第十一回 

 

 

しかしそれから三日後。

イルカは早くもその誓いの虚しさを知る事になった。

 その日はナルトの下忍昇格試験の本番当日だった。

 そわそわと結果報告を待つイルカの元に、

「イルカ先生、俺、俺、下忍試験に合格したんだってばよ―――!」

 夕暮れのでっかい太陽を背に、手を振るナルトが満面の笑顔で叫んだ。

 合格したのか…!

 イルカもナルトに負けないくらい、満面の笑顔になる。

「そうか、良かったなナルト!」

「約束通り、一楽でラーメン奢ってくれってばよ!」

 腕を広げ待ち受けるイルカの胸に、ナルトがまさに飛び込もうとした瞬間。

背後からぬっと現れた長身痩躯の影が、ひょいとナルトの首根っこを掴んで引き止めた。

「ハハハ、ナルト、イルカ先生は仕事でお疲れなんだから、乱暴に飛びついたりしちゃ駄目でしょ〜?」

 ナルトのこめかみに、グリグリと容赦なく梅干を食らわせながら笑う男は、なんとあの銀髪の覆面男だった。

「え?な、なんであんたがここに…」

 茫然とするイルカに、

「ど〜も、ナルト達七班の担当上忍師になりました、はたけカカシです〜」

 銀髪の男がにっこり笑って自己紹介する。

 激しい衝撃がイルカの身を貫いた。

「ナ、ナナナ、ナルトの上忍師ぃ――――!?

「そ。ナルトの上忍師。」

 カカシはククッと喉の奥で笑って、「これからよろしくね、イルカ先生。」と右手を差し出した。

 もう係わり合いになるまいと誓った相手。

 しかし邪気のないナルトの目の前で、その手を払い除ける事なんてできようか。

 イルカは暫しの逡巡の後、非常に渋々とその手を握った。

 その手をグイと引っ張って、

 どうです?アッと驚いたでしょう?

 イルカの耳元でカカシが悪戯っぽく囁いた。

 カカシはそのまま手を離さずに、

「さて、と。今日の一楽は俺も御一緒しますよ〜」

 イルカを引き摺るようにして、すたすたと歩き出した。

 一緒に一楽へ行く事は、カカシの中で既に決定事項らしかった。

「え、ええ…!?あ、あのちょっと…」

「イルカ先生、ごめんってばよう。カカシ先生は約束してないから駄目だって言ったんだけど、無理矢理ついて来ちゃって…っ、」

「お前ね、なんて事いうの。イルカ先生は俺が一緒でも全然構わないわけ!寧ろ俺がいる方が嬉しいくらい?自分だけがイルカ先生の特別と思ったら、大間違いだ〜よ、」

 ナルトの言葉にカカシは大人げなく反応して、ぎりぎりと羽交い絞めした。

「あだだっ、この暴力教師!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、ナルトは何だか凄く楽しそうだ。明るい笑顔を浮かべている。

 ……意地悪するなんて言ってたけど…楽しそうじゃないか…

ちゃんとナルトの頑張りを認めて、合格を出してくれたし…なんだ…

 イルカは何処かホッとしながら、二人の姿を見詰めた。

 そして繋がれたままの手に視線を落とす。男同士でお手手繋いでなんて気色悪い。

 だけど、何となく。振り解く理由がなくなってしまった気がしていた。

 

つづく