第69回

69. <ニードル式アジャスター>

今回はちょっとマニアックな話題です、アジャスターの性能についてです。
 
低速のアジャスターに使われている機構は昔からニードル式がほとんどです。 ニードル式とは穴に先の尖ったニードルをねじを使ってねじ込み、そのねじ込み量を調整して穴とニードルの隙間の面積を調整するものです。この面積がオリフィスになります。
 
ニードルをねじ込んで行けば穴との隙間は小さくなりオリフィス面積も小さくなります、減衰力は高くなりますね、逆に緩めて行けばオリフィスは大きくなり減衰力は低くなります。
 
低速のアジャスターを緩めて行くと回した回転量、あるいはクリックの数に比例して減衰力が変わると思うでしょう。例えば最強と最弱の中間位置ならちょうと中間の減衰力だろうと、でもそうではないんです。
 
これはニードルによるオリフィス面積の変化が影響しています。 図にニードル式のアジャスターを示しました、穴の径は3mmです、ここに20°の角度のニードルが上下して穴との隙間が変わり開口面積が変化します。
さあ開口面積の変化はどうなるでしょう?

グラフにニードルの変位と開口面積を示しました、開口面積の変化は全体に垂れた形です、はじめのうちはまあ直線的ですが後のほうはだんだん寝てきます、しまいにはニードルが全部穴から抜けてしますので平らになってしまいます。

アジャスターとして減衰力の変化を大きくしたいでしょう、ここでニードル変位を0から8mmまでの全閉から全開まで使ったら面積の変化は最大です、カチカチからフワフワまで変化させられるでしょう。 でも全開付近は回しても面積が変化しないしついてるだけになっちゃいます。 それにフワフワもカチカチも実際には必要なくて売るほうが「こんなに変化するんですよ、すごいでしょっ」って言うためにあるだけです。

ではたとえば直線的な1mmから4mmまで使うとしましょう、これを20クリックに分割して使うことにしましょう。この辺なら1クリック当たりの面積変化はだいたい同じくらいです。

それでダンパーを作って見ます、クリックごとに同じくらい減衰力は変化するでしょうか? 全然しません。 減衰力はオリフィスの開口面積の2乗に反比例でしたね、面積が二倍になると減衰力は1/4になるのです、クリックごとに同じだけ減衰力が変わるわけがありません。

どれくらいだめか計算しました、例の場合クリック(1)での減衰力を100%とすると最初の2クリックでもう始めの半分以下の減衰力しかありません、さらにクリック(6)から(10)はろくに減衰力が変わりません。

「もう2クリック緩めてみようかなぁ」なんて言っても(1)から2クリックと(7)から2クリックじゃ大違いです。

ニードルを使ってるダンパーのアジャスターはこんなもんです。 でもほとんど全てのダンパーがニードルを使っています、例外は私の知る限りオーリンズのTT44と円盤とか筒にクリックごとに違う径の穴の開いてるのだけです。 何ででしょう? まあニードルは安くて作るのも簡単だからでしょうね。

次の回では減衰力を同じだけづつ変化させるにはどうしたらいいか解説します。

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