(17)

そのAランクの任務中ずっと、俺はカカシ専属の慰み者だった。
様々な無体を強いられ、反抗的な態度をちらとでも見せるとカカシは躊躇わず馬鞭を使った。

あんたはあんまり利口じゃないね。たかが中忍風情が四の五の言える立場じゃないんだよ。
黙って俺に従っていればいいんだ。ほら早く。自分で足を開いて。

散々鞭打たれた背中は火が噴いたかのように熱く痺れ、そのあまりの痛みにただ呻き声を上げたままでいると、また情け容赦なく鞭が振り下ろされる。俺は痛みと屈辱の涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、遂にはそろりと、合わせていた膝を離すようにしてその足を開く。

もっと、開いて。

カカシが喉を鳴らしながら言う。俺は命じられるがままに更に足を開いてみせる。また涙が零れた。しかし幾ら要求を満たしてもカカシは責める手を止めることなく、また更に先を求める。

自分で穴を広げて見せて。

想像を超えた淫猥な言葉で俺を打ちのめす。カカシはなけなしの自尊心全てを俺から毟り取ってやろうと思っているようだった。俺はおかしくなりそうだった。許してください、もうこれ以上は出来ません。見っとも無くもカカシの足元に泣いて縋った。お願いします、お願いします。
だがそれに対する返事は力を込めて振り下ろされた鞭がピシリと俺の肉を叩く音だった。そうして何度か鞭を振るった後で、カカシはもう一度言った。

自分で広げて見せて。

抗いようがなかった。勿論逃げる事もできなかった。言う通りにするまで鞭は打たれ続け、与えられる肉体の痛みは限界を超えて恐怖が俺を支配する。理性も自尊心も何もかも奪われ、俺は声を上げて泣きじゃくりながらも、自分で大きく股を開いて、震える指で隠された秘所をゆっくりと押し広げた。
するとカカシはようやく満足して、掠れた吐息を吐きながら俺にのしかかってくる。すぐさま押し広げたそこに硬く猛ったものを捩じり込み、獣のように激しく突き上げられた。カカシは俺を揺さぶりながら、上体を倒して俺の瞳から零れる涙を執拗にその舌先で舐っては、あんたの涙はお日様の臭いがするね 、と恍惚と囁いた。何度も貫かれ、いやらしい事を要求された。激しい情交が終わってもカカシは俺を離す事はせず、俺が中忍のテントに戻る事はなかった。
そしてそれは恐ろしい事に、昼間の戦場でも同じだった。カカシは片時も自分の側から俺が離れることを許さず、中忍レベルでは無理があるような激戦区の最前線にも俺を連れて行った。それには流石に他の暗部や上忍がカカシに意見した。俺を心配してというよりも、足手纏いを連れ立って任務に支障があったらと危惧しているようだった。延いてはカカシの身の危険を案じて。
しかしカカシがそれを聞き入れることはなかった。

付いて来れないようなら置いてくし。別に庇う気もないから安心して。敵に捕まったとこで中忍だし、特に漏洩するような情報もないしね。別にいいでしょ。

そう言われると皆一様に黙り込み、渋々ながらも頷くしかないようだった。その時俺は自分というものの存在の軽さを嫌と言うほど痛感させられた。
戦場ではカカシの後を見失わないように付いて行かねばと必死だった。自分の実力以上の敵に応戦するような機会も多く、俺はいつも負傷し死に掛けていた。カカシいつも俺に注意など払っていないようでいて、俺の命が駄目になる一歩手前で必ず俺を助けた。負傷した俺に迫り来る敵を、いつも一瞬の内にして赤い血を滴らせるだけの肉塊に変える様は圧巻だった。それは他の暗部や上忍に宣言した言葉と違えていたが、カカシ本人はその事を全く気に留めていないようだった。

「あんたは俺より先に死んじゃいけないんだ。」

その度ごとにカカシは口癖のように言った。カカシは両足を裂かれ身動きの取れない俺を背負ったまま、戦場を走り抜けた事もあった。訳が分からなかった。荷の勝ちすぎる任務に同行させながら、どうしてそんな事をするのか。矛盾していると思った。
しかもそれでいて翌日にはもう重傷の俺をまた一緒の戦場へ引き摺り出すのだ。
そうやって戦場を連れまわされるうちに、俺は遂にこの手で人を殺めてしまう日が訪れた。
殺らなければ殺られていた。躊躇する間も無く生存本能が働いて、咄嗟に俺は小刀を振るっていた。教科書で教えられた通りの胸の急所に切っ先が潜り込んでいく。手に伝わるその感触に急に恐れをなして、俺は思わず小刀を引き抜いていた。その瞬間赤い花びらが散るように敵の胸から血飛沫が上がり、俺の体を赤く染めた。敵は既に事切れて、足元に転がるそれは魂の抜け殻でしかなかった。

「ああ、ぁああぁぁ・・・・・お、俺・・・・・!?」

俺は激しく動揺していた。奪う命のあまりの呆気なさに。命を奪う事へのあまりの躊躇のなさに。心底恐れ戦いていた。そんな俺を見ながらカカシはクックッと満足そうに笑った。

そんなに血で濡れちゃって・・・・。ねえ、どうだった?人を殺すのは。これで少しは分かった?俺の気持ちが・・・・・そんなに怯えた目で見ないでよ・・・・もうあんたと俺は同じなんだから。同じ、人殺しだよ。

カカシはその時とても興奮したように言って、事実何処か興奮したのか、すぐに近くの茂みの影に連れ込まれて下穿きだけ脱がされ、性急に割り開かれた。自分の殺した遺体のすぐ側で、しかもその返り血で汚れたままの状態での性交に恐ろしいまでの背徳と罪悪を感じた。自分が人間以下になってしまったような気がした。泣いて嫌だと訴えたがその時は鞭で打たれることもその外の暴力を受ける事もなかった。
昼も夜も地獄の責め苦を受けているようだった。狂わずに生き延びられたのが不思議なくらいだ。何とかやってこれたのは、それでもこの地獄の日々に終わりがある事を知っていたからだ。その任務に派遣されてから一ヵ月後、その戦線は木の葉が勝利を収め、任務完了と共に撤退する事になった。
木の葉の里に帰りさえすれば、また元の平和で安穏とした生活に戻れるとばかり思っていた。
俺は浮かれていた。それが束の間の安寧とは知らず、浮かれ捲くっていた。 しかしそれは勘違いであった事がすぐに知れた。里へ帰ると俺はそのままカカシの家に引き摺り込まれた。俺は必死で叫んだ。もう任務は終わった、ここは戦場ではないのだからあなたの性欲処理を請け負う義務はないと。それに対しカカシは薄く笑った。それはとても綺麗で、とても残忍な笑みだった。

「あんたは本当に馬鹿だねえ。あんたはこれから俺専属になったんだよ・・・・もうこれには里の上層部も公的に許可してるんだから。あんたがどう思おうと、あんたは俺に隷属しなくちゃいけない。俺の言う事を聞かなくちゃ、ね。あんたが忍びである限り、それがあんたの任務なんだ。」

はい、よく読んどいてね、と呆ける俺の胸元にカカシが紙切れを押し付ける。
その紙切れは今カカシが口にしたようなことを任務として俺に命ずる、里の正真正銘の公式文書だった。

 

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