2015年5月29日〜30日

新緑の奥へ

(俺)



 今回は遅蒔きながら俺的なGWとして、泊まり掛け釣行に行く事となった。

 幾つかの選択肢の中から選ばれたのは、イワナの実績が手堅いN川だ。

 本来ならば日帰り釣行でも魚止めまで探れる支流だが、今回は上流部で一泊する事によって、魚影の濃いエリアをじっくり 堪能しよう。

 

 仕事帰りのままN川最下流部に到達したのはAM8:30頃だ。

 空は曇ってはいるものの、足元はウェーダーではなく渓流シューズなので体感温度は快適だ。

 今回は上着となるカッパと竿を新たなものに更新してきた。
  カッパは某チェーン店で購入した激安製品を15年程使っていたものから今回は少々値の張る期待の製品に換え、竿も性能の割に安価 な得意の硬硬調竿である。

久々の雰囲気

 それらを含めた重荷を背負い、伏流した下流部から遡行を開始する。

 程なく歩いて伏流していたN川が姿を現し、徐々に流れが太くなってきた。

 下流部らしい大らかなカーブを繰り返しながら、新緑のN川は渓相を整えていく。

 最初の渡渉で川に歩を進めると案の定冷たいが、シーズン初期に比べれば全く問題無い。

 そういえばここは2年ぶりとなるが、遡行の際の難所としてはせいぜい2ヶ所くらいだったと記憶している。

 しかしそれは日帰り装備での事であって、今回の様な泊まり掛けの重装備となると少々心配だ。

 そんな心配を抱えたまま30分程経った頃、最初の難所へ到達した。

 真っ直ぐな廊下の突当たりを右折すると現れる感じの形だが、曲がってみて驚いた。
  すっかり渓相が豹変している。

 今まで長い間変わっていなかった場所だったのでなんとも言えない気分だが、とにかく今は遡行出来るかどうかが肝心だ。

 今まで以上に大きな淵となってしまったが、慎重に進んでみると案外中を通せたので一安心だ。

 これで気がかりな難所はあと一つだな。

久々の雰囲気

 木々の隙間から仰ぐ空には一片の青空も見えぬまま、湿っぽい渓相を遡行していく。

 鹿や猪らしき足跡は多数見られるが、幸い人間の痕跡は残っていないので暫く釣り人は入っていないのだろう。

 今日の釣りにかける期待も大いに高まる中、中流部へと入ってきた。

 ここまで来るともう好ポイントの連続で、日帰り釣行なら釣り始めても良いエリアだ。

 渡渉の際にも走る魚影を何度も確認し、釣りたい欲求は臨界値に近い。

 そしていよいよ大きな淵が連続して現れ、本日の最後の難関に到達した。

 実は二年前に転落したポイントでもあるが、あの時は釣りながら登っていたのでルートとしては不慣れなポイントだったのだ。

 今回はいつもの遡行コースに沿って、大淵の右岸をヘツるルートで行くが・・。

 やはり雪代の影響で水位があるというか、今年は壁際がよく掘れているらしい。

 滝の重低音と飛沫に威圧されながら、一歩ずつ慎重に水中のスタンスを探りながら進むが、あっという間に腰のあたりまで浸 かってしまった。

 いくら水が澄んでるとはいえ、曇り空の下の薄暗い渓底では水中の足元など見えない。

 このまま進めるのか?不安なままどうにか滝の脇まで到達すると、今度は滑らかで高角度な巨岩を登らなければならない。

 この重荷で登るのは初めてのうえに、湿った環境なので岩の表面が濡れていて一際滑り易い。

 心が潰れてしまいそうな心境ながら、慎重に体のバランスとルート選びに集中する。ここを登らなければ今回の予定が全てパー になるのだ。

良型9寸♂

 そして程なくしてどうにか無事に滝上に立つ事が出来た。久しぶりに薄氷を踏む思いだったな。
  しかし今度は帰る時を思うと憂鬱だ・・。

 まぁそんな新たな心配はとりあえず今は忘れて、安心してテンバを目指そう。

 そろそろ釣りに備えて餌を捕りながら行かないと、後で餌不足になるかもしれない。

 渡渉の度に浅瀬の石をひっくり返しては、オニチョロ等の川虫を餌箱に貯めながら進む。

 それにしても久しぶりに来たせいか、周囲の渓相は見慣れた雰囲気とはだいぶ変わっているようだ。

 10時を回った頃には目的地も近いと悟って、大場所を中心に釣り始めてみる事に。

 すると暫らく粘ってから遂にアタリが竿先に伝わってきて、本日初HIT。

 なかなかの手応えを楽しみながら、新たな竿の感触も確かめる。
  一昔前では5〜6万したような性能が今では3万円以下で買えるとは、ありがたい限りだ。

 元気の良い獲物を手元に寄せてみると、8寸程の♂ハイブリットだった。

 無事にタモで取り込んでみると、思いの外細い魚体だ。

 更に次の一投でも連釣して今度は9寸クラスの♂で、こちらはさすがに盛期の魚体らしく型が良い。

尺イワナGET

 とりあえず今は遡行の最中なのでどちらも撮影の後でリリースし、ポイントを選びながら釣り上っていく。

 そして昼近くなった頃に、魚止めの滝が見えてきた。

 なんだか無性に疲れたな。とりあえずようやく重荷を降ろして一息入れながらテンバ候補地を探す。

 しかしちょうどその頃から小雨が降り始めてしまった。

 あまり大降りにならないように祈りながらも、水際より一段高くて平らな場所を見つけ出して、早速テントを張る。

 このまま降り続けたら焚火も危うくなるが・・大凡の薪を集めたら釣り始めてしまおうか。

 そして遡行の疲れも無視して小雨の中、軽装でテンバの前から釣り始めてみる。

 すると早々に8寸〜尺までのサイズが飽きない程度に釣れてきて、キープ網を出して土産として確保し始めた。

 魚止めを目指して誰にも邪魔されない至福の時をじっくりと堪能する。

 以前に比べたら魚影は減っているとは思うが、一人で釣っている分には特に不足は無い。

 それに盛期とあって釣れてくる魚達はどれも肥えていて、引き応えもかなり楽しめる。

 少しずつキープを増やしていく間に、気がつくと何時の間にか小雨は止んで、雲の切れ間から青空が窺えるようになってきた。

 よしよし、先程まではどんな夜になるのか少々心配だったが、これで心の暗雲も晴れてきたというものだ。

今宵の住所

 ところが、気持ち良く釣り上っていく最中で魚止めの滝を目前にして、水位の高さが原因で遡行不能の事態になってしまった。

 渓相自体は過去の記憶と変わっていないので、雪代で足場が深くなってしまっただけなのだが・・。

 今日の釣りのメインが台無しになってしまい、なんとも心残りだ。

 おまけにテンバに戻る際に足を滑らせ、右手首を悪い方向で突いてしまったようで、手首を反らせて力を入れると激痛が走るよう になってしまった。

 釣りや普通に作業する分には問題無いが、特定の範囲に動かせないというのは厄介だな。

 竿を仕舞ってテンバまで戻り、米を研いだり焚火の準備を整える。

 今日の晩飯も鉄板のレトルトカレーで、御供は缶ビールと焼酎だ

 18時を回ってすっかり晴れ渡った空の下、バーナーで米を炊きながら焚火を熾し、釣果の中から8寸クラスのイワナを捌いて火 にかける。

 まだまだ視界は充分効くが、今日はもうそれなりに釣ったので体を休める事に専念しよう。

 上流側から来るそよ風のおかげで米が炊き難かったものの、結果的にはいつも通りの美味い飯が炊けた。

 カレーを喰らい、缶ビールを飲みながら明日の構想を練る。

 明日は数年ぶりの魚止め上流部を探ってから帰還する予定だ。今日以上の爆釣になる事は間違いないだろう。

 焼酎に切り替えてからはイワナの塩焼きを堪能し、周囲が闇に包まれた頃にテントへ入って就寝。

 
初日のキープ分


 翌30日、AM4:30に目覚めるとテントの外はまだまだ薄暗い。

 暫し体調を整えてから外に出て、まずはテンバ周辺で竿を出す。

 すると早速テンバ前でキープサイズを釣り上げて、土産に追加。

 そして明るくなってきたら一旦戻って焚火を熾し、カップ麺での軽い朝食だ。

朝食の図

 幸い昨夜は夜露も無かったようで、薪の状態も良いので難無く一発点火だ。

 朝食を済ませたら体を温めながらテンバを片付ける。

 昨日とは打って変わり今日は朝から快晴で、暑くなりそうだ。

 だいぶゆっくり片付けて、大凡出発の準備が出来たのは7:30頃だった。

 さて予定通り、軽装で奥地へ進んで魚止めの向こう側の世界へ行ってみよう。

 テンバの裏側の急斜面を上って、更に急斜面のガレ場を下る。

 朝からハードなアップダウンが、疲れの抜けきっていない足に効く。

 そして程なくして見えてきた数年ぶりの世界に期待が高まった。

 ・・が、なんと下降するのに持参したロープでは長さが足りない事が判明した。

 ガーン・・なんて事でしょう。どうやら今年はガレ場の下が洗われて、水際の土砂が全部流されたようだ。

 急角度のガレ場で宙吊りのまま暫し考える。

 無理すればここから降りられない高さでもないかもしれないが、戻るのは不可能に近い角度の脆いガレ場である。

 どうにかロープを長くする方法は無いか・・。足場を何かで嵩増し出来ないものか・・。

快晴の下

 色々考えた挙句に結局、魚止め上流部の釣行は泣く泣く諦める事にした。

 こんな事態は想定していなかったな。次の機会には対策を練っておかねば。

 楽園を目前に今来たばかりのルートを引き返す。

 悔しいがテンバ周辺から好ポイントを選びながら釣り下っていくしかないな。

 テンバに戻った俺は再びテンバ前から釣り始めたものの、昨日と今朝と、攻めたばかりのせいか殆ど魚信が無い。

 水位も変わっていないので今日も魚止めの滝に近付けず、完全に陽が昇ってからテンバに戻った。

 そして最後まで網で活かしておいた昨日の釣果達をノジメして捌き、荷物のパッキングを完結させる。

 さて、それじゃあ帰還しながら釣り下ろう。

 重荷を背負って炎天下の下を下り始めると、すぐに汗ばんできた。

 そして大場所に出る度に竿を出してみるが、キープサイズを9寸クラスに設定しているのでなかなか納得出来るサイズが出ない。

 8寸以下のハイブリットならよく釣れるのだが、このままでは土産の追加は厳しいかもしれない。

 幾つかの大場所を攻め、ようやくキープを追加出来たのは11:50頃だった。

土産に追加

 例に漏れず白点混じりだが型の良い♂だ。

 そろそろ竿の出し入れにも疲れてきたし、数は充分釣ったので釣りは止めて歩きに専念しようか。

 木々の間から覗く青空や、陽の当たる淵の色、谷間を抜ける風等に癒されながら下っていく。

 川のせせらぎに紛れて森から聞こえてくるのは蝉の声だろうか?

 なんだか調子の悪いヒグラシみたいな鳴き声だが、もうそんな時期なのか。

 暫し歩いていくと、昨日の遡行で苦労したあの難関に差し掛かった。

 さて今日の心労ナンバーワンスポットである。ここさえ無事にクリア出来たらあとは楽勝だが・・。

 幸い今日は晴れているので滑らかな巨岩も乾いており、慎重に降りてみるとどうにか滑落は免れた。

 そして壁際のヘツリも難無くこなし、ようやく気が楽になった。

 好ポイントも減ってきた序盤の渓相も過ぎながら、最初の大淵も無事に中を通す。

 そして広く浅くなった下流部も順調に歩き、13時過ぎに早めの帰還を果たす事が出来た。

 

 今回は期待していた釣り場を外して残念ではあったが、周囲での釣果によって釣りとしては充分に楽しめて土産も得られたので 良かった。

 今回の経験を基に、次の機会にも期待したい。

 

それでも満足の帰還





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