第32回

32. < 非線形ばね定数 >

空車、積車で重量変化率が大きい車両はばねを非線形にして空車と積車の共振周波数の変化を小さくして乗り心地への影響を抑えたいところです。 重量変化率の大きい車両とは元々の重量が軽い程変化率は大きくなりますから軽自動車なんかがそうですね。
でも軽自動車はコスト重視なのであまり非線形ばねとかは使われません、なので軽自動車にたくさん乗るとブワンブワンです。

2段ばねという非線形ばねが2輪ではよく使われます、ばねの巻きピッチが途中から密になるものです、写真がそれです。
2輪も1人乗りと二人乗り+荷物では大きく重量が違ってくるのでばね定数を変えたくて採用されていますが多くの場合変化が極端です、ばね定数が5割くらい上がっちゃったりします、東南アジアの4人乗り、100kgを超える人の二人乗りを考えるとそうなっちゃうんでしょうか。
こんな2段スプリングを1人乗りでサーキット走行に使ったりすると高負荷で大きくストロークすると固い領域に入っちゃったりして柔らかいんだか固いんだかわからないフィーリングになったりします、なので線形スプリングに交換されちゃいますね。

巻きピッチを変化させてるとどうしてばね定数が変化するかは26回、31回でも述べましたがおさらいすると
ばね定数は巻き数に反比例
ばねが縮んでピッチが密なとこが密着してばねとして機能しなくなる
密着した分の巻き数が減るのでばねが固くなる

このタイプのばねは不等ピッチスプリングとも呼ばれますがピッチが密な部分が密着するポイントの荷重、変位は後から変えられません。
4輪のレース用でもまれに2段スプリングが使われることがありました(通常はバンプラバーを使います)、そんな時ばね定数の変化点を変えられないと使いにくいので不等ピッチスプリングではなく図のtype-Aのような組み合わせスプリングが使われました。
これは2つのスプリングを組み合わせるのですが一方にはストロークを制限するストッパーを入れてあります、ストッパーが密ピッチ部の密着と同等の働きをするのです。

例として話が簡単になるようにばね定数Kの同じばねを組み合わせた物を挙げています、同じばね定数のばねを直列につないだらばね定数は? 半分(1/2K)ですね。
ばねが撓んでストッパーが当たったらもう撓めないのでもう一つのばねだけが撓みます、その時のばね定数はもちろん“K”です。
これのばね特性はグラフの青線のようになります、ばね定数“1/2K“から”K”に変化します。
ストッパーの長さを変えてギャップを調節すればばね定数が変化するポイントも自由に変えられます、2つのスプリングのばね定数を選べば折れ点前後のばね定数も自由自在です。
さらにストロークの最後でバンプラバーに当たるようにすればもっといろいろなばね特性を実現できます。

組み合わせスプリングのもう一つの例としてtype-Bがあります、これは高荷重でばね定数が低くなるようにしたものです。
これはちょっと特殊な使い方でリヤに使って直線で後ろ下がりの姿勢になるようにして空気抵抗を減らして最高速を向上するために使われた方法です。
あるいは後ろ下がりの姿勢になることでフロントフロアを持ち上げて直線でのポーポジングを防ぐ効果もあります。
高速コーナーまではばねが固くてきちんと車高を保って、直線だけばねが柔らかくなるようにプレロードを設定しないといけません。
でもこういうギミックに頼ろうとしている時は車両やチームがあんまりいい状態じゃない事が多いようです、ですから過去に出てきては消え、出てきては消えしている使い方です。

一応仕組みを説明しておくと1つのばねにはプレロードが掛かっています、ですからばね荷重がプレロードになるまではばねは撓み始めません、という事は始めはもう一つのばねのみが機能しばね定数は“K”です。
荷重がプレロードを超えると2つのばねが機能しますからばね定数は? 半分(1/2K)ですね。



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