第97回

97. <アクティブサスペンション、Mercedes Benz (アクティブボディコントロール(ABC)、マジックボディコントロール(MBC)>

YouTubeに面白い動画があったのでこれも取り上げないと、ということでアクティブサスペンションです。

http://www.youtube.com/watch?v=940wGYCeQ68 (リンク切れの場合は“Mercedes magic body control” で検索)

(注意しなきゃいけないのはこの手の性能比較でありがちな制御あり、なしの比較です。制御が前提の車の制御なしが悪いのは当たり前です、ここはきちんとMBCのついていない標準のサスペンション車と比較してもらわないとフェアじゃないですね。)


本講座はダンパーとダンパーの関わる車両の上下動の話を目的にしているので、上下に加えロール、ピッチ方向の制御もたくさん入ってくるアクティブサスペンションはあえて取り上げなかったんですがまあ上下の話だけということで。 アクティブサスペンションにはアクティブとかセミアクティブとかありますがアクティブというなら自分で動力源を持って車体を動かすサスペンションでないといけません。 古くは80年代のF1に始まり、三菱ギャラン、バブル期の日産 Q45、トヨタ ソアラ (セリカは除外しておきます)がありましたがその後ぱったり姿を見せなくなりました。 ギャランは空圧でパワー、レスポンスが今一つですがアクティブでした、Q45で油圧、コイルばね併用、ソアラで全油圧とエスカレートしました。 ギャランで0.2g位、Q45で0.5g、(ソアラは不明)までゼロロールを達成していました。

あ、蛇足ですがそのころメーカーが少しロールさせた方が人間の感性に合って安全みたいなことを言っていましたが、あれは単に力が足りなくて高い横gでロールしてしまうのをうまく言い逃れただけだと思います。 もう一つ言っておくとアクティブサスペンションのゼロロールと固いサスペンションのゼロロール全然違うもので、アクティブサスペンションはロールはしないのに乗り心地を犠牲にしていないことです。 実際アクティブサスの車に乗るとコーナーを攻めてるのにロールしてないのに乗り心地は普通のままでちょっと別世界の感じです。

閑話休題
そして21世紀になってメルセデス(M.B.)からアクティブボディコントロールというものがS、SLクラスに搭載されています。 上記のバブリーな日本車のアクティブサスペンションと何が違うのでしょうか? 簡単に言うとどの領域までアクティブに制御するかが違うのです。

制御領域を周波数順でただの車高調整、操舵領域、乗り心地A,Bに分けてみました。 車高調整はアクティブサスペンションではないですが油空圧で車体の姿勢を変えるので0Hzの制御としておきます。 その上の周波数が操舵領域です、え?と思うかもしれませんが操舵の周波数は低いのです、たとえば1つのコーナーをステアリング切込みから戻し終わりまで5秒で抜けたとしたら操舵周波数はたった0.2Hzですよ。だめなドライバーが小刻みに修正操舵を繰り返しても1.5Hz位でしょう。 次が乗り心地領域(A)のばね上共振ちょっと先までで4Hz、次が乗り心地領域(B)で、ブルブル、継ぎ目ショック(ハーシュとか専門家は言いますね)までカバーする30Hz。

制御周波数が違うと何が変わるのでしょう? 必要パワーが変わるのです、パワーとは油圧ポンプの出力のことです、モーター出力1500Wとか言うあれです、ちなみに1500Wで2馬力です。 もちろん車重でも必要パワーは変わりますが同じ車にアクティブサスペンションを搭載するとしてどの周波数までアクティブ制御するかでポンプ必要パワーが変わってくるのです。 もちろん高い周波数まで制御しようとすると大きなパワーが必要になります。

では話を戻すとバブリーアクティブサスペンションは操舵、乗り心地Aまでの4Hzを制御していました、だからロール制御はもちろんスカイフックによるフワフワの抑制も行っていました、高速道路のフラット感などは大したものでした。

対してM.B.のABCはハンドリングまでで1Hzちょっと程度の制御と思います、言ってみれば速い車高調整みたいなもんです、実際ハードウェアは巷に売られている車高調整ダンパーのねじ部に油圧ジャッキを仕込んでそれで車高を変えるシステムです。 M.B.のアクティブボディコントロールは制御領域を割り切ることでシステムを軽く小さくしています、ポンプ出力も低くていいし、そうなれば油圧の制御バルブも小容量の物でよくなります。 実際アクティブボディコントロールの解説には乗り心地の話は出てきません、メルセデスジャパンのホームページ(http://techcenter.mercedes-benz.com/ja_JP/abc/detail.html)では 「ABCは発進時、コーナリング時、ブレーキング時に通常発生する車体のロールやピッチを効果的に補正するほか、横風の中でも車体を安定させます」となっています。


ではそんな遅い制御システムがYouTubeにあるように段差をすっと越えられたりするのでしょう? マジックボディコントロールとはYouTubeによるとステレオカメラで路面の凸凹を検知してそれに合わせて車輪を動かすから段差を超える時もショックが全然ないと言っています。 カメラで路面を先読みしてタイミングを合わせて車高を制御することで操舵領域までしかない応答性を補っているんでしょう。

メルセデスから5年くらい前にはレーザーで路面を測っているという文献がありましたが、うまくいかなかったのかディストロニクスでカメラを使うようになったから共用することにしたのかどうなんでしょう。

バブルのころの80年代にもすでに先読みの研究はされていました、その頃はセンサーは高くてカメラなんて使えなくて超音波センサー位でした、バンパーについていて駐車の時にピーピーいうあのセンサーですね。だから凸か凹かわからないし遠くまで届かないし雨の日は検知率が低いとかで実用にはなりませんでした。



メルセデス、ABCで検索すると不具合とその修理屋さんのページがたくさんヒットします。シトロエンも今はもう駐車していて車高が下がったりしませんが昔は朝見たらぺったんこになってたりしたもんです、油圧サスは信頼性の確保が大変だと思います。

Copyright(C) 2007-2014   富樫研究開発