2002年4月27日 〜28日 |
伝説再び |
(俺・ナオキ) |
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渓流釣りを始めて一年半。大井川を専門に釣ると決めた者として、避けて通れないこの川の釣行が決まった。
目的地の場所が場所なだけに一泊、もしくは二泊のプランになったが、過去山中で寝泊りしたのはS河内の一回のみ。経験値の足りない俺
達は少ない知識を振り絞り、未知なる川用の装備をパッキングして当日を迎えた。
前日、仕事から帰ってきて車に荷を積み込んでナオキと家を出る。R1から富士見峠を経由して車を走らせること4時間半、未知なる 車止めに到着。ビールを飲み、間もなく来る朝に備えて暫し仮眠。
27日の朝が来た。5:00の目覚ましで起きて軽く朝食を食べてから出発。今回はマウンテンバイクを持ってきた。ガイドブックに よると昔の林道が残っているらしいので、行けるところまではチャリで楽をしようって寸法だ。
しかしその魂胆は間もなく打ち破られた。30分程進んだところで林道が崩れているのだ。しかもその先も、さらにその先も、見える 範囲は殆ど崩落しちたり土砂がのし掛かっていて、まともに進めない状況だ。
まぁある程度は予想していたことだから、諦めてマウンテンバイクを乗り捨てて先を行く。
しかし暑い。天気がいいのと、2人共ウェーダーを履いて荷を背負っているのと、運動不足のせいか?まだ歩き始めて1時間程度なの
に・・早速ダルい。
近くを流れる本流を見ると涼しげな流れが誘っているように見えるが、今日は目的地まで6時間近く掛かると想定しているから我慢し て歩く。
歩き始めて3時間経過。疲れてきた。まだ1/4位しか進んでいない。林道は50〜100mおきに大規模に崩れていて通過に手間取 ってばかりだ。暑いし。
川に目をやると、なにやら魚影が見える。我慢我慢。
そのまま歩いていくと、林道の端に何かの死骸がある。白骨と毛が散らばっているが、カモシカのようだ。
・・クマさんがいるんですね、やっぱり。
少々緊張したが疲れには敵わず、大の字になって休憩してはまた歩き出す。
更に1時間経過して、目的地まで半分を示す堰堤に到着。疲れた・・マジで暑いし。
堰堤下は殆ど水がなく、魚の気配はゼロだった。堰堤を登ってから林道までの階段は急角度で長く、これを登っただけで足が棒状態と なり10分の休憩を余儀なくされた。
再び歩き出して暫くすると、数十m先にグレーのずんぐりした動物を発見した。体長80cm位か?熊のようだ。しかし驚いている間 に向こうも俺達に気付き、すぐに林の中へ消えていった。
10:30になった。歩き始めて5時間経過。ここで山奥には似合わないガードレール付きの立派な橋に到達。林道の荒れも少し落ち
着いてきたが、だいぶ疲れてきた。
半端なく暑い。目的地まであと1/4位程度か。
しかしここからの曲がりくねった林道が急勾配で足がイカれそうになった。勾配がピークに達した頃にはもういっぱいいっぱいで汗が 滝状態だ。
それでもなんとか林道を登りきり、一息つこうと思ったその時、前方が開けて昔の伐採の現場のようなところに出た。
古い材木が散らばっていて、廃屋となった従業員の宿舎が5、6軒。作業用のレトロな車両も放置されている。
殆ど錆付いていたり大破していて、人の気配はない。休憩ついでに廃屋の中を覗いてみると、落ち葉や埃で荒れ放題で、なんとか雨宿 りできる程度だ。
現場跡を後にして歩き出すと間もなく、前方の林道脇でなにやら動物がじゃれ合って(争って?)いるようだ。
俺達に気付くとキジのような鳥がツラそーな動きで左へ飛び立ち、ずんぐりした動物が右に走り去った。先ほどの遭遇でクマも逃げる ことを知った俺達は、一瞬だけ疲れを忘れてクマを追う!
「クマ鍋じゃあー!!」
・・しかし奴は速かった。俺達は再び歩き始める。
暫く歩いて12時を回った頃、広大な河原に出た。川幅のわりに水の流れは浅く狭い。現場跡からは林道が消えて殆ど平らな踏み跡を
来たせいか、体力的には楽になってきた。
ここからは川通しで上ることになる。暑さも少しは凌げそうだ。
しかし目的地の山小屋までもう一息なのに見つからない。川を上りながらガイドブックのコピーと照らし合わせて探すが、どこを見て
も山、山、山だ。
ここまで来ると所々に雪が残っている。ヤバイ、明るいうちに宿を見つけなければ。
13時頃になってやっと到着。約8時間掛ってしまった。ちょっと見つけにくかったこの山小屋は、入り口に
雪が残っている。
テルテル坊主がぶら下がっている入り口の引き戸を開けてみた。
「おぉ、けっこう立派じゃん?」
20畳位あるその山小屋は誰も居ないようだ。軽く掃除をして荷物を置き、早速川に行く。
やっと今日の釣りができる。まずは近くの支流でエサを捕る。
・・あまりたくさん捕れなかったが、とりあえず竿を出す。
・・しかしアタリが無い。小屋の近くは河原が広いものの、流れはそれなりにある。しかしまったく反応がない。
1時間近く釣り上ってやっと1匹、7寸程のヤマトイワナが釣れた。腹部の朱色が鮮やかな魚だ。心を鬼にしてキープしたがその後も 釣れず、暗くなる前に竿を収めた。
魚を捌き、薪を拾いながら小屋に戻る。小屋周辺の木は雪に埋もれていて使えないから、再び河原まで出て薪を集める。
・・しかし使えるものは少なかった。
17:30を回って陽が沈み始め、小屋の中で火を熾す。
S河内の山小屋同様この小屋も真ん中の通路に石が組んであり、上からチェーンがぶら下がっている。ハンゴウとやかんをぶら下げて 食事の準備をするが、だんだん冷えてきたように思える。
ウェーダーを脱ぎ、安価スニーカーに履き替えて唯一の釣果も火にかける。
暗くなるにつれて火を熾していても冷え込んでくる小屋の中で考える。
(薪が足りそうもない・・。かなり冷えそうだが、ちゃんと眠れるか?)
実は今回もまだ寝袋を入手していない状態だ。経済的な理由もあるが、今年は雪が少なく暖かい日が続いたので「なんとかなるだろう」 とリュックに上着を詰め込んできたのだ。
なんとか食事を済ませ、時間は21時を回った。かなり寒くなってきたが、ナオキは持参したジャンパーに身を包み眠りに入ったよう だ。
相当疲れたんだろう。このクソ寒い中でよく眠れたものだ。俺は焚き火に薪を足しながらウイスキーを飲む。
これだけ標高の高い所まで来れば星もよく見えるだろうか。真っ暗な外に出て空を見上げてみた。
「ぉぉお、ド寒っ!」
一気に酔いが覚めそうだ。しかしブッシュと雲で星は見えない。
暫く呑んでいたが俺も眠くなってきた。リュックから上着を取り出す。しかし到底安眠など出来ない寒さだ。ウイスキーを流し込んで も震えが止まらなくなってきた。
眠い・・しかし寒い・・。意識が遠のいては目覚め、薪を足す。薪は湿気ているせいか端の方から徐々に燃えるため、炎が大きくなら ず暖を取り辛い。
ただ、一晩もたないと思っていた量の薪でもなんとか朝まで足りそうだ。
「イカン、眠っちゃダメだ。」
ナオキは体を丸めながらもなんとか睡眠を保っているようだが、時々呼吸しているか観察する。ああ、寝袋とか欲しい・・。
28日。薄暗い中目を覚ますとナオキがコーヒーを煎れていた。なんとか2人とも生きている。
熱いコーヒーをすすりながらタバコをふかす。
俺:「お前、よく眠れたなぁ?」
ナ:「何度も起きたよ。ってゆーか、ウェーダー穿いて寝ながらガタガタ震えていたぞ。」
そういえばいつの間にか俺はウェーダーを穿いている。どうやら酔いながら寝ぼけて寒さ対策を実施したらしい。
とりあえず全く休んだ気がしなかった。本当はもう一泊の予定だったが暗黙の了解で却下され、今日帰りながら竿を出すことになった 。
明るくなった頃、荷をまとめて山小屋を後にする。
俺は睡眠不足と二日酔いで足どりは重い。昨日来た道を戻り、カモシカや鹿に遭遇したりして2時間程歩いた。
昨日魚が見えたポイント辺りで荷をおろして竿を出す。他に人は来ていない様子だ。
昨日の鬱憤を晴らすべく入念に釣り上る。
7寸位を中心にボチボチ釣れるが、全て白点混じりのハイブリット岩魚だ。8寸級を数匹キープして竿を収める。
荷物の所まで戻ると事件が起きていた。
なんと、俺達のリュックに縛り付けたコンビニ袋が無残にも引き裂かれ、中にあった昼飯のパム(パン)が食い荒らされているではないか。
犯人はカモシカの足跡を残して消えていた・・。
昼飯を失った俺達は失意と疲労に打ちひしがれながらも、そこから3時間掛けてなんとか車に辿り着いたのだった。
長い長いH川釣行から帰って、今度こそ寝袋購入を決意。死ぬかと思った。