第十四回

 

 

カカシは己に失望していた。しかも一度ならず二度までも、同じ失敗を犯している。

なんでイルカ先生を気絶させちゃってんの、俺…?力入れ過ぎ!これじゃまた犯れないじゃない…!

カカシはベッドの上で死んだように眠るイルカを苦悩の眼差しで見詰めた。さきほど道端で待ち伏せ、当身を食らわせお持ち帰りしたのだ。

何故そんな事をと問われれば、夢中だったと答えるしかない。

ジャリどもの下忍試験も終って忙しさも一段落、やっとイルカ先生と甘い日々を謳歌できると思ってたのに…

この人ときたら人の気も知らないで、蜂巣なんかと二人きりで回転寿司を食べてるんだもん…!

しかもお互いを「イルッチ」「ハッチ」と親密に呼び合って、ひそひそと内緒話なんてしてる。

その場面を目撃した時、

この二人ってそんなに親しかったの…?嘘、いつの間に…!?

カカシは自分の遥か後方を走っていると思っていた恋敵が、実は自分の前方を走っていた事を知った。

蜂巣の一方的な片思いだと思っていたのに…勝手に心の中で「イルッチ」と呼んでいるだけだと思っていたのに…

二人は一体どういう間柄なのか。皆には内緒の、ちょっとHな二人の関係なんだろうか…

ああ、それよりも、俺も「カカッチ」とか呼んでほしい…

焦り、怒り、悲しみ、嫉妬と様々な感情がカカシの心の中で混ざり合い、一気にぶわっと膨れ上がって爆発した。

「イルカ先生の馬鹿――――!!!!」

思わず店を飛び出してすぐに、「犯るしかない」とカカシは思った。それはもう真剣に。

こうなったらもう、一刻も早くイルカ先生を犯るしかない…!イルカ先生が誰のものなのか、体で分からせなきゃ…!

それが唯一の方法のような気がして、ついついイルカを待ち伏せして、お持ち帰りをしてしまったのだ。

だが、いざベッドに寝かせ、事に及ぼうとしてカカシはハッとした。

まだイルカ先生がお初か確かめてなかった〜よ!

大賀とできていたか否か、十年経った今もまだ確かめていなかった。

くどいようだが、もしかしてお初かもしれないイルカを、気を喪っている間に喰ってしまうのは勿体無いと思うのだ。

セックスはこの先幾らでもできるが、「初めて」は一回しかない。その思いが、今すぐしたいカカシを引き止める。

イルカは酒も入っている所為か眠りが深く、全く目を覚ます気配もなかった。

「イルカ先生、いきなり当身を食らわせてごめ〜んね…謝るから目ぇ覚ましてよ…」

ぺちぺちとイルカの頬を叩いてみても、勿論返事はない。

これは不埒な事を考えた罰なのか…

据え膳を前にどうする事もできず、カカシが身を捩っていると、眠っていたイルカが急に、むにゃむにゃと呟いた。

「カカシ先生…」

思いがけず名前を呼ばれて、どきっと心臓が跳ね上がる。

「イルカ先生、目が覚めたの…?」

そっと尋ねてみても返事はなく、イルカの瞳は閉じたまま。

なんて事ない寝言だ。だけど。

…イルカ先生…俺の事を夢に見てくれてるんだ…

そう思うと、今まで感じていた焦りのようなものが、すーっと消えていくのを感じた。波立っていた心がいつの間にか凪いで、静かになっている。イルカの自分への気持ちを、垣間見たような気がした。

…心配するような事なんて何もなかったのにね…

ひとり不安になっていた自分が、何だか滑稽だった。

イルカ先生にあたるなんて、俺が間違ってた…

甘い果実はそこにあるだけで虫が寄ってきてしまうものなのだ。イルカに罪はない。イルカによってくる害虫の方こそを早急に駆除すべきだったのだと、カカシは深く反省した。

明日は覚えておきなよ、蜂巣…

カカシは燃え立つ闘志にギラリと双眸を光らせながらも、スヤスヤと眠るイルカの姿に微笑んで、その隣りにモソモソと潜り込んだ。そのままイルカの体を腕の中に抱き込むと、ホッとした。とても気持ちいい。

大賀の事は明日確かめればいい、今日はこのまま寝てしまおう。ちょっと…下半身がズキズキ痛むけど。

おやすみ、イルカ先生…

カカシはイルカのこめかみに柔かく唇を押し当てると、そっと目を閉じた。

 

 つづく