いよいよ精神が壊れ始めたのかと火影は勝手に解釈して、胸を痛めているようだったが、そんなに悪くはない状態だとカカシは思う。
不思議な話だが、枯れた花を埋めた土から芽が出たのだ。
それは以前の様に男の姿をしておらず、普通の緑の双葉だったけれど。

それでも、その双葉が男のような気がして。

悲嘆に暮れるカカシに僅かな希望を抱かせた。

この双葉が伸びて花を咲かせる時、また会える気がする。

心許無い不確かな希望。だがそれだけでもあるだけましだった。
だから里常駐の上忍師の仕事は願っても無い事だった。今は里から離れたくない。
黙ったままのカカシに火影はふうと溜息をついた。
「お前が担当する下忍候補の子供達には、あのうちはの生き残りと九尾の忌子がおる…特別な子達じゃ…楽な仕事ではないぞ。心しておけ、」
同意の黙礼をして出て行こうとするカカシの背中に、火影は付け足して言った。
「子供達のアカデミーでの記録を用意させた。受付で受け取っていくがよい、」
カカシはそれに手を上げて応えた。廊下に出て一路受付を目指す。
受付に行くのも久し振りだとカカシは思う。

こうしてアカデミーの中を歩く事自体久し振りだ…
いつも長期任務で、任務も火影様の口頭だったからな…

古い記憶をたどり、受付所の扉に手をかけガラリと開けると、夕暮れの金色の光がさあっと零れてくる。逆光に思わず目を細めたカカシの瞳に、黒い括り髪が揺れる。

まさか。

一瞬呼吸が止まった。
眩しさに細めた目を大きく開けて、受付に座るその姿をよく見る。

黒い瞳。
鼻筋を横に走る大きな傷跡。

間違えようが、なかった。
だけど、そんな筈は無い。目の前の男があの男である筈は無いのに。
目の前の男も酷く驚いた様子でカカシを見詰めていた。何処か茫然としている。

夢を見ているのか…?

夢でもいいとカカシは思った。夢でもいいからもう一度、抱き締めたい。
強い衝動にカカシは男の体を掻き抱いていた。




続く