(15)

その天幕はぴちゃぴちゃという淫らな水音と苦し息遣いに満ちていた。
長い間仕舞われていた所為か、少し黴臭い天幕の布地は夜露を吸って重く垂れ下がり、その下で行われている淫らな行為の陰鬱さを増長させていた。

ジッパーを下ろしただけの着衣の男の腿の間に、誰かが跪いて顔を埋めていた。

跪いているのは黒い髪を肩に垂らした少年だった。少年は全裸で、その肌の上には鞭で打たれたような蚯蚓腫れの痕が無残にも刻み込まれていた。男の股間で頭を前後させる少年の口からは、唾液と精液で濡れそぼる赤黒く怒張したものが吐き出されてはまた、呑み込まれていく。

「んう・・・・っ・・・ん・・・ふぅ・・・・っ」

湿った水音の合間に苦しげなくぐもった声が響く。その少年を着衣の男が酷薄な笑みに口を吊り上げ凝視している。
着衣の男は銀の髪をして、纏っているその衣服は暗部の装束のようだった。
その銀の髪の男も。
黒い髪の少年も。
肝心な顔が見えない。あれは一体誰なのか。

その時天幕の外から声がかかった。

「夜分遅くに失礼いたします。たった今本部から伝令の書状が届きました。」

その声に体を震わせ慌てて離れようとする少年の頭を、銀の髪の男は回した手で無情にも押さえつけ、奉仕を続けるように強要した。

「んん・・・っ・・・・んぅぅ・・・っ!」

抗う少年を許さず、男は自らを少年の口腔に穿ちながら、

「入れ。」

と平然と答えた。
シャッと天幕の入り口が開けられる音がして、「失礼いたします。」と頭を下げながら伝令を持った男が入ってくる。
その次の瞬間、入ってきた男がはっと息を呑んだのが分った。

「ああ、気にしないで。これはただの性欲処理だから。これも任務のうちの一つでしょ。それより書状は?」

銀の髪の男の言葉に弾かれたように、

「も、申し訳ありません、はたけ隊長・・・・こ、こちらになっております。」とまた頭を下げた。

はたけ隊長。
今この男はなんと言った?はたけ隊長と言ったのか?それではあの銀髪の男は・・・・

曖昧だった銀の髪の男の顔が、急速にはっきりとその輪郭を取り戻す。その顔は幼くはあれども、確かにあのカカシの顔だった。
伝令の男は視線を彷徨わせながら、しどもどとした様子で書状を渡すと、そそくさと天幕から出て行った。出て行く時にちらとだけ振り返った男の顔に浮かんでいたのは好奇と少しばかりの憐憫と――――明らかな蔑みの表情だった。

「ふ・・・・うぅ・・・・く・・・・ぅ・・・・」

その間もずっと口に含まされ、尚且つ激しい抽挿を受けていた少年は、恥辱と絶望の涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
そのぼやけた顔までもが急に鮮明になっていく。

あれは。あの少年は。

遠い過去の恐ろしい事実が明確な形となって、今その凶暴な牙で自分に襲い掛かろうとしていた。

駄目だ。見てはいけない。あの少年の顔を。
思い出しちゃいけない。
俺は・・・俺は・・・・思い出したくない・・・・・!

しかしその切なる心の叫びは届かず、少年の顔が遂に露わになる。
黒い髪に黒い瞳。その鼻筋を横に走る大きな傷跡。

そう、あれは。

それを認めた瞬間、はたけ隊長と呼ばれた男がクッと息を詰めて腰を引いた。口から零れ出た限界まで膨れ上がったペニスが、少年の頬を叩きながら爆発して白い汁を撒き散らす。
その最後の一滴まで少年の顔に擦り付けるようにして、男は恍惚と呟いた。

「イルカ・・・・」

 

「ああ、あ、ぁああぁぁぁ・・・・・・・・っ!!」

イルカは悲痛な叫びを上げながらベッドから飛び起きた。傍らでカカシが心配そうに覗き込んでいる。

「大丈夫ですかイルカ先生。何か悪い夢でも?顔が真っ青ですよ!」

急に倒れちゃったから心配したんですよ、とその声音は何処までも優しく、浮かぶ表情は柔らかく綻んでいる。
さっきまで甘やかな口付けを交わしていた男の姿をイルカは呆然と見詰めた。

この世で一番愛しく、そしてこの世で一番憎悪する男の姿を。

全てを、思い出していた。


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