しかしそれから三日後。
イルカは早くもその誓いの虚しさを知る事になった。
その日はナルトの下忍昇格試験の本番当日だった。
そわそわと結果報告を待つイルカの元に、
「イルカ先生、俺、俺、下忍試験に合格したんだってばよ―――!」
夕暮れのでっかい太陽を背に、手を振るナルトが満面の笑顔で叫んだ。
合格したのか…!
イルカもナルトに負けないくらい、満面の笑顔になる。
「そうか、良かったなナルト!」
「約束通り、一楽でラーメン奢ってくれってばよ!」
腕を広げ待ち受けるイルカの胸に、ナルトがまさに飛び込もうとした瞬間。
背後からぬっと現れた長身痩躯の影が、ひょいとナルトの首根っこを掴んで引き止めた。
「ハハハ、ナルト、イルカ先生は仕事でお疲れなんだから、乱暴に飛びついたりしちゃ駄目でしょ〜?」
ナルトのこめかみに、グリグリと容赦なく梅干を食らわせながら笑う男は、なんとあの銀髪の覆面男だった。
「え?な、なんであんたがここに…」
茫然とするイルカに、
「ど〜も、ナルト達七班の担当上忍師になりました、はたけカカシです〜」
銀髪の男がにっこり笑って自己紹介する。
激しい衝撃がイルカの身を貫いた。
「ナ、ナナナ、ナルトの上忍師ぃ――――!?」
「そ。ナルトの上忍師。」
カカシはククッと喉の奥で笑って、「これからよろしくね、イルカ先生。」と右手を差し出した。
もう係わり合いになるまいと誓った相手。
しかし邪気のないナルトの目の前で、その手を払い除ける事なんてできようか。
イルカは暫しの逡巡の後、非常に渋々とその手を握った。
その手をグイと引っ張って、
どうです?アッと驚いたでしょう?
イルカの耳元でカカシが悪戯っぽく囁いた。
カカシはそのまま手を離さずに、
「さて、と。今日の一楽は俺も御一緒しますよ〜」
イルカを引き摺るようにして、すたすたと歩き出した。
一緒に一楽へ行く事は、カカシの中で既に決定事項らしかった。
「え、ええ…!?あ、あのちょっと…」
「イルカ先生、ごめんってばよう。カカシ先生は約束してないから駄目だって言ったんだけど、無理矢理ついて来ちゃって…っ、」
「お前ね、なんて事いうの。イルカ先生は俺が一緒でも全然構わないわけ!寧ろ俺がいる方が嬉しいくらい?自分だけがイルカ先生の特別と思ったら、大間違いだ〜よ、」
ナルトの言葉にカカシは大人げなく反応して、ぎりぎりと羽交い絞めした。
「あだだっ、この暴力教師!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、ナルトは何だか凄く楽しそうだ。明るい笑顔を浮かべている。
……意地悪するなんて言ってたけど…楽しそうじゃないか…
ちゃんとナルトの頑張りを認めて、合格を出してくれたし…なんだ…
イルカは何処かホッとしながら、二人の姿を見詰めた。
そして繋がれたままの手に視線を落とす。男同士でお手手繋いでなんて気色悪い。
だけど、何となく。振り解く理由がなくなってしまった気がしていた。