2001年5月4日
〜5日

俺達的伝説

(俺・ナオキ)



 今年のGWはついに泊りがけの釣行となった。目的地は前回味をしめたS河内で、ナオキと2人でエサ釣り・ルアー釣りの道具を持っ ての釣行だ。

 前回同様暗いうちに車止めに到着。小さいリュックサックを背負い、ウェーダーを穿いて急角度の踏み跡を下る。

 川底に降り立った頃には明るくなってきた。天気は晴れているものの、まだ少々雪が残っていて意外と冷える。まぁ上着を持ってきて いるからなんとかなるだろう。

意気込む弟

 90分程歩いて前回遊んだ最初のポイントに来た。早速竿を出すがエサ釣りもルアーにもあまり反応がない。目的地に急ぐこともあっ て、ナオキが7寸程の岩魚を釣ったところで上流に移動する。

 上流は未知の世界だがガイドブックのコピーと照らし合わせながら釣り上る。水量は結構ある。

 川がカーブするたびに大きな淵が現れて釣れそうだが釣れない。そのうちナオキが根掛かりした際に竿を折ってしまった。
  よってその後は必然的にルアー釣りに専念する事になるが、釣れる確率が低くなるのがわかっているので凹んでいた。

 エサとルアーで釣り上っていくと、一部狭いところに差しかかった。水量が多いので中を通すのはキツそうだ。

 悩んだあげくに右岸側を高巻くことにしたが、ウェーダーを穿いていて足元が軽快じゃないうえに荷を背負っているので厳しい。おま けに普段は使われていないようで、崩落寸前だ。

 なんとか右岸側の上に登れたが、木にしがみついて微妙なバランスを保たないと落ちてしまう状態だ。真下を覗いてみると8m下に河 原がある。恐い。落ちたらタダじゃ済まない。なんでこんなところを登ってしまったのか。

 しかしこんなところで怪我なんかしていられない。バランスを保てる範囲で手足を使って足場を探る。
  なんとか河原に降りたときは時間の経過など忘れ、ただただ無事であることを実感してしばらく休憩した。

 その後も川通しで上って行き、15時頃目的の山小屋の近くに到達した。河原から少し脇の方を探すと酷くボロい小屋の残骸があった 。

 思わず2人で顔を見合わせた。「小屋って、もしかしてコレか?」雨宿りさえままならない、まさに小屋の形跡 だ。
  考えに考えた結果、小屋の跡には頼らずに河原で一夜を過ごす決意をした。既に気温は下がり始め、なんだか不安になってきた。持参した 3m四方のブルーシートを木の枝から張って、2人で薪を集め始める。

 しかし河原には殆ど木が落ちていないから、林に向かって薪を拾っていると・・!なんと、立派な山小屋を発見 !!
  すぐには信じられず、目を疑ったが、確かに50m程先にある。急いでナオキを呼びに行く。

 息を切らせて2人で走る。よかった、消えてない。2人で喜び、とりあえず山小屋を見てみる。
  山小屋のまわりは切り株が多く、見晴らしがいい。雪がまだだいぶ残っているが、さっきの河原や形跡よりは全然良いだろう。
  入り口には薪が積まれており、引き戸を開けると中は10畳位の広さがある。真ん中に通路があって、向こう側にも同じような出入り口が ある。時々誰かが利用しているようだが、今日は誰も居ない。河原に戻って荷物を全て回収して、山小屋に引っ越した。

立派な山小屋に辿り着いたものの・・

 山小屋の中の通路は真ん中で焚き火をできるようになっていて、ハンゴウややかんをぶら下げるチェーンが上からぶら下がっている。
  ウェーダーを脱ぎ、持参した安価スニーカーに履きかえて夕食だ。

 しかし数年ぶりに使ったせいかハンゴウをうまく扱えず、少々固い米になってしまった。仕方がないから火に当たりながら川の水を沸 かしてコーヒーを飲む。

 コーヒーはうまいが、今日の釣果はナオキの釣った7寸岩魚のみ。そんな寂しさを打ち消すように持ってきた花火で遊ぼうと外に出た 。
  ところが、外に出ると5月とは思えないほどの寒気が・・!

 速攻で小屋に戻ると、この時初めてある疑問が浮かんだ。

(寝る時、持ってきた上着だけじゃ寒いんじゃないか・・?)

 そう、俺達の初の泊り掛け釣行の装備には寝袋なんてモノはないのだ。下界の生活を基準に考えていた為、寒かったら一枚着りゃいー だろ位の気構えだった。

 

 ・・そして時間が流れ、この夜は俺達的に伝説となった。

  

 俺もナオキも長い河原歩きと空腹で疲労が溜まっている。出来る事ならすぐに寝てしまいたいところだが、上着を着ていても着ている のがわからないほど寒い。
  2人の間にある焚き火が消えたら、俺達の命の灯火まで消えてしまいそうだ・・。そんな思いで体を横にして膝を抱えながら、薪を加え、 お互い生きているかを確認したりした。
  疲れてはいるが、眠いんだけど、寒くて寒くて寝られない・・。

 「眠ったら死ぬ・・。」

 生まれて初めてそう思い、朝日が顔を出すのをひたすら待ち望んだ。





 どれだけ待ったことか・・。とうとう5日の朝がきた。はっきり言って殆ど寝てない。断片的に記憶が飛んでいるものの、とても眠れ なかった。
  どうやら同じ状況ながらナオキも生きているようだ。昨晩から絶やさなかった焚き火で水を沸かし、コーヒーを飲む。そしてカロリーメイ トで朝食をとり、生きているという実感も味わう。

 完全に明るくなってから身支度を整える。そして・・。

「ここはシャレにならんな・・。」

 ・・と山小屋を後にした。

 帰りは来た道ではなく山の中の踏み跡を辿っていったのだが、踏み跡は殆ど消えかかっていて崩落しているところもあったので途中で 川に降りて帰ってきた。

 そして家に帰ってから、いつか必ず寝袋を買おうと思った。

 
帰路にて




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