2013年6月28日〜29日

雨後の流れ

(俺)



 一年ぶりとなるN川出合に到達したのはAM9:40頃だった。

 今回は雨上がり直後という事で、雪代の名残と相まって笹濁りで水位もやや高めの様子だ。

 前回ここへ来た時は装備の忘れ物が原因で泊まり掛けの予定が未遂に終わった為、改めて一泊コースでの釣行である。

  水量多め

 出会い付近に主な装備を降ろし、まずは薪集めだけ済ませて釣りの準備に掛かる。今回は荷物の忘れ物は無い。

 曇り空の下でN川の最下流から遡行を開始する。気温は快適だが雨後の湿気も凄い。

 暫く進んでいくと要所要所で渓相に変化が見受けられる。

 予想外の場所が崩壊していたり難所の形が変わっていたりして、ちょっと遡行し難い状況だ。

 もしかするとこの水位と渓相の変化ではあまり上流まで行けないかもしれないな。

 序盤の時点で何度か難しい局面を堪えて進むが、早くも精神力が減衰してきた。

 そしてどうにか釣果が期待出来る最低限のエリアに到達し、遡行よりも釣果を優先させる事に。

 まずは川虫を漁り、割とすんなり餌を確保出来たので竿を出してみる。

 釣り場の渓相は相変わらず良いが、少々勢いのある流れでポイントが絞られる感じだ。

とりあえず1発目

 そして釣り始めて間もなく、それほど広くもない淵の脇から本日初のアタリが出てHIT。

 引き応えを楽しんでから引っこ抜いたのは8寸クラスのハイブリットの♀だった。

 型も悪くないので土産にキープする。

 更にその後も7寸クラスのハイブリットが数匹続き、餌を補充しながらゆっくりと釣り上っていく。

 するとそのうちオニチョロに混じってイワナの稚魚までタモに入って、魚影の復活を目の当たりにした。

 この支流はもう完全にハイブリットの川だと思われるが、それでも自然繁殖する逞しさには感心する。

 最初の大場所となるポイントへ到達してみると、水量の多さと沈んだ流木のおかげで難しいポイントと化していたが、部分的 にどうにか竿を出せそうだ。

 以前の経験を糧に、ここも仕掛けを改めて作り直してからTRYする。

 そして仕掛けを数回流すと激流の中で目印が止まり、アワせると重みのある獲物がHIT。

 なかなかの引き応えだが、流木の枝が邪魔でやり取りも難しい。

自然繁殖の稚魚

 しかし流木の下に潜られたりラインを引っ掛けられたりしながらも、奮闘の末にどうにか獲物を回収する事が出来た。
  仕掛けを作り変えていなかったら切られていた事だろう。

 タモに収まった獲物は見ただけでわかる尺モノだったが、測定してみると33Cm。よしよし、土産に追加だ。

 更にその上の小滝でも同様の手応えのアタリを捉え、31.5Cmの雄をキープに追加。

 まだそれほど進んでいないうちからの連釣に、釣り場の資質として価値を改めて感じる事となった。

 しかし水量の多さによる遡行のし辛さは相変わらずで、この辺りからもう「あと1匹釣ったら撤収してもいいかな」等と考え るようになってきた。

 時間的にも撤退するには早過ぎるところだが、最低限の土産を確保した今、残すは後の企画に使う7寸サイズを1匹得られれ ば任務としては完了なのだ。

 サクサク進めない状況なので細かいポイントまで丹念に探っていくと、そのうち目的の7寸ハイブリットを釣り上げてキープ。

 しかしすぐ先には再び大場所が見えてきたので、そこまで釣ってから竿を仕舞う事にしようか。

 近付いてみると滝壺が二つ連なる大場所で、飛沫がウザい中を慎重に探り始めてみる。

尺イワナ2連荘

 ・・が、下の滝壺では反応が無いので今度は上の滝壺を探る。

 しかし大きな岩を乗り越えないと竿が届きそうにないが、その岩が滑らかで手足を掛けるスタンスに欠けるのでなんとも登り辛い。

 そして竿を片手に際どいバランスを保ちながら、行けるかどうかという体勢から意を決して力を込めた時・・!

「ウワッ!」

 自分の能力を過信してしまったのか。岩の上に行く勢いが足りずに俺は後ろ向きの体勢のまま大場所の滝壺に落下

 強烈な重低音と冷水に一瞬で包まれ、その冷たさと恐怖で身が縮まった気がした。

 しかし幸い流芯に巻き込まれる前に脇の渦で立ち泳ぎの体勢になり、流されながらも落ち着きを取り戻す。

 腰クーラーやウェストポーチ、それに携帯していたペットボトル等が浮力として働いたおかげでなかなか体が沈まないようだ。

 俺は滝壺に吸い込まれる前に脱出すべく、体が岸の方向に向かったところで一気に平泳ぎでダッシュを試みる。

 そして思い通りにスムーズには進まなかったものの、どうにか流芯への引力を振り切って岸に辿り着いた。

 実に久しぶりに恐怖を味わったな。

夜を過ごす準備が整った

 終始握っていた竿も殆ど上を向けていたので幸い無傷で、眼鏡や他の装備品も紛失は免れたようだ。

 しかし完全に冠水した体は一気に冷え込み、これを機に問答無用で納竿とした。

 各地の活けキープを回収し、獲物達を翌日まで活かしておく為に網に入れて、流れに浸けながらゆっくり帰還する。

 出合のテンバ予定地へ戻った時は17時近くになっていた。

 水分が抜けやすい衣類のおかげでだいぶ乾いてきたようだ。

 急いでテントを設営し、焚火や飯の支度に取り掛かる。

 ・・が、水が濁っているので使えない事に今頃気がついた。しまった、今までこんな事は経験していなかったから想定もしていなか ったな。

 近くに綺麗な水が湧く所もないし、これでは米を炊けないばかりかお湯も沸かせないのでコーヒーもカップ麺も使えない。
  これは凹むなあ・・。

 仕方が無い、今回は酒とツマミ、非常食でなんとか凌ごう。魚は最低限のキープしか持っていないから、今食ってしまう訳にはいか ない。

 飯の支度が出来ないので物足りなさが充満するが、まだまだ空は明るいので今回の新たな企画にTRYする。

 貴重なキープの中から一匹のイワナをノジメして捌き、切り身を作ったら出合の水際へ持っていく。

斬新!?渓流ぶっ込み釣り

 そしてカヤックに残しておいた万能竿に仕掛けを組み、切り身を餌にぶっこみ釣りを敢行するのだ。

 普通、渓流釣りでは考えられない釣法だろう。しかしこういったポイントでは普段の渓流竿では攻めきれないし、ルアーでも芳しく なかったので思いついた未知なる策だ。

 出来れば餌は他の魚が望ましかったが、仕方がない。とにかく夕マヅメにこの斬新な方法で大型渓流魚を狙ってみよう。

 カヤックの竿掛けを普段使わないアタッチメントに移設し、仕掛けを投げ込んだ竿を掛けたうえで竿先に鈴を取り付ける。

 これで目を離していても万一のアタリが出たら知らせてくれる。

 テンバへ戻り、とりあえず持参した芋焼酎を一口呑んでホッと一息。

 焚火を熾し、衣類を乾かしつつビーフジャーキーをかじりながら鈴の音が響くのを待つ。

 こんな事なら真水を持参して来れば良かったかな。否、重荷になる。むしろ軽量のツマミをたくさん持ってきた方が良かったか。

 晩飯用の恒例のレトルトカレーも喰わないと空腹感を満たせそうにないな。

 ・・などと食料の心配をしていると、不意に鈴の音が聞こえてきた。

 アタリだ!

あのときめきを返せ

 半信半疑の釣法だけになんとも意外だったが、鳴り続ける鈴が間違いなく何かの生命体のHITを叫んでいる。

 テンバから50m程先の竿までダッシュで駆け寄った。

 ドラグはそれなりに緩めてあるし尻手ロープも完備しているので竿ごと持っていかれることは無いだろうが、つい興奮して焦ってし まう。

 そして竿を握ってアワセを喰らわせてみると、確かに何かが掛かっている!

 あまり大きな獲物ではないようだが、とにかく緊張しながら仕掛けを巻き上げてみる。

 すると上がってきたのは8寸程の銀白色の魚体・・安定の外道、ウグイであった。

 なんだ・・と落胆しつつも、まあこんなものかと緊張から解き放された。

 外道をリリースし、餌を改めて仕掛けを投入し直す。

 そしてテンバへ戻る際に息つく間も無く再び鈴が鳴り響いた。またか!?

もっと大きいのが来た・・

 急いで駆けて戻り、竿を煽ると今度はやや重い手応えで期待が高まる。

 ・・が、水際から引っこ抜かれたのは35Cm程の、またしてもウグイであった。渓流でこのサイズは初めて見たが外道は外道だ。

 その後も頻繁に鈴が鳴って7寸〜8寸程の外道が連釣し、ウグイの濃さを堪能したところでウグイ狙い(違)を終了。

 日没も間近となったので最後に釣れた7寸サイズに針を掛け直して、翌朝まで泳がせ釣りに転向してみる事にした。

 さすがにこのサイズのウグイを餌に外道は掛かるまい。次に鈴が鳴ったとしたら間違いなく大型渓流魚だろう。

 活きの良い外道を投げ込んで、半信半疑の期待を新たにテンバへと戻った。

 そして陽が完全に沈み、辺りは暗闇と川のせせらぎに支配された。

 今宵は曇っているので星空は楽しめないが、焚火を見ながら今日の色々な体験を思い返していると酒が美味い。

 鈴の音が聞こえなくなったまま21:30頃にテントへ入って就寝。

 

 翌朝、AM4:20頃に目が覚めるとテントの外は薄明るい。

 夜露や雨は降らなかったようだが、まだ曇っている。

 思いの外疲労を感じないので二度寝もせずにテントから出て、まずは昨夜から放り込んである泳がせ釣りの様子を見に行ってみる。

 そして仕掛けを回収してみると昨日のままの状態の餌と再会した。

 ・・おはよう。もう少し餌の任務を続けていてくれ。

不毛の朝

 再び仕掛けを投げ込み、朝マヅメの間も焚火や片付けをしながらアタリを待ち続ける。

 しかしテンバへ戻る際、不意に流れが力強くなっている事に気がついた。

 よく見ると川の水位が2〜3Cm程増量している。

 なんと・・昨日の水位でさえギリギリだったというのに、これでは今日の支流の釣りは絶望的だ。

 とはいうものの、竿を出さずに朝から帰るのも物足りないので、一応行ける範囲の序盤の渓相を釣ってみる事にした。

 しかし軽装で序盤から釣り始めてみたものの、やはり下流過ぎるのかアタリも気配も感じられない。

 そのまま最初の難所まで遡行してみると、断念せざるを得ない状況になっていて竿を仕舞う事にした。
  まぁ昨日釣った土産を活かしてあるから良いか。

 結局1時間程の釣行でボウズのまま諦めてテンバへ戻り、再びぶっこみ釣りの竿を上げてみたが餌に変化は無くそちらも片付けた。

 そしてようやく晴れてきた空の下、早めの帰還を果たしたのだった。

 今回はテンバの位置の都合もあって水が使えなくて不便だったが、不便な中でも新たに幾つかの経験を得てそれなりに満足のいくもの となった。

 次の機会には晴天の下、終始釣りまくって美味い晩飯をたっぷり食べられるようにしたい。

 








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