第44回

44. < チェーン駆動のアンチスクォート率 (2) >

チェーン駆動のアンチスクォート率が算出できるようになったら実際バイクのアンチスクォートってどれくらいよ?
って思いますよね。じゃあみなさん自分のバイクの各点の座標を測って計算してみましょう、って言ってもなかなかやりませんよね。
今回見た感じで簡単に当たりをつけてみてそれを確認したいと思います。

2台のバイクの側面からの写真を持ってきました、大意はないです、きれいな側面からの写真が見つかったのがKTM だったということで、KTMなら写真使用にも優しそうだし。 同じエンジン、フレームで車高違いの車種があるのも好都合です。
KTMのスーパーアドベンチャーとスーパーデュークです。

チェーンとスイングアームの延長線をひいて交点を求めます、結構難しいです、まあそんな精度は求めてないので良しとしましょう。交点から後輪接地点に線を引いて地面との角度がβです、アンチスクォート角ですね。

次にライダー込みの重心点です、これも大体です、まあ大きくは外してないでしょう。 角度ωを描きたいんですがそのtanωが H/WB というのは前回出てきました、つまり後輪接地点から横にWB行って縦にH行ったところですから全軸位置で高さが重心位置の所へ点を打ちます。
そこから後輪接地点に線を引けば地面との角度がωです。

βとωの角度の線が引けました、もともとの求め方が大体なので何度かを気にしてもしょうがありません、どんな感じかを見ていきます。
左のスーパーアドベンチャーだとβの線もωの線も近い所にありますよね。
右のスーパーデュークは車高が下がった分重心が下がってスイングアームの角度が変わりβもωも変化しています。 チェーン、スイングアームのなす角度ωの変化の方が大きくて左のスーパーアドベンチャーよりは差が出ています、しかしβはωの半分なんてことはありません、2輪車のβとωの関係はおおよそ近いと言っていいんじゃないでしょうか?

それは何を意味するかというと %Antisquat は図にもあるように%Antisquat=tanβ/tanωx100 ですから βとωが近いということは%Antisquat は100%に近いということです。 100%のアンチスクォートというのは加速時リヤが全然沈まないということです。
バイクの多くは加速時にリヤはろくに沈んでないというのが写真から分かってきます。

「そんななことはないぞ、加速の時ピッチ角すごいぞ」っていう声が聞こえてきそうですね。 でもそれってリヤが沈んでるからじゃなくてフロントが伸びるからじゃない?

実は実際の測定データがあります。
いきなりデータだけ出しても「うそでー」って拒絶反応が出ちゃうので概算を先に出して大体それくらいなんだというのを理解してもらってから出そうということです。
右下のグラフを見てください、加速時のフロントとリヤのホイールストロークです、バイクは大型バイクで1速で20km/hから50km/hへ全開加速です(トラクションコントロールON)です。

マゼンダがフロント、青色の線がリヤのストロークです、フロントは盛大に伸びてますね、リヤはどうです? 全然縮んででないどころか若干ですが伸びています。
そうなんですよバイクのアンチスクォートって100%近辺なんですよ。
加速時にピッチングするのはフロントが上がるからというのが主な理由でしょう、乗っている前側の動きはよく見えますから感じやすいのでしょう。

もちろんアンチスクォート率はバイクによって違います、重心地やスイングアームの座標などはバイクによってそれぞれですから。
でもこの1台はアンチスクォートが20%なんてことはないんだと思います。
そして1台のバイクでもサスペンションがストロークしていくにしたがってアンチスクォート率は変化していきます、それを一部表しているのがスーパーアドベンチャーとスーパーデュークの比較です。
シャフトドライブのアンスクォートは確実に100%を超えます、アンチスクォート角βがスイングアームピボットと接地点を結んだ線の角度だからです、シャフトドライブが加速時尻が持ち上がるのは有名ですよね。
BMWのパラレバーはシャフト駆動ですが尻上がりの癖をなくすためにスイングアームピボット点を仮想点として上下アームの延長交点としたことでアンチスクォート角を自由に設定できるようになっています。


細かいこと言ったらスプロケット比を変えてもスクォートは変化することになります。
70年代にヤマハTZ250/350ってレース用のバイクがあったんですが同じバイクで排気量だけ違うバイクです。 このバイク、パワーの違いでギヤ比を変えるのを一次減速でやっていたんですね、私は350を持っていて250ccのシリンダーにして乗っていたんですが一次減速が350用のままだったのでスプロケがほかの250と全然違っていました。 その時はアンチスクォートなんて知らなかったから総減速比があってりゃ良いだろうとおもってましたがヤマハの人たちはチェーンの角度は変えちゃいけないって分かっていてスプロケ比じゃなくて一次減速比を変えたんですかね?



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