2003年3月1日 〜2日 |
そうなんですか? |
(俺・ナオキ) |
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今年の解禁は2年ぶりとなるS河内に決定した。
解禁日前日の午後、林道入り口に到達。積雪の多い林道入り口には無人の白いセダンが1台停めてあって妙な胸騒ぎがしたが、車で林 道を進みだす。
ガレ場と崖に挟まれた林道は全てが雪で覆い尽くされ、スタック寸前になりながらも行けるところまで突き進む。
そしてそのうち倒木で進路が阻まれ、少し戻ったところのスペースに車を停めて歩き出した。
今回のプランは、解禁日を現場で迎えて丸一日釣りをしてから翌日帰るというもの。そのために解禁日前日の午後、陽が沈まないうち に最下流の山小屋を目指した。
晴れてはいるが、河原にもかなりの積雪がある。そして割と新しい足跡が2人分上流に向かって残っていた。
登山者・・じゃあないよな?
2時間程歩くと、銀世界の川沿いを下ってくる人影を発見。
2人組みの40位のオッサン達はウェーダーに大きなリュックを背負っていて、思いっきり竿を持っている。しかし遊魚券は身につけ ていない。
解禁日を明日に控えてその装備で下ってくるのは一体どーゆう事か?
普通なら挨拶の一つもするところだが、思わぬ遭遇に気まずそうに黙ってすれ違っていった。
しかしこうなると心配だ。奴等はどこを釣ったのか?明日になれば雪に残る足跡でわかるものの、一番乗りを夢見ていただけに気が気 じゃない。
17:00頃無事目的の小屋に到着したが、やはりこの辺りも10cm位の積雪だった。
2年ぶりとなる小屋を見て伝説を思い起こす。よく見ると小屋の出入り口上部は大きな空間があって、風通しはすこぶる良さそうだ。 こりゃ冷える訳だ。
しかし俺達もあの頃より進化している(装備が)から、伝説の夜を凌ぐ寒さでも大丈夫だろう。
他に誰も居ないことをいいことに、スペースをフル活用して食事を済ませて寝袋に入った。
1日。解禁日の朝が来たが、空は曇っている。寝袋の力を以てしても俺は少々寒かった。
軽くパムを喰らってから釣りの装備をして、6:30に小屋を出発した。
小屋から少し歩いてエサを捕り、S河内本流を釣り上る。
半年ぶりの渓流釣りに幸せを感じながら竿を振ってみると、間もなくHIT。俺の初物は8寸程のサビアマゴだ。
暫く獲物を眺めてからデコピンショットを加えてキープ。
ナオキも順調に同じくらいのイワナやアマゴを釣っているが、雪が降りだした。
ただでさえ銀世界は冷えるというのに、まだ冷し足りないというのか。
既にナオキは辛そうだが魚は釣れるのでそのまま釣りを強行する。
そして朝から河原沿いに残っていた昨日のオッサン達の足跡は途中の支流へと消えていった。よしよし。
雪は大粒になってきたが、ここからは俺達が今シーズン1番乗りだ。ポイントを一つ一つ丁寧に釣り上り、8〜9寸をコンスタントに 釣っていく。
しかし最初のゴルジュに着いた頃には、周りが白く霞んで見えるほどの大雪状態になってきた。指先が少 々不自由ではあるが、めげずに釣り上る。
やがて直角に曲がる滝を越えた先の落ち込みに遡行の限界を見て、小屋まで戻る。
早めの撤収だが充分釣ったので良しとしよう。
釣果は29cmのヤマトイワナが最長寸で他は平均8寸程度。イワナとアマゴは半々の割合だった。
小屋に着く頃には雪から雨へと変わっていた。まだ少し明るいが早速イワナを焼く。
今日は時間があるから焼いたイワナの身をハンゴウに混ぜて炊くという新しい企画を実践してみた。
焼酎を呑みながら暖をとり、ハンゴウを火に掛けて辺りが暗くなった頃に出来たイワナ飯は最高の出来だった。
程良い時間になって用を足して寝る準備をしていると、なんと小屋の片隅にロケット花火を見つけた。
こ、これは・・!あの伝説の日に俺が持参したやつじゃないか!2年もの間俺を待っていてくれたのか!?(違)
感動した俺は真っ暗な銀世界に向けて点火した。
シュッ・・・パーン・・ パーン・・・
激しい雨が小屋の屋根を叩く中、寝袋に入る。かなり降っているようだ。明日が心配だがとりあえず眠りにつく。
2日の朝が来た。昨夜は盛大に雨が降っていたが今は止んで晴れている。しかし川のせせらぎはいつもより重低音が効いている。今日 は帰るだけだが大丈夫か?
川を見に行くと、見たことがない位の増水で俺達を迎えてくれた。
「こりゃ帰れないかな。」
「水が引くまで釣りやって待つしかないだろ。」
別に俺達は無理に今日帰らなくてもいいので、悲壮感など無い。
「そうなんしたんですか?」
「そうなんです。(笑)」
とりあえず小屋に戻り身支度を整え、竿だけ持って再び濁流へと向かう。水が引くまで釣りをすることにした。
川が濁った時はいつもより釣りやすいと思っている俺はオニチョロを針に刺して岩陰の淀みに放り込む。ナオキも同じようにやって茶
色くなったイワナを釣っている。
・・しかしなぜか俺には釣れてこない。なぜだろう。
昼頃まで釣って、少し水が引いてきた。帰れるかはわからないが、荷を背負って小屋を後にする。無理ならまたこの小屋に戻って、水 が引くまで釣っては食うを繰り返すのだ。
本来ならこの小屋の裏側の踏み跡で長らく山を歩いて出合まで行くことが出来たのだが、2年前の時点で崩落していたりしてろくに使 えなかったので川通しで下ることに。
小屋を出てから出来るだけ渡渉を避けて下っていくと、にわかに両岸が高くなり、川幅が狭まってきた。
ここは2年前に高巻きで恐い思いをしたポイントだ。今回来るときは難なく中を通してきたが、今は状況が違う。
とりあえずここまでは殆ど左岸側を歩いてきたが、目の前に一つ登れない巨岩がある。この難関を通すには一度右岸側に渡渉しなけれ ばならないようだ。
濁って水深がわからない川を渡るのは結構恐い。水位の増え方から想像すると股下から腰くらいの水深だと思うが、流れも速いので渡 渉も難しい。
一人ではちょっと危ないかもしれないのでナオキのロープを近くの石に引っ掛け、その端っこを俺が持って慎重に渡渉した。
ハッキリ言っていっぱいいっぱいだが、なんとか渡れたもののもう一度これを渡れる自信はない。
ロープの端を右岸側で固定しようとしたが、縛りつけるには頼りないモノしかないので俺がロープを持って踏ん張りナオキがこれを伝 って渡渉する。
なんとか渡渉を済ませたが、万一この先で詰まった場合に引き返す時の為ロープは回収出来ない。
仕方がないから持っていたロープの端を右岸で軽く固定してその場に置いていく。
右岸を少し下って比較的流れの緩いところでまた渡渉する。これで巨岩はクリアしたが、問題の狭い所はまたキツそうだ。
緊張をほぐすようにわずかなスペースの河原で一服しながら考える。その間に1cmでも水位が引いてくれれば・・。これでは本当に 遭難状態だ。
暫く経って狭いところの水際を観察する。水位は少し下がってきたようだ。ナオキがまた別のロープを出して岩に引っ掛け、荷を背負 ったままヘツリを試みるが・・。
「・・ォオ・・・!!」
激流に足を掬われて、ロープしがみ付いてもがいている。なんとか流されずに済んだが、手を放していたら濁流に飲まれてかなり危険 だった。
一応助かったものの、ナオキのウェーダーは雪解け水が浸水してしまった。
今度は俺が荷を背負ったまま左岸にへばり付くようにして水中のスタンスを探す。足場さえ確保できれば下流にある流れの緩い浅瀬に
ギリギリで飛び移れそうなのだ。
しかし水中で足場を探っている俺の足も流れにさらわれそうだ。
暫く粘ってやっと足場のメドがついた。先に俺が慎重に足場を伝ってから浅瀬に飛び移る。なんとか無事渡って目の前には浅瀬と河原
が現れた。
そしてナオキも無事飛び移り、やっと難関を乗り越えることが出来た。
安心して一服をしながらも、ナオキはウェーダーを脱いで少しでも服を乾かそうと日光浴をしている。豪雨の後といっても雪はまだか なり残っていて寒いことには変わりはないのだ。
その後、まだ時間があるから再び竿を出した。そしてキープを数匹追加してから歩きだし、15時頃になってようやく車に到着した。
しかし・・。
そういえば俺達は雪の中限界まで車を進ませていたので、帰り道は緩やかな下り道を2キロ程走らなければならない。荷物を積み込ん でホッとしたのも束の間、慎重に車を発進する。
豪雨の影響でたくさん積もっていた雪は半分ほど解けてはいたが、その分殆どが路面に凍りついていた。過去に経験したことのない程 のアイスバーンを時速1〜2キロで進む。道幅も狭く舗装などされていないし、ところどころガレている。
少し走っては車を停めて邪魔な石を2人でどけるのだが、その作業中に車が勝手に滑り出したときはさす
がにビビった。
ちょっとでもアクセルかハンドル操作を誤ればアッという間に谷底に滑り込んでしまうので、地道にゆっくり移動する。
そして薄氷を踏む思いで約2時間後、やっと舗装道路に出たときは疲れがドッと押し寄せてきた。