第四回

 

 どうしてこの任務が俺に回ってきたんだろう…

イルカは言い渡された任務に疑問を感じていた。

敵国の軍事城砦の見取り図を奪う重要な任務だった。

その任務の指揮は暗部がとり、部隊は熟練の上忍と中忍とで構成されている。

己の力を卑下する訳ではないが、中忍になりたてのイルカには場違いな感じだ。荷が勝ち過ぎる。

召集され、里を後にした今でもまだ信じられない。

俺は一体何をするんだろう…まだ何も任務の詳細を知らされていないけど…せめて足手纏いにならないようにしないと。

薄暗い森を移動しながら、イルカは気を引き締め直した。

作戦決行までの待機場所まで来ると、そこには先発部隊が宿営を張っていた。

「各自割り振られたテントで休むように、」

暗部の一人がそう指示を出すと、皆既に自分の休むべきテントが分かっているようで、わらわらと散っていく。

え…?俺、何も聞いてないんだけど…それともぼんやりして聞き逃してた…?

イルカが一人オロオロしていると、背後からぽんと肩を叩かれた。

振り向くとそこには、なんと忌まわしき銀髪の暗部が立っていた。もう遺品のクナイの奪取もどうでもいい、この男と二度と会いたくないとさえ思っていたのに。

「ひ…っ!あ、あんた、なんでここに…!?

大袈裟に慄くイルカに、

「なんでって、だって俺この任務の総指揮官だもん。あんたを呼び寄せたのは俺だ〜よ、」

さらりと男は恐ろしい事を告げた。

「え…?」

「あんたには俺の特別任務についてもらうから、」

こっちこっちと、指揮官用の上等のテントへと手を引かれる。

特別任務って、ま、まさか…!

イルカの全身から血の気が退いた。そういう任務もあるとは聞いていたが、頭では理解していても感情が拒否する。

「い、嫌だ…離せっ!」

引き摺られまいとイルカが足を踏ん張ると、

「あ〜そんな事すると手、脱臼しちゃうよ?いいの?」

暗部の男はさも心配そうに言いながらも、イルカを引く手に容赦ない力を込める。男の言葉通り、反対へと引っ張りあう力に腕の骨が軋みを上げた。それでも尚堪えていると、ぐりっと捩じるようにして腕を引っ張られた。瞬間イルカの右肘に激痛が走った。

「あ…ッあぁ…っ!」

「ほら、だから言ったのに…肘外れちゃった?仕方がない人だねえ、」

男は痛みによろけるイルカの肩を素早く抱いて、テントへと連れ込んだ。

手当てをしてあげる、と猫撫で声で囁きながら、男は取り出した包帯でイルカの手を縛り上げた。

まさか包帯で縛られると思わず、油断していたイルカはギョッとした。

「な、何す…ぅぐっ、」

「ハイ、皆起きちゃうから静かにしようね〜」

面をはずした男は、鼻先にギプスを嵌めた間抜けな顔でにっこりと微笑みながら、イルカの口に丸めた布切れを押し込んだ。

そのまま簡易ベッドの上に押し倒されて、腕を頭上で固定されると、クナイで服を切り裂かれる。

時間にして一分にも満たない、あっという間の出来事。

抵抗する暇もなく一矢纏わぬ姿にされ、夜気の冷たさと恐怖にイルカの肌がぷつぷつと粟立った。

こ、こいつ本当に俺を犯る気だ…!ど、どうしよう、何とか逃げられないものか…

イルカは必死になって自由になる足で足掻いてみたが、ぎゅっと急所を握られ、身を竦めた。

「ねえ、なんで俺から逃げたの…?今日はこの前のお仕置きするよ…俺も鼻の骨折れて痛かったんだから、ちょっと酷くするからね。」

その代わり明日うんと優しくしてあげる。だから今日は我慢しようねえ、と男がちゅっとイルカのこめかみに口付ける。

鼻の間抜けなギプスは俺の頭突きの賜物だったか、とイルカはちょっとだけ胸がスカッとしたが、そんな事くらいで喜んでいる場合ではない。

あわわ…お、俺はどうなってしまうんだ…!?お仕置きって…酷くって一体…!?

震えるイルカの肌に男の唇が吸い付いた。

「んッ、む…ぅう…っ、」

胸から腹の辺りを熱心にちゅうちゅうと吸われて、イルカはそのなんともいえない刺激に仰け反った。動くと頭上で縛られた、脱臼した腕が酷く痛む。

男は暫くそうして鬱血の跡を残す事に専念していたが、突然「できた…!」と叫んで手鏡を持ってきた。

「ほら、見てごらん…酷いでしょ?」

体を起こせないイルカに、腹の辺りを映してみせる。

鏡に映った自分の腹の様子を見た瞬間、イルカは「う…っ!」と息を呑んだ。

なんとイルカの胸から腹にかけて、キスマークで大きなへのへのもへじが描かれているではないか!

キスマークでへのへのもへじ…!確かに酷い、酷過ぎる…!

キスマークだけでも恥ずかしいのに、へのへのもへじとは…しかも微妙に歪んで哀愁漂ってるし…!キスマークってなかなか消えないのに…!

愕然として、体をワナワナと震わせるイルカとは対照的に、男はふっふと不吉な笑い声を上げながら、何処かウキウキと弾んだ様子だった。

「もっと酷い事しますからね!」

男はぐっと親指を突き出して、そう宣言すると、今度はちゅうちゅうと太腿に吸い付いた。そこには「いるか」と文字を入れられた。

そうして一晩かけて、背中には「可愛いコックさん」を、尻には左右に渦巻き模様をつけられた。勿論お約束だが、胸の周りにはブラジャーを描かれた。

男は唇をたらこのように腫らしながら囁いた。

「ふっ、どうです?俺のお仕置きは…酷いでしょ?」

イルカは涙を流しながらこくこくと頷いた。

本当に酷い。こんなに屈辱的なお仕置きは初めてだった。楽しみだった銭湯通いも暫くできない。イルカが被った精神的打撃は計り知れなかった。

「これに懲りてもう逃げたり、頭突きしたりしちゃ駄目ですよ?」

男はイルカの涙を指先で優しく拭うと、俺が戻るまではそのままね、とベッドに全裸のイルカを括りつけたまま、夜明けと共に他の忍と作戦決行に向けて宿営地を出て行った。

戻ったら優しくしてあげるからね、とあまり嬉しくない言葉を残して。

取り合えず犯られなかった事を喜んでいいのか悪いのか…

だが、ここにいたら今度は必ず犯られる…!

イルカは死に物狂いで体を曲げて、自由になる足をぐっと頭上の方へと持ち上げた。非常に柔軟性がいる苦しい姿勢のまま、足の指でなんとか腕の拘束を解こうと試みる。今誰かにその姿を見られたら、憤死してしまうような恥ずかしい格好だ。

だがそれしか方法がないのだから仕方がない。イルカは根気よく長い時間をかけて、それをやり遂げた。

服は切り裂かれてしまいテントに着るものがなかったので、イルカはシーツを体に巻いて、こっそりと宿営地を飛び出した。

上官命令を無視して罰を受ける事になっても構わなかった。

あの銀髪の男に犯られるよりは、罰を受けた方がましだ…!

イルカは走りに走って、木の葉の門が見えてきたところで、安堵してふつりと意識を失った。