第54回

54. < 舵角のヒステリシス >

舵角についての続きです、過渡域についての話ですので注意深く書いていきたいと思います。

前回速い倒しこみ時に逆操舵が見られることを説明しました、今回はその舵角の続きをみていきたいと思います。
まず図に挙げたプロットについて説明します、ロール角と舵角のプロットを富士スピードウェイのカートコースの各コーナーごとに挙げました、走ったことのある人の方がイメージしやすいかもですね、左コーナーで信号が正になるようにプロットしたのでちょっと見にくいですがしょうがない。
それぞれについて「倒しこみ」と「起こし」を色分けしました、寝かしこんで定常旋回までを赤、定常から起こしていく所を青で表しています、まさに過渡領域の話でやな感じです。

よく分かるのがT1,T3,T7です、他は前のコーナーからの繋がりがあるのと苦手なことでイマイチなプロットになってしまっています。
T1を見てみましょう、ストレートからの右タイトコーナーで一番わかりやすいです。 まずは倒しこみです赤の線です、前回述べたように倒しこみ初期に逆操舵が見られます、 そこから倒しこんでいくとロール角(リーン角)につれて舵角も増えていきます、倒しこんでいる間逆操舵だと思っている人もいるようなので強調しておきますが逆操舵なのは倒しこみの始めの一瞬だけでそのあとは順方向に切れていきます。
そのあとのぐちゃぐちゃしてる所は定常旋回でロール角、舵角が一定の旋回の部分です。
コーナーの立ち上がりでバイクを起こしていく所が青の線です、ここに面白い現象をみつけました、起こし時の逆操舵です、矢印で示したところですが定常から起こし始めるときにいったん舵角が増えています。
舵角を切り増しして起こしているということで起こし時の逆操舵です、もちろんライダーは切り増そうなんて思っていません。 次のコーナーへ向けて速く切り返さないといけないようなT1,T3,T7で見られますのでこれも倒しこみの時のように素早い起こしをする時の現象のようです、もちろん切り増しも一瞬だけで起こしていくに伴って舵角は小さくなっていきます。

ロールに対する舵角の関係を左上の図にまとめました、倒しこみ時は一瞬の逆操舵から倒すにつれだんだん舵角が増えていき、起こすときは切り増しの逆操舵から起こすにつれて舵角が減っていきます。
そして倒しこみと起こしではヒステリシスがあります、ヒステリシスというのは行きと帰りで違う軌跡を描いているということで結果として倒しこみと起こしが一本の線にならず幅を持ちます。 ヒステリシスがあるということはロール角に対して舵角が遅れや進みの時差があるということで今回の場合ロール角に対して舵角が遅れてきています。 大きいRのコーナーやロードバイクで高速道路を走るようなゆっくりとした(周波数の低い)ロールではヒステリシスは小さく倒しこみと起こしの時の舵角はほぼ重なる軌跡になります、一方レースのシケインのように早い倒しこみと速い切り返し(周波数の高い)のロールではヒステリシスは大きいものになります。
速い動きには遅れの影響が大きくなるということです。
ヒステリシスが大きいということはどういうことかというと寝かしこんでいく時には舵角がつきにくいのでバイクはパタンと倒れようとします、起こすときには舵角が減りにくいので加速と共にバイクが起きてきます。
舵角の遅れがうまいこと速いロールを助けることになっているといえそうですね。

遅れは何にでもあるものです重いものは動きにくく軽いものは動きやすいです、慣性ですね、ステアリング回りの慣性モーメントが舵角の遅れにつながるのは間違いないでしょう、ステアリング回りの慣性モーメントは重量、キャスター、トレールなどに影響されます。
もう一つ遅れに影響してる厄介なものがライダーです、ハンドルを押したり引いたりして舵角が増えるようにも減るようにも介入できます、うまくいけば倒し込み、起こしを自在にコントロールできるでしょうが下手すると逆のことにもなりますし定常旋回まで舵角を減らすように押してると舵角が足りなくて旋回半径が大きくなってしまいます。
まずはハンドル入力なしでちゃんと乗れるようになってから試せばいいと思います。 “Walk before you can run”てやつですね。
私もライディングスクールで8の字の時にハンドルに力が入っててセルフステアを殺してるって注意されました。

最後にT8についてです。
T8はほかのプロットの逆で倒しこみの時舵角が大きくついて起こすときの舵角が小さいです、赤と青の線の上下の位置関係がほかのプロットと逆です。
もうT7の出口ではらむのでT8は全然曲がれません、なので失速してパタンと倒れ気味に入って行ってそのままだと転んじゃうので加速して起こしています。
通常の旋回というより舵角で曲がりアクセルで起こすジムカーナのような走り方です。
本人は多少切ってるかなくらいの気持ちはありますがこんなに違うとは思いませんでした。ジムカーナ走行のデータも取れたら興味深い結果が出そうです。



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