君たちキウイパパイヤマンゴーだね その1

「イルカ先生、海海海、海ですよ〜〜〜〜!!!!」
「ハイハイ、」
一人大はしゃぎするカカシが大海原へと駆けて行く。
「海だ〜〜〜〜!!!!」
バッシャーンと飛び込んですぐに、
「うっぎゃああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!」と大絶叫が上がる。
それを予測していたイルカは落ち着いた態度で、荷物からガムテープを取り出した。
「…カカシ先生、もうとっくの昔にお盆を過ぎてるんですよね…そんな海に飛び込んだら大量のくらげの餌食になるに決まってるでしょう…」
溜息をつきながら、えぐえぐと泣くカカシの体をガムテープでぺたぺたする。
肉眼ではよく見えないが、こうして肌に刺さったくらげの棘を抜くのだ。
その後にイルカは消毒薬をシューと吹きかけてやりながら、
「海でのバカンスとやらは諦めて、もう帰りませんか…?」
カカシを何とか頷かせようと、赤く腫れた患部にちゅっとキスをした。
暦の上ではもうすぐ9月、焼け付くような陽射しも今では随分と柔かくなっている。カナカナと遠くで鳴くひぐらしが晩夏を告げていた。
勿論海の家だって閉まっているし、台風が近付いているという噂で、波も高い。
「海は来年でもいいじゃないですか、ねっ?」
膝を抱えて丸くなるカカシの肩にそっと手を置き、あやすように言うと、顔を上げたカカシの顔が更にべそっと涙に濡れた。明らかに不満顔だ。
「だって、結婚して初めての海辺のバカンス…」
「ですねえ、」
「俺楽しみにしてて…早く任務を終わらせようって頑張ったのに…すごく、頑張ったのに…!」
「うんうん、頑張った頑張った。」
「それなのに、やっと任務が終ったと思ったら、夏も終っちゃってて…!!!!」
「台風は今かららしいですけどね、」
「う…っ、」
うわーーーんと泣き伏すカカシを可哀相に思って、イルカは豊かな銀髪を撫で撫でしてやった。
夏休みをもぎ取る為に、カカシが本当に不眠不休で身を粉にして頑張った事を知っているので、不憫でならない。

俺は海よりもカカシ先生の健康の方が心配だ…全く、そこまでして海辺のバカンスにこだわらなくても…

イルカはそう思うのだが、何故かカカシは譲らなかった。いや、カカシが譲らないのはいつもの事だが。

海水浴とか言いながら、どうせ結局は海中Hとか、こっそり岩場の影でHとか…サンオイルヌルヌルプレイとか、花火を見ながら股間もドドンパとか…そういう夏ならではのプレイをしてみたかったんだろうなあ…

カカシの考える事が手に取るように分かるようになってしまったイルカだった。変態予報的中率ほぼ100%。嫌な数字だ。因みに「ほぼ」と100%でなないのは、カカシの変態振りがイルカの想像の上を行く事があるからだ。大分慣らされたといっても所詮イルカは真人間なのだ。イルカとの様々なHに執念を燃やすカカシは阿呆だと思う。だが、そんな阿呆らしい事の為に命がけで任務をこなすカカシの阿呆っぷりがいじましい。イルカのツボにくるのだ。

こんなに荷物も持って来ちゃって、まあ…

西瓜に花火にバーベキューセット。巨大なビーチパラソルにビーチマット、巨大サンオイルボトル、ラブストロー付水筒、そして何故かプロ使用の撮影機具の数々…。全て背負ってきたのはカカシだ。どうせ無駄になるのに…と思いながらも、笑顔全開で大はしゃぎするカカシに持っていくなとは言えなかった。カカシだって無駄になると分かっていた筈だ。だけど…それでも来たかったのだろう。
今年の夏、イルカと、どうしても。

阿呆だなあ…本当…

イルカは苦笑しながら、
「折角ですから、お弁当くらい食べて行きますか?」
敷物を広げ荷物から重箱を出した。
黙って拗ねたままのカカシに代り、ラジオをつける。ラジオでは台風情報と共に、まだまだ夏だといわんばかりにトロピカルミュージックがかかっていた。
「♪君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね、うれし恥ずかし真夏の噂♪」
かかっているのはイルカが小さい頃流行った、随分と古い歌だった。

懐かしいなあ、

イルカが思わず一緒になって鼻歌を歌うと、
「その歌、アパートでもイルカ先生が歌ってました…」
カカシが顔を俯けたまま、ポツリと呟いた。


続く