2015年8月20日 |
掛け魚祭り |
(俺) |
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今回は初めての川という事で、期待と緊張の一日だ。
実はこの機会を得る為に数年掛けて現地の人達と関係を築き、ようやく実現した釣行なのだ。久々に気合が入る。
しかし当日深夜に自宅を出発すると、予想外に小雨が降ってきた。
今回は午前中だけ釣るという日帰り釣行の予定で、雨の予報は無かったと思ったのだが・・。
まぁ降っているのは下界だけで、現地は影響ないといいな。
・・と思ったが、暫し車を走らせて日の出前に車止めに入った時まで雨は降り続いていた。
イカン、山間部までこれだけ降っているとなると川の状態が心配だ。
この未知なる車止めは前日から奥地へ入っているという知人の車が一台停めてあるだけで、殺風景な漆黒の闇の中だ。
もはや小雨とは言えない勢いの雨の中、車内で朝食や着替えを済ませて準備を進める。
正直言って、通い慣れた川でこの状況なら予定を取りやめてしまいそうな状況だ。
しかし朝も遅くなれば現地の人達が釣りに入ってくるという事なので、ここでモタついている訳にはいかない。
意を決して車外へ出て急いで装備を身につけたら、懐中電灯で周囲を照らしながら歩きだした。
事前に授かったアドバイスを思い出しながら、闇と雨の山道を迷走する。
少々離れたところから聞こえてくる川のせせらぎは、まだそれほど増水している感じではない。
出来れば一度下見してから来たかったところだが、変に誤解を招き兼ねないので仕方がないな。
ところが、暫し歩いてようやく方向が見出せた頃に嫌な予感が過った。
不意に足元が気になって懐中電灯を向けてみると、なんと両足の靴やズボンに無数の蛭が張り付き蠢いていたのだ。
うひゃあああお!
暗闇の雨の中、慌ててナイフで蛭達を排除する。
クソ、目的地がまだ見えないというのにこんなに蛭が濃い道をまだ進まなければいけないのか。
今まで蛭の被害なんて殆ど受けた事の無い俺的には精神的に堪えるものがある。
未知なる踏み跡を急ぎ足で進んでは適度に足元をチェックするが、100m毎に数匹くっついてくる状況に閉口した。
豪いトコ来ちゃったな。
しかしそんな蛭の恐怖も、目的の河原に降り立つ事でなんとか一区切りついた。
薄らと視界が効くようはなったので、懐中電灯は仕舞う。やはり両手はフリーでなくては落ち着かないものだな。
初めてのM川は降りたところに取水堰があったのでそれを乗り越える事から始まる。
厳密には脇に巻き道があったようだが、そのアドバイスはすっかり忘れていたので濡れたコンクリートの壁を上るのに苦労した。
そしてようやく眼前に現れたのは、水量豊かなM川の姿だった。
この雨で若干水位が上がっているようだが、それを差し引いてもかなり規模の大きな川だ。
とりあえず今のところは釣りや遡行にはまだ影響は無いだろう。
川沿いを暫し歩くとすぐに渓相が整い始め、好ポイントが目白押しの様子だ。
それにしても本当にこんな所で祭りが執り行われるものだろうか・・。
未だ降り続ける雨で更に増水する危険性も孕んでいるので、早めに釣り始めるべく餌捕りをしながら遡行する。
時期的にアテに出来ない川虫のはずだが、意外な事にこの川では中型サイズがそこそこ獲れて助かった。
ある程度餌箱に溜まったところで釣りを開始する。
古来からこの地域の在来種として混じり気の無いアマゴというものが、どんな魚なのか。
そして2投目を流してすぐに、本日初HIT。難無く釣り上げてみると、7寸程のアマゴだ。
なるほど、これが完璧な天然魚というものか。実に綺麗な魚体だ。
もう少し大きなサイズを見たいな。
とりあえず1発目は放ち、次を目指す。
一定のピッチでひたすら降り続ける雨でカッパの下の衣類も徐々に浸水してくるが、今はこの新しい世界に夢中で全く問題無い。
続く2匹目もすぐに掛かったが、今度は10Cm程の稚魚だった。
そしてそんな稚魚を何匹か放った頃にようやくまともな手応えのHIT。
引き応えを存分に味わってから回収してみると8寸サイズの凛々しい♀だった。
うーむ・・美しい。
これはキープサイズで良いだろう。
俺が持ち帰る訳ではないが、ノジメして腰クーラーに仕舞って先を行く。
川がカーブを繰り返す中、短い瀬を挟んでは落差のあるポイントが現れるが、水位が若干多いのは否めない様子だ。
難所らしい難所は無いものの、渡渉に躊躇する場面が何度か出てくるようになってきた。
それでも魚信はコンスタントに続くが、不思議な事にキープサイズにはなかなか出合えない。
何といっても稚魚が頻繁に掛かってくるので餌の消耗も激しいのだ。
餌を補給しながらじっくり釣り上っていき、キープを増やせないまま1時間程経った頃にようやくキープサイズがHIT。
今度は9寸程だが、どことなく若さが感じられる♂だ。
暫し見惚れてしまう程に美しいが、これもキープとする。
しかし釣り始めて2時間近く経った頃には徐々に魚信自体が減ってきた。
渓相は相変わらず良いままだが、予想していた程は釣れない。
雨が小降りになってきたので増水の気配は落ち着いたものの、このままでは物足りない釣果だ。
おまけに衣類が濡れた影響から、今頃になって寒さを感じるようにもなってきた。
この時期に寒さを味わえるとは。
下界だったら風邪をひきそうな状況だが、山でそうなった事は無いので多分大丈夫だろう。
すっかり魚信が遠のいてきたが、渓相に釣られてじっくり釣り上る。
小雨は止まないままだが、後続の人達に追いつかれる気配も無いので、この貴重な時を満喫出来ている。
そして右岸側から斜めに入ってくる支流が出会うと、時間的にも潮時のようだ。
最後にどうにか8寸クラスを追加したものの、結果的にはキープは3匹のみ。
魚影の濃さは確かだが、殆どが稚魚だったので達成感に少々欠ける感じか。
そしてゆっくり川通しで下り、餌捕りを敢行した河原まで戻ると、数人の地元民らしき人達が集まっていた。
小雨の河原で焚火を熾しながら、その脇には木の枝で組んだ櫓が準備されている。
今日初めて人間を見て、本当にここで祭事があるという事を実感した。
挨拶を交わして釣った獲物を渡すと、既に準備されていた魚達と共に捌かれて祭りの準備が進む。
部外者の俺も事前のアドバイスを受けて奉納用に御神酒を持参してきたので、ちゃっかり参列させてもらう。
暫く経つと奥地へ入っていた地元選抜メンバーの人達も降りてきて、無事に祭事が執り行われた。
奥地へ入った人達はハードなコースとスケジュールで疲労困憊の様子だったが、持ち帰った獲物達の中には凄いのも混じっていた。
そして初めて見たこのお祭りだが、なんとも珍しくて尊い行事だ。他人事ながら、ずっと続いていってほしいと思う。
今回は現地の人達のおかげでレアな体験をさせてもらえて良かった。
蛭の被害もどうにか免れ、貴重なアマゴにも触れられて記録に残せたという事で、充分満足だ。
次の機会は未定だが、今シーズンのうちにいつものエリアにも行っておきたい。