2013年9月20日

実りの在り処

(俺)



 いつものように仕事明けのまま上流域を目指して車を走らせる事3時間、ギリギリのタイミングでO俣の車止めに滑り込んだ。

 今シーズンの渓流釣りも今月いっぱいまでという事で、釣り納めの地に選んだのは5月に一度訪れた釣り場である。

 というのも、前回来た時は雪代による水量過多でろくに釣れなかったのでそのリベンジという事と、道中で秋の実りも探してみたいと思 っていたのだ。

 今まであまり興味の無かった分野だが、某お宿の情報に触発された形だ。歳取った証拠だろうか。

  謎のキノコ

 長時間の運転よりも、急ぎの運転だった事の方が疲れの元になった感じだが、急いで身支度を整える。

 そしてAM8:05、雲一つ無い日本晴れの下で車から出発。今回は日帰りコースだ。

 車で走行中に見た本流はドブ濁りで釣りになりそうになかったが、支流ならば平気だろう。やはり水量が気になるところだ。

 4か月ぶりとなる山道だが今回は周囲の木をよく見ながら歩くので、目的地まで少し掛かりそうだ。

 目的地までの道中で食べられそうなキノコが無いか、目を皿のようにして探しながら歩いていく。

 暫く歩くとチラホラと奇妙なキノコが目に入るようになってきたが、どれも怪しいものばかりだ。

 しかしそんな中、樹木に絡まった蔓にブドウの様な果実を発見した。

 これが山葡萄か!初めて見つけた感動に酔いながら、早速一つ手に取ってみる。

初山ブドウ

 単体では色もサイズもブルーベリーみたいだな。お味の方は如何なものか・・。

「ゴエッ・・!」

 想像していた程甘くはなく、かなり酸味が強い。おまけに種も大きく、果肉の部分は極めて少ないようだ。

 下界の食生活に慣れた舌では、そのまま食うのは少々厳しいかな。まぁ非常食にはなる。

 その後、食えそうなキノコは見つけられないまま目的地の渓へと到達した。

 2時間程の山歩きだったが、前回とは比較にならない程充実した道程だったな。

 さて肝心な川の様子の方は予想通りの笹濁り程度で、水量も前回よりは少なく適正といった雰囲気だろうか。

 とにかくまともな釣りになりそうでなによりだ。

 河原の脇の草原でバッタを捕獲しては餌箱に貯め、最寄りの淵に忍び寄る。

待っていた渓相

 すると目をつけた淵に早速魚影を確認出来た。8寸クラスのイワナのようだ。

 淵尻に回り込んで支度を整えて、仕掛けを振り込む。

 ・・が、何度TRYしても釣れない。気取られてしまったか。

 速攻での1発目はお預けになったが、ポイントは腐る程ある。じっくりと釣り上ってやろう。

 日差しは厳しいままだが、渡渉すれば一発で涼を得られる。

 今思えば先月の泊まり掛け釣行の時のS河内は水温がだいぶ高かったような気がするな。

 なかなか生命反応がないまま幾つかの淵を攻めた頃、ようやくアタリを捉える事が出来た。

 程良い重量感が良型を連想させる。

 少しやり取りを楽しんで手元に寄せ、タモで回収してみるとお腹が鮮やかなオレンジ色の9寸サイズだ。

 思わず魚体に顔を寄せて確認してみると独特のパーマークにオレンジ色の斑点が目立ち、見慣れた白点が見当た らない。

9寸ヤマト

 久々のヤマトイワナだ。

 しかしこのエリアは既にハイブリットが蔓延しているので、純血の魚が釣れたという事は先の台風で源流域から 落ちてきたものか、それとも放流された個体なのか・・。

 まぁどちらにしても今回は土産を持ち帰るつもりなのでキープする。

 その後もバッタを餌にゆっくり・じっくりと釣り上っていく間にアタリが続くようになり、ぽつりぽつりと7〜 8寸サイズのハイブリットが釣れてくる。

 それにしても今回は全般的に食いが浅く、アタリを一発でHITさせる事が難しく感じる。餌の問題なのか。

 暫く釣っていると8寸程のヤマトイワナが釣れたが、針を外そうとした時に口の奥から溶けかかった小魚がはみ 出していた。

 消化中の餌も吐き出してまで針を外そうと頑張ったようだ。

 何の小魚を食ったのか気になったのでよく見てみたが、どうもイワナの稚魚らしい。なんと共食いか。

 そういえばこの付近ではアマゴやウグイは釣れてこないので、間違いないかな。

 なんとも厳しい世界だが、何の為に卵を産むのだろう。

土産

 15時近くなったところで竿を納めてキープを捌き、帰り支度をする。

 出来ればもう少し釣りたいところだが、帰りもキノコ捜索しながら歩くので日が暮れる前に車に戻るくらいの予 定で行動しなければならない。

 河原で獲物のエラと腸を出していると、9寸ヤマトの胃袋からイクラのような物体が出てきて驚いた。

 時期的に卵を持ち始めるのなら理解できるが、胃袋の中で消化され始めたモノが複数出てきたのだ。

 これは他の魚が生んだ卵を食ったという事だが、やはりここにはイワナしか生息しないと思われるので、早めに 産卵した仲間の卵をつまみ食いしたという事か。

 なかなかカオスな川である。

 まぁ以前から獲物を捌いていると初夏くらいでも卵を持っている個体があったり、割と年中生まれたての稚魚を 見掛けていたので、生態系も安定していないのか・・とは思っていた。

 不安定でも良い。逞しく生き抜いてほしいものだ。

 ・・と思いつつ、最低限の土産は確保する俺だった。

 帰りも歩きながら、フラフラと雑木林の中へと寄り道しながら実りを探したが、思うようなキノコは見つけられ ない。

 舞茸でも見つけようものなら小躍りしてやろうと思っていたが、結局未遂に終わってしまった。

 17時過ぎに車に到着し、荷を降ろして着替えたりしていると疲れが滲んできたが、ここから家まで帰るのに3 時間余りの運転が控えている。

 とりあえず今回の釣行もそれなりに釣れて良かった。獲物と初めて見つけた山葡萄を土産に帰路に就いた。

 

また来年




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